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8話

 


 真っ白い空間に自由の女神くらいの大きさの女神が現れた。緑色のドレスを身に纏った肢体も整った顔も完璧なる左右均等で、さすがは女神と言った美しさだ。


「待っていましたよ女神様」


 馴れ馴れしくも声を掛けたのは、自信ありげな顔をした40代くらいの冴えない風貌の男。そしてテーブルの上には分厚い本を読んでいる黒猫がいる。


「ずいぶんと自信がありそうじゃないか鏑木かぶらき 驢馬ろば


「どうなるかは分かりませんけど、これなら勝てるかもしれないという勝負の方法を必死で考えました。たぶん今までの人生で一番頭を使ったと思います。これからの僕の人生が掛かっていますから」


「そう………」


 女神は微笑む。


 今までは優しさを感じさせる笑みだったのが、勝負に挑む者の笑みをしていること。神とは言っても精神が少しも揺るがないというわけではなく、人間らしさも持っていることがわかる。


「楽しみだよ、いままで異世界に何人も送って来たけど、勝負を挑んできた人間はいなかったよ」


「そうなんですか………多分それは僕だけが自分が異世界に行くことになったらどうしようかと、真剣に考えたことがあるからだと思います。神様に勝負を挑むというのは、その時考えていたことなんです」


 やや早口で言った。


「ふふ………」


 何かに気が付いたように女神は笑う。


「そんな妄想ばかりしているという事は、驢馬はずいぶんと暇なんだね。人間の世界にはもっと考えた方が良いことが沢山あるんじゃないの?戦争とか地球環境とか」


「すいません、恥ずかしいです」


「そんなに顔を赤くしないでくれよ、ちょっとした冗談のつもりだったんだ。何を考えるかは自由なんだからいいんだよ」


 顔を赤くして俯いている驢馬に言う。


「こんなこと今まで他の人に言ったことが無かったので本当に恥ずかしいです。そんなことわざわざ自分から言うこと無かったって反省しています」


「そんな落ち込んだ顔をしないでくれよ。驢馬ってば本当に面白いね。一生閉じ込めて飼いたいくらいだよ、どうだい?君はずいぶんと怠惰な性格らしいから私に飼われて見るというのは。文字通り永遠の時間を怠惰に過ごさせてあげるよ」


「ふぇ!?」


 目を真ん丸にして驚く驢馬を見た女神は声を出して笑った。


「それじゃあそろそろ驢馬が考えた勝負の方法を教えてもらってもいいかな?」


 ひとしきり笑った後、また勝負師の顔になって言った。


「わ、わかりました………それでは僕が提案する勝負はーーー」


 女神の恐ろしい発言に心臓をバクバクさせながらも、驢馬はゆっくり、そしてはっきりとした口調で自身が考えた勝負の内容を語りだす。


 〇 制限時間は3分間。


 〇 この時間の間、女神は一切声を出してはいけない、表情を変化させてはならない、体を動かしてはいけない、魔法を使用してはいけない。


 〇 この勝負の結果がどうあれ鏑木かぶらき 驢馬ろばに対し、一切の悪影響を与えてはいけない。


 〇 女神は妨害、暴力を使用してはいけない。


 〇 鏑木かぶらき 驢馬ろばが勝利した場合、十分な褒賞を与えること。



「この条件で勝負させてもらうというのはどうでしょうか?」


「面白いじゃない………」


 どこか獰猛にも見える笑みを浮かべる。


「つまり驢馬は3分間の間に私に対して驚かせたり、笑わせたりして何らかのアクションを取らせるという事だね。そして私はそれに対して一切の反応をしてはいけない」


「さすがは女神様です。一度聞いただけで全てを理解するなんて………」


「お世辞なんかいらないよ。確認だけど2つ目のルールはどういうことなの?」


「これはつまりですね、もし女神様がこの勝負に負けたからと言って、僕に嫌がらせをしてはいけない、ということですね」


「なんだそういうことなのか。そんなことするわけが無いじゃないの」


 女神は微笑む。


「もちろんです。話していてとても理性的な方なのは分かっているんですけど、安心が欲しいんです、お願いします」


 自分の脛に頭が付きそうなほど頭を下げる。


「わかったよ。どうせそんなことしないんだから、ルールにしてもらっても構わないよ」


「ありがとうございます!」


「ただね驢馬………」


「なんでしょうか」


「なんでしょうかじゃないよ。君は自分が負けた時の事をルールにしてないじゃないか」


「うっ、」


「私は言ったはずだよ、もし驢馬が負けたなら肌をピンク色にするって。忘れたわけじゃないだろう?」


「そうなんですけど肌がピンク色というのは、魔人ブウくらいしかいないので………」


「そうは言っても勝負というのはやはりリスクがあってなんぼだよ。私は驢馬の感情が見たいんだ。ちゃんとそのルールを付け足してもらおうか」


「わかりました」


 しぶしぶと言った感じで頷く。


「それともうひとつ………」


「え」


「この勝負の最中は、私の体には一切触れてはいけない事、そして驢馬も魔法を使ってはいけない事、それもルールにしてもらおうかな」


 驢馬の目がかっぴろがった。


「私は忘れてはいないよ。君はもう「溶接」の魔法を手に入れているんだからね」


「それはちょっと困りますよ、確かに魔法が自分の中に入ってきた感覚はありますけど、私程度の使う魔法なんかじゃ女神様には効果が無いと思うんですが」


「そんなことはないよ。神とは言っても全知全能というわけでは無いし無敵でもないんだ。影響を受けることは十分にあり得ることだよ」


「そう、なんですね」


 困惑しながらもなんとか言葉を返す。


「驢馬が考えたルールの中の4つ目には「暴力の禁止」があるけれど、それならこちらにもそのルールを適応してもらわないとね」


「………」


 かなりの計算違いだったらしく驢馬は言葉に詰まっている。


「どうだい、これでもこの勝負をするかい?言っておくけど勝負が出来るのは一回だけだよ。もし驢馬が負けたからと言ってもう一度やろうなんて無しだよ」


「わかりました、やります」


「いいね」


 はっきりと言い切った驢馬を見て女神は微笑む。


「それでは今の私の言ったことを取り入れたうえで、驢馬の口からもう一度勝負のルールを説明しておくれ」


「はい」


 真っ白い空間には運動会が始まる前のようなワクワク感と緊張感がある。


 この勝負に何としてでも勝つ。


 勝って王様のような生活を送る。最強、チート、大金持ち、大豪邸、プール、露天風呂、美女、美女、美女。


 この俗物極まりない夢を実現させるため、フル回転し続けた驢馬のちっぽけな脳味噌は、この条件でも女神に勝てる可能性を持った秘策を考え出していた。





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