雨の中でも、晴れを見つけて
そうか。
ピアノが弾けないって、失ったものの事ばかり考えていたから悲しく感じていた。
でも、元々ピアノが弾けない状況だったら?
ピアノを知らなかったら?
ずっとピアノこだわっていたのは、自分自身なんじゃないか?
他に目を向けようとしなかっただけじゃないか?
この手でも出来ることはある。
その中で、やりたい事を見つけたらいいじゃないか。
そう考える事が出来るようになってから、ピアノの夢を見なくなった。
あの日から、いろいろな事に挑戦するようになった。
畑仕事を手伝って、泥だらけになりながら収穫した。
初めは失敗ばかりだったが、スミくん丁寧にやり方を教えてくれた。
最近畑仕事を始めたとは思えない程、詳しかった。
「作物育てた事あるの?」
と聞いたら、
「ここに来て、トキさんとおばあちゃんに教えてもらった。」
と言うから驚いた。
力も体力もない私は、休憩を入れながら収穫をしたが、スミくんはお昼ご飯以外はずっと苗の植え付け、雑草取り、肥料散布、様々な作業をこなしていた。
畑仕事が終わり、おばあちゃんの家に帰ると
スミくんは晩御飯の準備を手伝い始める。
畑仕事で疲れているはずなのに、当たり前のように「何からしましょうか?」とおばあちゃんに聞いていた。
私も、出来る事を増やしたいと
料理もしたことがないが、包丁を使ってみようとして、
「さすがに怪我をしてしまうから、こっちをお願い。」
とスミくんにピーラーを渡された。
包丁が出来なくても、私に出来る事がある事が嬉しかった。
そうして、少しずつ出来る事を増やしていき、部屋で閉じこもる事がなくなった。
しばらくして、トキさんがデジタル世界に行かなければならなくなった。
今まで、トキさんとスミくんの2人で畑仕事をしていたが、スミくんと私で作業することになった。
外での作業に慣れたとはいえ、トキさんの作業量を賄えるはずもなく、収穫量は減っていた。
落ち込んでいると、次の日、蓮樹くんが「ぼくもいきたい」と言い出した。
手を繋いで、はりきって畑まで道案内してくれた。
蓮樹くんはまだ小さいから、難しい作業は出来ないかもと思いながらも、スミくんが補助しながら収穫していた。
しばらくして、スミくんが思いついたかのように言い出した。
「競争してみない?
ここから、向こうまで。
俺はひとりで、そっちは蓮樹と一緒に収穫。
先に収穫終わったほうが今日のお風呂当番ってことで!
じゃあ、よーいスタート!」
突然始まった。
「え?ちょっと。待って!」
そんな勝負敵うはずないと思いながら、始まってしまった。
同じ野菜をひたすら収穫していく。
蓮樹くんが
「まけないもん!
奏ねえちゃん、はやくー!!」
と急かす。
スミくんは慣れた手付きでどんどんと収穫していく。
こちら人数が2人にも関わらず、全く敵わなかった。
「わぁーん。まけちゃったー。」
と蓮樹くんが悔しそうにしていると、スミくんに
「もういっかいーー!
しょうぶするー!」
とスミくんに泣きついていた。
「じゃあ、もう一回。
奏さんは大丈夫?」
とスミくんに聞かれたが、あんなに悔しそうな蓮樹くんを見たら、
「大丈夫。負けないからね。」
と、勝たせてあげたい気持ちほうが強かった。
スミくんはニコっと笑い、3人でしばらく競争をした。
そうしている間にあっという間に夕方になった。
勝てないまま終わってしまった。
蓮樹くんはまだやると言っていたが、スミくんがまた明日と言って終わらせた。
帰り道、スミくんと私の間に蓮樹くんが入り、手を繋いで帰った。
「きょうはたのしかったー!
あしたは、かつんだ!」
と満面の笑みで言う蓮樹くんに2人で顔を見合わせて微笑んだ。
蓮樹くんがいるおかげで、そして、スミくんがゲーム感覚で畑仕事を楽しくしてくれたおかげで、作業にも慣れ、収穫のスピードも上がって行った。
蓮樹くんは体力的にも毎日来れないため、スミくんと2人で作業することが増えていった。
2人での作業は楽しく、相変わらず形の変わった作物を見つけると、トキさんがどんな名前をつけるかを予想し合い、盛り上がった。
畑仕事以外にも、保存食用に加工したり、洗濯、掃除も手分けしてするようになった。
唯一、包丁だけは使わせてもらえなかったが、人として一人前と認められたような気がして、自分にも自信がついた。
トキさんは、おばあちゃんの家に帰って来る事が少なくなった。
デジタル世界で、不具合者を救うため動き回っているが、なかなか救出するのは難しいらしい。
私達は運がよかったと、あとから聞かされた。
たまに帰って来るトキさんは疲れ切っていた。
その状況を見て、私もスミくんも出来る限りトキさんをフォローしていこうと決めた。
自分のやるべき事が明確になって、晴れしか知らなかった私が、雨の中でもやりがいを見つけられたよ。
奏さん編、終了します!
思ったより長くなってしまいました。




