第三話 魔族襲撃〈レイナ視点〉
三連投稿第一話目です、ブックマーク、星もお願いします。
ごきげんよう、どうも初めまして私スタン伯爵の娘レイナという者で所謂この国の貴族という立場におります。ただし私自身としてはこの血に対して特別に何か思い入れがあるわけではありませんし、この立場を利用して威張ってやろうと思っているわけでもありません。朝起きた事?さあ、忘れましたわ・・・
そんな私は今年から入る事になった国立の魔法学園の入学式に出席していたのですが、まさかこんな事になるとは思いもしませんでしたの。けど予想できなかったのは私だけではないと思います。
だって王都の中にある学園に十数人ほどの魔族が侵入してきたのですから。
「レイナ様!」
護衛の騎士がすぐさま前に立って私を庇います。いくら生徒の中で腕が立つものでも、生徒が魔族に対して手も足も出ないのは当たり前ですから。それも魔族と言うのは種族によりますが大体戦力として平の騎士団員が十人でないと相手にならない化け物なのですから。
それに今学園を襲撃をして来ている魔族は本で見た事があった『魔装族』という、魔力の鎧を身に纏い全員が意思を持つ種族でしたの。意思を持てるということは魔法を操る事ができるということですわ。
「ヒャハハハ!人間がいっぱいだー!」
魔族はそう言って笑いながら挨拶代わりと思ってなのか、数発の魔法を生徒が座っている方に向かって発射いたしました。しかしこの中で魔族に対して攻撃できる者はいません、先程までおられた騎士団長たちは祝辞を終えると本部へ帰ってしまわれました。生徒の中で実力のある者や先生達はまだ力のない中学生や入学したての下級生を守るので精一杯です
「《魔炎球》」
魔族が放ってきた魔法は水、炎、土、風、雷の五属性のうち、炎属性の初級魔法にあたる《火炎球》でした。しかしその魔法は術式を扱った魔族が纏っていた魔装の魔力の性質により黒く変質しています、凶悪な黒炎が生徒たちを守る障壁魔法に直撃すると思われたその瞬間。
「《水流壁》」
何の前触れもなく目の前に厚い水の壁ができました、これはもしや水属性の中級魔法ですの?魔法名が聞こえてきた方向を見てみると、そこにいたのは今朝下駄箱で喧嘩した方の横で慌てていたお友達でした。
他の生徒も驚きながら見つめる中その方の後ろに人の頭くらいの大きさの黄色の光を放つ魔法陣が五個形成され、彼に気付いた魔族が魔法を放つとその魔法陣から目で追うのもやっとのスピードで石の弾丸が発射されました。その弾丸は魔法を貫いてその先にいた魔族五人の急所を的確に貫きました。
「なぜ、なぜ普通の魔法で魔族の皮膚を貫けるのだ!」
横で護衛が驚きに声を震わせながらつぶやきました、これには私も今この光景を見ている全員が思っている事ですの。魔族の表皮は全員というわけではありませんが大抵が岩のように固く、特に魔装族の体は並の魔力を込めた魔法では貫けません。
それこそ高位魔法などが妥当でしょうか?けれども彼はそんな魔族を、紙を貫くようにように普通の初級魔法である《石弾丸》らしき魔法で貫きましたの。これはとても異常なことですのよ。
「な、何だテメェは!騎士団長か?」
魔族は自分たちの強さに絶対の自信があったのか、攻撃された上に仲間を倒され動揺しています。それはこちらの学園側も同様で、教師は戦っている彼を呼び戻そうとしますが魔族の牽制で動けません。生徒たちは全員教師陣の張った結界の中の陰に隠れています。
教師は生徒を守る結界を維持しなければならないので、体力を尽かして魔族に殺されてしまうといけません。そのため上手く実力を発揮する事ができず、今戦っている魔族を倒せそうな彼に頑張ってもらうしか自分達が生徒を守る方法がないのです。
「今日入学した学生だよ!」
魔族の質問に答えながら彼が剣を振るうと魔族の肘から先が斬られて宙を舞います、その断面は綺麗な平面でまるで豆腐でも切ってかのようです。
「俺が腕を斬られただと!?」
魔族はすっかりこのイレギュラーな出来事に驚いており、初めの自信は今は見る影もありませんわ。
キラッ
彼の戦いをハラハラして見守っていると何かが視界の端で一瞬光りました、光が見えたのは戦っているあのお方が飛び出して来た方向です。何でしょう、とそちらを向いてみますと・・・
「あ、あれは・・・!」
ついうっかり声が漏れてしまいましたわ。
「いかがなさいましたか?」
「い、いいえ!何でもありませんわ!」
私の目に映ったのは戦いを見守る生徒たちの中でなぜかピースサインしている人でしたの、誰かと思うとあの下駄箱であった何だか頑固そうだったあの方です・・・確か鶴金でしたっけ。
「うーん、もう少し上かな?」
なんて事を言って腕の微調整をしています、全く何をこんな時にピースサインの練習をしていらっしゃるの!?もう少し上なんて知るもんですか!鶴金さんの頭は大丈夫でして?
心の中でツッコミの嵐が吹き荒れているのに驚きの光景はまだ続きます、何と鶴金さんがピースサインしていると思っていた人差し指と中指の間に石の弾丸を作ったのです。そして・・・
「《精密弾丸》」
聞いたこともない魔法でしたがその効果は目に見えて絶大です、戦っている方の頭を、魔法で狙っていた魔族の腕を見事に撃ち抜きましたの。しかも単に撃ち抜いただけではなく、仕組みはわかりませんがその周りの部位を抉っていったのですから恐ろしい威力です。しかもあろう事かそれを両手で撃っています。
普通入学したての生徒は下位魔法だったとしても両手で同時に同じ魔法を構築するなんてことは不可能です、しかし鶴金さんはそれを素早く正確に行ったのですからそれは衝撃的でした。
「【空筆第五】」
鶴金さんがそう言った瞬間戦っている方の背に五門の魔法陣が描かれましたの、一体今の瞬間に何が起きまして?
「あ、ありえない・・・」
普段貴族の一員として模範的行動を示すために感情の制御を練習しているこの私でさえも、つい声に出してしまいましたの。離れたところの魔力を操って空中に魔法陣を描くなんて非常識ですの、それも一つではなく五つなんて。
「《雷撃》」
私はもうよく分からない存在に失神しかけます。だって最初のも合わせて基本の五属性のうち今まで鶴金さんが扱ったのは水、土、雷の三つ、属性を三つ使えるなんて本当に高校生のなりたてなのか疑わしくなりますわ。この歳で三属性扱えると普通神童扱いなのにそれを・・・
一人は陰に徹していましたがそれでも鶴金さんとご友人の二人の活躍で、たった数分の内に十数人ほどいた魔族が数えるほどしかいなくなりました。すると唐突に一人の魔族がこちらを向きました、まさか!
「女あああぁ!こっちへ来い!」
その魔族がものすごい速さで走って向かって来ました、目が合ったので私を狙っていることは間違いありません。護衛が立ち向かいますが勝てるはずもなく突き飛ばされます。死ななかったのが幸というべきか、護衛は壁に打ち付けられて意識を手放しました。そんな護衛を無視し魔族は私の手首を無理やり掴みます。
「さあ、一緒に来い!」
「痛いですわ、やめなさい!」
私は魔族に少しでも抵抗しようとしますが魔族の力に勝てるはずもありません。
「キーキーキーキー、うっせーんだよ!」
大人しくしない私に堪忍袋の尾が切れたのか魔族が鳩尾を殴りつけました、ドンッという身体中に響くような重い衝撃が来て全身の力が抜けていきます。幸い意識は残ったものの体が震えて全く動きません、咄嗟に剣を出せたらよかったのですが飛ばされた護衛に一瞬意識を向けたことが仇となりましたの。
「こいつは人質だ!殺されたくなければ俺たちを見逃せ!」
講堂にいる全員に聞こえるような大声で叫んだ魔族の声を聞いて鶴金さんや魔族と戦っていた方も動きを止めます。
「その子を離せ!」
「うっるせぇ!殺すぞ!」
魔族と戦っていた方がゆっくり近寄ろうとすると魔族は魔法で作った即席の剣を私の喉に突き付け、喉に剣の刃が当たりそこから一筋の血が首を流れます。
「いいか、絶対に近寄るなよ!」
他の魔族はすでに鶴金さん達によって全員殺されており、唯一の生き残りになったこの魔族は相当焦っているようです。
「そこで指を咥えて見てるんだなあ、ハハハハ!」
「くっ!」
魔族を倒した方は私が人質になっているので一歩も動けずに、歯を食いしばって悔しそうに顔を歪めます。あの非常識な魔法を使う鶴金さんが座っていた方見てみると、さっきまでいたはずの姿が全く見えません。
「じゃーな!」
ジリジリと壁際まで寄った魔族は私を抱えて侵入する時に破った窓を飛び越え外に出ました、講堂の外に着地した魔族は学園の敷地を風のような速度で走り出します。
ただその動きにどこか少し違和感を抱きました。少し考えるとその違和感の原因はすぐに分かりました、講堂内にいたときの魔族の動きがここまで速くなかったのです。もしかして本気を出してなかった?でも何でそんなむざむざ殺されるようなことをしたのでしょう?
「さっきはなぜあんなに体が重かったんだ?」
理由を考えていると魔族も同じことを感じたようで不思議そうに首を傾げます、つまり誰かが魔族の動きを最小限に封じていたという事です。聞いた事ないですが学園が張っている結界にそういう効果があったのでしょうか?
「まあこんな上玉が手に入ったならいいか、今日は仲間と目一杯可愛がってやるからな」
魔族がそう言いながらニタッと笑って私のお尻を撫でます。不快さに全身に鳥肌が立ちますが体が、先程の衝撃で動けない私は全く抵抗できません。
「ようし、そろそろ学園の外だな。少し危ない場面もあったが結果としては実質プラマイゼロだな!」
「ふーん、それって俺がこれからする事をカウントした上でのプラマイゼロ?」
答える者のいないはずの魔族の独り言に返事をする声が聞こえましたの、とっても聞き覚えのある少し能天気ですけどしっかりとした頼もしい声です。
「だ、誰だ!」
魔族は追いつかれると思っていなかったのか驚いて立ち止まり、声の主を探して急いで周りを見渡します。魔族は動揺して気付いていないですが、私を抱えている腕の力が緩んでいます。
「ここだよ、ここ!」
私を抱えていた魔族の腕緩んでいる隙に腕が体から外されて、代わりに上空に引き上げられて浮いている誰かにお姫様抱っこされました。
「大丈夫か伯爵令嬢のレイナさん?」
「あ、あなたは!」
そこにいたのはやはりと言うべきか彼でした。背中には魔力で作ったのか半透明に光る鳥の翼を広げており、それで空を飛んでいるようです。下駄箱で喧嘩をしたときとはまるで違う雰囲気を纏っている彼を見ていると何だか自分の顔が熱くなって来ます、だって彼がまるで物語に出てくる王子様のようでとても・・・
「あれ?風邪?体は動きますか?」
彼が心配したのか私の顔を覗き込みながら額にそっと手を当ててきますが、むしろ私に取ってはそっちの方が心臓に悪いですの!
「え?ええ!大丈夫ですわ!」
バタバタとしたジェスチャーで自分で立てるという意思表示をします、早くこの状況から解放されないとあまりの距離の近さに刺激が強すぎて本当に熱が出てしまいますの。
「でもレイナを取り返せて本当によかったぁ」
彼はジェスチャーの意味を理解してくれたのか私を優しく下ろすとニコッと優しい笑みを浮かべました、そして・・・
「さーて魔族さん?俺、嫌いなんだよね。襲うくせに襲われる覚悟のないやつ」
私を奪われて焦っている逃げようか迷っている魔族を鶴金さんが呼び止めます。そして恐る恐るこちらを向いた魔族に笑顔を向けました、笑顔と言っても横から見えたその笑顔はまるで悪魔のようでした。
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