雨雲の隙間
思いのほかあっさりと了承してくれた。
それに拍子抜けしてしまった。
無理難題を突き付けたつもりだったんだが、違ったようだ。
そして、種岡は
「晴希に本当に会えるの?」
と確認する。
あれだけ『晴希が生きてる』と疑わなかった種岡が、生きてると確信したかったんだと思う。
「もちろん。
ただ時間がないんだ。
生きてるのを確認するだけだ、いいか?」
「わかった。」
そう二つ返事で答える種岡。
俺達の意見を確認すると、トキトウさんは誰かと連絡をとった。
「呼んでくれないか?
あぁ、大丈夫。遅かれ早かれ、いずれは会うんだから。
頼んだ。」
そう言って俺達の方を見て、
「じゃあ、移動するぞ。」
と早速動き始めた。
俺と種岡はお互い目を合わせ、頷く。
そしてそのままトキトウさんの後をついていく。
マンホールに入っていった時は驚いたが、監視カメラも警備ロボも気にせず動く事が出来た。
ただ、排水の臭いがキツかった。
しばらく歩くと行き止まりまで来た。
「ここでしばらく待つ。」
そう言って、トキトウさんは止まった。
しばらく待つって、行き止まりに来ただけじゃないか?
それに、
「この臭いどうにかならないですか?」
俺も種岡も臭いに耐えられず、服やハンカチで鼻を押さえていた。
トキトウさんは臭いに慣れているのか、飄々としていた。
「無臭とかいい臭いだったら、人が来る可能性があるだろう?
我慢してくれ。」
なるほど、人が来ないようにしているのかと納得した。
だが、ただの下水道に連れて来て、こんな所に晴希が来るのか?
行き止まりで、来るとしたら俺達が通ってきた道しかない。
俺も種岡も、トキトウさんに背中を向け、通って来た道を振り返って、人が現れるのを待っていた。
その時、ザバっと水の中から急に人が顔を出した。
慣れたように、水面から上がって来た人物は、間違いなく晴希だった。
トキトウさんと少し距離があった俺達には気が付かずに背を向け、
「トキさん。持ってきましたよ。
急ぎだっていうから、そんなに必要なものだったんですか?」
と親しそうに話す晴希がいた。
晴希がいなくなってから久しぶりに見る姿は、すっかりたくましくなっていた。
まさかの場所から現れたのと、本当に生きているのに驚きが隠せない俺は、声でなかった。
しかし種岡は
ドン
と勢いよく晴希に抱きついた。
晴希は急に後ろからしがみつかれたのに驚き振り向く。
視線の先には、抱きつく種岡と俺がうつる。
晴希の方が驚いていた。
「え!なんで?
ちょっと、トキさん?
え?どう…え?」
動揺を隠せない晴希を全く離さない種岡。
「すまんな、晴希。
2人がお前に会いたいって言うから。」
トキトウさんはからかうように笑っていた。
「え?
だって、俺が生きてるってバレたらヤバいんでしょ?
なんで?」
「ごめん。晴希。
本当にごめんなさい。」
と涙声で話し出す種岡。
なぜ俺達がここにいるかも、なぜ種岡が泣いているかもわからない状況の晴希は、あたふたしていた。
「この2人はお前が生きてるって信じてたよ。
それに重罪者じゃないって証拠をかき集めようとして、犯人まで辿り着いたんだ。
いい友達持ったな。」
トキトウさんは晴希にそう言った。
晴希はその言葉を聞いて、俺達を見る。
「だって、家に帰ったら、あの有様で、俺犯罪者扱いで、」
カタコトで話し出す晴希に種岡は
「違う!
晴希は何も悪くない。
私が、私が晴希を巻き込んじゃったの。」
泣きながら遮る。
もう絶対に離れないという意志が晴希を強く抱きしめる。
「舞華、痛い。」
そう言いながら、涙を流す晴希。
その涙は、種岡のしがみつく力の強さではなく、嬉しくて泣いているようだった。
無実だと言いながらも川へ飛び込んだ晴希は、誰も信じてくれないと諦めたんだと思う。
しかし、ちゃんと自分自身を見てくれている人がいる事がわかり安心したんだと思う。
その涙を遮るように
「悪いな。あまり時間がないんだ。
そろそろ、行くぞ。」
そうトキトウさんは俺と種岡に言った。




