降り始めた雨
病院を出てすぐ種岡を探そうと、メッセージを送り、GPS検索した。
すると、種岡のGPSは河川敷を示していた。
その河川敷は、晴希が飛び込んだ場所だった。
『今どこにいる?』
種岡に送ったメッセージに
『晴希が最後に目撃された河川敷にいるけど。』
と返信が来た。
メッセージを見て、どうしたんだろう?と思いながら、私は手に持っている花とお菓子を供えていた。
月命日には、必ずここ来ていた。
知らない人から見たら、亡くなった人にお供えをしているように見えるんだろうな。
ここに来るのは、
もしかしたら、晴希がひょっこり出て来るんじゃないかと思いながら来ていた。
手を合わせ、祈るように願いを込める。
そっと目を開けると、目の前に犬がいた。
その犬は晴希にお供えしたお菓子を咥え、持っていこうとする。
「え?待って。
それはあなたが食べたら、お腹壊しちゃうからダメ。
離して?」
犬に必死に話しかける。
犬は一瞬立ち止まり、私の方を見た。
まるで、話が通じたかのように。
「返して。」
そう、犬の前にしゃがみ込み、手を出した。
その時、少し離れたところから
「種岡!」
と大きな声で呼び止められた。
振り向くと、必死な形相の廣田くんが走ってきた。
「びっくりしたー。
どうしたの?急に。
部活が忙しいんじゃないの?」
「それより、種岡。
お前、最近おかしな事ないか?」
息を切らしながら聞いてきたのは、唐突な質問だった。
「そうね?
今、廣田くんが走ってきた事かな?」
それを聞いた廣田くんは、少し苛立ちを見せながら
「あのなぁ。
そうじゃなくて!…」
と言いかけた時に犬の事を思い出し、振り返ったがもう姿はなかった。
「あぁ。いなくなっちゃった。」
と呟くと、廣田くんは慌てたように
「やっぱり、誰かいたのか?」
と聞いてきた。
「やっぱりって?
誰もいないけど?
さっきまでここに犬いたんだけど、どっか行っちゃった。」
「なんだ。犬か。
それより、最近身の回りでおかしな事ないか?
誰かに付けられたとか、見られてる気がするとか。」
「え?ないよ?」
とあっさり答える。
「いや、種岡の周りで明らかにおかしな事が起こってる。
まるで、種岡を孤立させるかのように、周囲
の人間を遠ざけようとしている。
何か心あたりはないか?
次は種岡が犯罪者扱いされるかもしれない。」
その真剣な眼差しに、ただ事じゃないと思い、ここ最近の事を振り返ってみた。
それでもやっぱり
「特にないかな。」
と答える。
廣田くんは頭を抱え、座りこんだ。
走ってきて疲れたのもあるんだろう。
どれだけ走ったかは知らないけど。
「種岡、お前の噂知ってるか?
種岡の近くにいると、晴希の亡霊が出てくるって。」
「晴希は生きてるって。
亡霊じゃないよ。」
廣田くんは一瞬止まり、
「ははっ。
そうだったな。」
と、もうお手上げという感じで笑った。
「心配して来てくれたの?
ありがとう。」
「いや、そういうんじゃないよ。」
ちょっと照れながら廣田くんが言った。
「もし、私が犯罪者になったら、廣田くんが無罪を証明してね。
そしたら、晴希も冤罪って証明出来るでしょ?」
「わかったよ。」
諦めたように廣田くんはそう言った。
その後、私の周りでの噂、起こっている事を教えてくれた。
「そんな噂があったんだ。
どおりで、最近あんまり話かけられないなと思った。
ただ、後を付けられた事もないし、監視されてる感じもないんだよなー。」
「気付いてないだけじゃないの?」
「そうかもね。
晴希の家の掃除とかしてる時も、変な目でしか見られないから、麻痺しちゃってるかも。」
「危機感のない答えだな。」
「しょうがないでしょ。
それより、晴希探す方が先決なんだから。
晴希見つけたら、犯人わかるかもしれないじゃない?」
「種岡らしいわ。」
と廣田くんは笑った。
おかしな事は言ったつもりはなかった。
だって、実際、晴希が見つかれば事故当日の事も、何が起こっているかわかる。
話に夢中で、気が付いたら日が暮れていた。
「もう遅いから帰ろう。」
と私が言うと廣田くんは
「家まで送るよ。
後つけられても気付かないようなヤツは危ないからな。」
と言った。
その言葉に、
「ありがとう。
じゃあお願いしようかな?」
と微笑みながら言った。
「こんな廣田くんと仲良くなれると思ってなかったな。」
「仲良くなってないぞ?」
「え?嘘?
家にまで送ってくれてるのに?
仲良くないって言うの?」
「そりゃあ、目の前で犯罪者になられたら困るからだろ?」
「そ?
仲良くなった思ったのに。」
その言葉に少しうんざりした顔をする廣田くん。
そんな顔しながらも、ちゃんと家まで送ってくれるのが律儀だと思いながら、家に到着した。
「ありがとう。
じゃあまた明日。」
「おう。じゃあな。
くれぐれも周囲気を付けろよ。」
最後まで心配してくれた。
種岡を家まで送ったあと、俺は噂の晴希の亡霊が現れないか、背後に気を付けながら自宅へ向かう。
この前、後をつけられていると思った場所でも、それ以外の場所でも、気配はなかった。
なぜだ?
やはり、晴希が生きていて、話しかけるタイミングを伺っているのか?
だったら、なぜ、同級生は背中を押された?
偶然か?
それとも、あいつが押されたと勘違いして躓いたとか?
ありえるな。
その日は無事に家に帰り着いた。
次の日、学校でサッカー部の顧問を探した。
「先生!」
「お、廣田。どうした?」
「サッカー部の練習場所の件なんですが、サッカー部の誰が変更したいって言ってきたんですか?」
「誰かは知らないが、サッカー部から生徒会に依頼して申請したんだろ?
だから、忙しい中わざわざ第2グラウンドの許可取ったんだぞ?」
少し自信満々に出来る先生アピールをする顧問。
頑張るとこ間違ってるんだよなと思いながらも、口には出さずに、
「そうなんですか。
さすが、俺達の顧問ですね!
ありがとうございます。」
と満面の笑みで言い、生徒会室に向かった。
おかげで、いい情報が得られた。
コンコン
とノックし生徒会室のドアを開けた。
すると、中から生徒会メンバーがいた。
昼休みだから、誰もいないかと思ったが、一人ここでご飯を食べているようだった。
「はい。何か用ですか?」
「あの、すみません。
この前、サッカー部員が練習場所の変更提出したみたいなんですが、それ間違ったみたいで、申請取り消したいんですが。
誰が申請に来ました?」
「調べてみるよ。
少し時間かかるから、
先に申請取消の手続きしておいてもらえるかな?」
「わかりました。」
俺はすぐに申請手続きを始めた。
その間も、申請書のデータを探してくれていたが、
「申し訳ないんだが、データを探すのに時間がかかるから、見つかったら連絡するよ。
この申請取消は、預ります。」
そう言って、申請取消手続きを受け取った。
「すみません。
宜しくお願いします。」
そう言って、生徒会室を出た。
申請書を出した人物がわかれば、犯人に近づくかもしれない。
そう思い、生徒会からの連絡を待つ事にした。
そして、放課後。
生徒会からの連絡もなく、今日はわからないと諦めていた。
そんな考え事をしていると、
階段の手前で背中を押された感覚。
多くの生徒が行き交う中、階段を踏み外し、落下した。




