リフレイン
みんなが気がかりだが、進む道はひとつだった。
明るく照らされた扉。
ふぅーと息を吐き、晴希は自分を落ち着かせる。
扉に手をかけ、ゆっくりと開ける。
そっと中の様子を覗き込む。
中には誰もいなかった。
薄暗い部屋に足を踏み入れ、何かないのか?と辺りを見回す。
学校の教室程の広さで、顔を動かせば全て見渡せる。
しかし見る限り何もなかった。
「なんだ」と少し緊張が和らぎ、部屋の隅からじっくりと仕掛けがないか確認することにした。
そして、扉から離れてしばらくした頃、パタンと静かな音がした。
振り返ると、いつでも逃げられるようにと開けたままにしていた扉が閉まっていた。
「これからが本番ってわけか」
何が来るかわからない恐怖心と緊張が押し寄せる。
周囲に気を張っていると、だんだんと指先が赤くなり、発光しているのに気付いた。
どういうことだ?
俺はナノチップを取り除いている。
なのに、なぜ発光している?
自分の体に何が起こっているのかわからずにいると、後ろから
「犯罪者だ!」
という声が聞こえてきた。
振り返ると、多くの人が俺を恐れるような目で見ている。
そして、警察や警備ロボットが俺を捕まえようと、必死の形相で向かって来ていた。
「待って、待ってくれ!俺は何もやっていない!」
あの時の恐怖が蘇る。
全ての人の俺に対する視線が怖かった。
だんだんと赤みが強くなり、発光しているのが目立つ程、その視線は鋭くなる。
「違うんだ!俺は本当に何もしていない!」
警察官は聞く耳すら持たない。
発光=重罪者だ。
捕まえることしか頭にない。
その向かって来る姿が怖くて、逃げ出した。
走っても走っても警察や警備ロボットが辺りを囲む。
あの時と一緒だ。
誰も俺の言葉なんか信じてくれない。
目に見える情報に惑わされて、本当のことを知ろうとしない。
「だから、俺は何もしてないんだ!」
そう叫ぶしかなかった。
警察と警備ロボットがジリジリと詰め寄る。
何度も何度も逃げるが、逃げた先にも警察官がいる。
そうしているうちに捕まった。
警察官が俺を地面に押し付け、後ろ手で手錠をかけられた。
逃げ出さないように、体の上に警察官が乗った。
痛い。
体だけじゃなく、心も痛い。
俺が何したって言うんだ。
『あの時先輩が決めてたら勝ってたのに』
そんな言葉が聞こえてきた。
あぁ、そうだ。
俺は中3の夏のインターハイで肝心なゴールを外したんだ。
決勝。試合は1-1でPK戦までもつれ込んだ。
みんなはしっかり決めていったのに、俺が、俺だけが外した。
そして、負けた。
試合直後はチームメイトから
『気にすんな』
『向こうが強かったってことだ。お前のせいじゃない』
『俺達がここまでこれたんだ、充分すごいよ』
など声をかけてくれたが、俺が決めていれば!その気持ちが拭えなかった。
そして、試合の数日後、部室で聞いてしまった後輩達の会話
『あの時先輩が決めてたら勝ってたのに』
やはりみんなそう思っていたんだな。
それから、一切サッカーをしなくなった。
受験で、勉強に集中する事が出来るし、ちょうどよかった。
高校に進学してからも、大地に
「サッカー部一緒に入ろうぜ」
と誘われたが断った。
もう怖かったんだ。
誰からも信頼されないことが。
お前のせいだって言われることが。
俺の言葉なんか届かない。
だんだんと絶望に落ちて行く。
真っ暗で何も見えなくなる。
生きていたって誰からも信頼されない。
だったら、俺なんて…
その時、顔にコンと何かがぶつかった。
なんだ?と思い、それに目をやると、コーララムネの容器だった。
俺のポケットに入ってたやつが、押さえつけられた時に落ちたのか。
そのコーララムネから舞華の声が聞こえた
『大丈夫!晴希は絶対に生きてる!』
『晴希は犯罪者なんかじゃない』
『晴希は全力でやったんだよ!もっと誇りに思っていいよ!ひとりで抱え込まないで!』
『晴希、この問題はどうやって解くの?』
『ねぇ晴希』
『晴希!』
そうだ。俺には信頼してくれている仲間がいるじゃないか!
他の誰がどう思おうが、大事な仲間が俺を信じてくれてる!
それがどんなに大事ことか!
お前にはわからないだろう?
すると、真っ暗だった視界が眩しい程に明るくなっていった。
今まで取り押さえていた警官も、世間の目も何もかも消え去っていった。
気が付けば、元の薄暗い部屋の真ん中で倒れていた。
なんだったんだ?
夢?
それにしては押さえられ時の痛みも残っている。
目の前に転がるコーララムネの容器。
これのおかげか。
すると、薄暗かった部屋が一気に明るくなり眩しくて目を細めた。
「君にはホログラムは通用しないってことか」
その言葉の先には、見た事のある人物が立っていた。
「お前、堅元」
「まさか生きてるとは。せっかく重罪者にして種岡さんの前から消したのに」




