雨の子 ざぶりちゃん
まだまだ寒い2月のある日、おばあちゃんは、たくさんの洗濯物を干しています。
おじいちゃんのシャツとパンツ。
おばあちゃんのエプロン。
おとうさんのズボン。
おかあさんのセーター。
はるくんのトレーナー。
さっちゃんのスカート。
ほかにも、いっぱい。
「ふぅ〜、いっぱい洗ってきれいになったわ。おひさまにパリッとかわかしてもらいましょ」
ベランダにずらりと干された洗濯物。
おひさまも、にこにこ笑っています。
おばあちゃんは、部屋にもどるとコーヒーをいれて、ひと息ついています。
のんびり本を読んでいたおばあちゃんは、窓の外にぽつんと立っている子に気がつきました。
「おやおや、だれかしら?」
おばあちゃんが外にでると、しずく模様のワンピースを着た女の子がいました。
「あら、どうしたの?」
おばあちゃんが聞くと、
「わたし、雨の子で、ざぶりって言うの」
「雨の子?」
「うん、おとうさんとおかあさんが、おばあちゃんの家の方に行こうって言ってたから心配になって。だって、おばあちゃん、洗濯物いっぱい干してるでしょ」
「えっ、こんなに晴れてるのに?」
おばあちゃんは不思議でたまりません。
「ほんとだよ。もうすぐおとうさんとおかあさんが、わたしを呼びに来るわ」
「あらあら、大変! 洗濯物いれなくちゃ」
おばあちゃんは、あわてて洗濯物を部屋に入れて干していきます。
ざぶりちゃんは、静かに立っています。
「でも、わたし、雨の子なんていやなんだ〜」
おばあちゃんは、ざぶりちゃんの顔をみました。
しょんぼりしています。
「雨の日って、みんなきらいでしょ」
おばあちゃんは、ちょっと考えて言いました。
「洗濯物をかわかすときは、晴れてたほうがいいけどね。でも、雨の日も、わたしはすきだよ」
「ほんと?」
「うん、お花や木が生き生きしてくるし、本を読むのには、もってこいだよ」
「わぁ〜うれしい」
ざぶりちゃんは、ぱぁっと目を輝かせました。
そのとき、雨がザーザー降り出しました。
「おとうさんとおかあさんがきたわ!」
ざぶりちゃんは、そう言うと、すーっと空に吸い込まれていきました。
おばあちゃんは、洗濯物を干した部屋で、本の続きを読んでいます。
ザーザー ザーザー
雨は降り続いています。