夜の時間
気づいたら夜が始まっていた。
自分には不釣り合いな、大人たちのための時間。
目の前の踏切を渡る電車の中の人はまだらで、電灯の色がいつもよりも車内を白く照らしている。
近くの居酒屋は賑わって、赤い提灯がゆらゆらと楽しそうに揺れている。
その横を自転車ですっと通り過ぎる。
羽織った上着が吹かれて背後になびき、風のが隣を切る音だけがゴーゴーと聞こえる。
1日が終わったはずなのに、何故かそれは遠い遠い昔の記憶のようで、まるで映画のフラッシュバックのシーンのようにピンボケした、黄ばんだ映像だけが思い出される。
何もしていない1日だ。
時間がどんどん歪んで、体を取り巻く。
不連続的な毎日に置いて行かれた心には焦燥感だけが積もって、口に酸っぱい味を残す。
時間が、記憶が、周りが、自分が。
未だ存在しない可能性という花の死を、悲しんでいる。
あぁ、なんという茶番、なんという空虚。
存在している私はどうなってもいいのか。
いや違う、そうか。
瞳に映し出された空は、今にも雨が降りそうだ。