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あたたかい雨

スミくんは、私を座らせたあと、少し距離をおいて座り、話はじめた。



「今日、トキさんと穫ったんだ。」

近くにあったカゴから、じゃがいもを取り、机の上にのせた。



ちょっと拍子抜けした。



こんな深夜になぜ起きているの?とか

なぜ震えているの?とか

なんでナノチップが壊れたの?とか


いろいろ聞かれるかと思っていた。



呆気に取られて返事出来ずにいると、スミくんはそのまま話続けた。


「こっちは人参。なんだけど、形が『考える人』みたいになってるんだ。

面白いだろ。」



その人参はお店で売っているような綺麗なものではなく、足は二又になり、更に絡まっていた。その形が、まるで『考える人』のようだった。



「他にも、大の字人参に、ねじねじ人参、いろいろあるんだ。」


と、人参を机の上に広げていく。

形があまりにも面白くて、吹き出してしまった。



それを見て、少し安心したのか、スミくんは

「いろんな形をしてて、笑っちゃった。

トキさんが、名前つけるんだ。

これは、大ちゃんで、こっちは中尾さん、こっちはロダン。」

と続けた。



まさか名前までつけてるとは思わなかったから、思わず

「そのまんま。」

と声が出てしまった。



スミくんは

「トキさん、そのままつけちゃうんだ。

面白いよね。」

と、なんでもない話ばかり続けた。



私は、ただ、スミくんの話を聞いていた。

スミくんは、最近あった面白い出来事を話していた。

私に相槌を求めるわけでもなく、返事が必要な質問をしてくるわけでもなかった。



話の内容にも、話し方にも、その距離感にも、だんだん安心して、いつの間にか寝ていた。





トントンと台所から聞こえてくる音と、いい匂いで目が覚めた。

気が付いたら朝だった。



机にうつ伏せで眠っていた私には、毛布がかけてあった。


きっとスミくんがかけてくれたのだろう。



昨日、机の上に広げられていた野菜達は、片付けられていて、まるで夢だったかのように何もなかった。



スミくんは、トキさんと畑仕事行っていた。



「おばあちゃん、おはようございます。」

と台所にいるおばあちゃんに声をかけた。



「あぁ、おはよう。

起きたのかい?

ゆっくり寝られたみたいでよかった。」



言われてみれば、確かにこんなにぐっすり寝られたのは久しぶりだった。


ピアノの夢を見た日は、怖くて眠れない日がしばらく続くのに、今日はゆっくり眠る事が出来た。



「ごめんなさい。あんなところで寝てしまって。

何か手伝います。」



「そうかい?

じゃあ、蓮樹を起こして来てくれる?」


「はい。わかりました。」



まだ寝ている蓮樹くんを起こしに行った。



隣の部屋で、すやすや眠っている蓮樹くんを起こすと、寝ぼけているのか、私の手をキュッと握って再び寝始めた。


その小さな手から温もりが伝わってくる。



昨日の夜、夢にうなされた後は、あんな

全身に震えが止まらなくて、感覚がなかったのに、嘘のように元に戻っていた。


そんなことを考えていると



「蓮樹、起きたー?」

と台所からおばあちゃんの声が聞こえてきた。

その声にハッとし、

「すぐ起こしますー。」

と返事をし、蓮樹くんを起こして、おばあちゃんの元へ向かう。



トキさんとスミくんは、早朝に畑仕事にいくので、朝ご飯は、いつもおばあちゃんと蓮樹くんと私の3人で食べる。


と言っても、私は少し食べるだけで、いつも2人が楽しそうに食べるのを見ている事が多かった。



朝ご飯が終わると、おばあちゃんはお弁当を作り、トキさんとスミさんのいる畑に持っていく。


「あの、今日は私がお弁当を持って行ってもいいですか?」



と言うと、おばあちゃんは嬉しそうに、


「いいのかい?

じゃあ、お願いしようかしら?すごく助かるわ。」

と笑顔が返ってきた。



いつもは、家から閉じこもって出ない私が、外出すると言ったから、嬉しそうだった。



珍しく外出しようと思ったのは、昨日の出来事が本当か確かめたかったからだ。



そもそも全て夢だったんじゃないか。



もし、夢じゃないのなら、スミくんの話しの途中で寝ちゃったから謝らなくちゃ。



その思いで畑に向かった。



畑には行った事がなかったので、蓮樹くんに案内してもらった。


『いつもおばあちゃんといってるから、ばしょおしえてあげる!』


と自信満々に手をひいてくれた。


これじゃあ、どっちが保護者かわからないな、と思いながら畑に連れて来てもらった。



畑につくと、蓮樹くんは

「おべんと、もってきたよーーー!」

と叫んだ。


その声に反応し、畑の中から2人がひょこっと顔を出す。


そして、こちらを見て2人とも驚いた顔をした。



特にトキさんは

「奏が持って来てくれたのか!

ありがとう!」

と嬉しそうに言った。

そこに、蓮樹くんが

「ぼくがここまでつれてきたんだよー!」

と自慢気にトキさんに言っていた。



スミくんは、最初は驚いた顔をしたものの、「お弁当ありがとうございます。」

と言って、何事もなかったようにお弁当を受け取った。



その反応を見て、やっぱり昨日の事は全て夢だったんだろうと思った。



お弁当も渡したから、帰ろうと蓮樹くんに声をかけようとした時、



「今日は、3つ足人参が穫れたよ。」


とスミくんが言った。



え?と振り返ると、3つ足に分かれた人参を私に見せて

「トキさん、名前なんてつけたと思う?

3脚人参だよ?そのまんまでしょ?」


と人参を渡してきた。


そして、

「大丈夫?あれからよく眠れた?」

と聞いてきた。


あれは夢ではなかったのか。

そう思いスミくんに


「すみません。

昨日、話の途中で寝ちゃいましたよね?」

と尋ねた。



「俺が勝手に話してただけなので。

ゆっくり眠れたならよかった。」



「本当にすみませんでした。」

やっぱり、話の途中で寝てたのかと申し訳なくなり謝った。

あまり会話もしたことないのに、深夜に起こした上に、話の途中で寝るなんて大変失礼なことをしていて恥ずかしくなった。




すると、スミくんは

「今日は、この人参を使ってカレーを作るみたいなので、一緒に作りませんか?」

と言ってきた。


スミくんは、私の手ことを知らないんだ。

「私は、料理は…」出来ないと言おうとしたが、



スミくんは続けて

「蓮樹も一緒だから大丈夫。

みんなで一緒作ると楽しいと思うんだ。」

と言った。



蓮樹くんが出来ても、私には出来ない。

だってこの手じゃ…。

みんなに迷惑かけるから、やめておこうと断ろうと

「私は、やめ…」

と言いかけた時に



「おーい、スミ!

これ運ぶの手伝ってくれー!」

とトキさんに呼ばれた。



「はーい!

今、行きます!


じゃあ、またあとで!」

と言って、スミくんは走ってトキさんの元へ行った。



「あ、待って。

私、手伝いは…。」

と伝えようとしたが、走って行ったスミくんには届かなかった。


蓮樹くんが私の手を引っ張って、

「奏ねえちゃん、おうちかえろ?」

と言った。



結局、断れないまま、家に帰って来た。


おばあちゃんは、

「お弁当持って行ってくれてありがとう。」

と嬉しそうに言った。


「ぼくね、ちゃんとばしょおしえたよ。すごいでしょ?」

と蓮樹くんがおばあちゃんに褒められていた。

かわいいなと思っていると、


「きょうは、奏ねえちゃんも、ごはんいっしょにつくるって!」

と蓮樹くんがおばあちゃんに言った。



おばあちゃんは更に嬉しそうに

「まぁ、そうなの!

じゃあ、みんなで一緒に作りましょ。」

私の顔を見て微笑んだ。



「あの、私、料理したことないし、手がこんな状態なので、お手伝いは…」

と断ろうとした。



「スミくん教えるの得意だから大丈夫よ。

みんなで作ったら美味しくなるわよ。」


「よかったねー。」

とおばあちゃんと蓮樹くんが一緒に返事をする。


断れない状況になってしまった。



しばらくすると、スミくんとトキさんが帰ってきた。


トキさんは、作物の片付けと明日の準備をするため納屋へ行った。



スミくんは泥だらけの作業服を着替え、晩御飯の準備を手伝いに台所にきた。


私は、邪魔にならないように、なんならそっと部屋に戻ろうと思っていた。



「じゃあ、蓮樹と一緒に、これやってもらおうかな?」

スミくんは見逃してくれなかった。


私は料理はしたことがなかった。

今まで、指を怪我しないようにと、ピアノのことしか考えてこなかった。



どうしよう。

足引っ張ってしまう。

と構えていたら、

そこにはじゃがいもと人参が土のついた状態で置かれていた。


「いっしょにあらおうー。」

蓮樹くんが野菜を洗い始めた。


「畑からとってきた時、出来るだけ土は落として来てるんだけど、どうしても残っちゃうんだ。

だから手伝ってくれると助かるんだ。」

スミくんはそう言って、私に野菜を渡した。



これなら私にも出来る。

そう思うと安心した。


蓮樹くんの隣で野菜を洗い始めた。


蓮樹くんは、洗い終わった野菜をスミくんへ

「これおっけー?」

と見せていた。


スミくんは確認して、

「うん、おっけー。」

と返す。


蓮樹くんは『すごいでしょ』と言わんばかりの笑顔をした。



私は、確認してもらわないといけないんだ、と思い、スミくんに洗い終わった野菜を

「これおっけー?」

と同じようにスミくんに聞いた。



スミくんは、驚いたように私の顔を見て、

「あ、オッケーです。」

と顔を真っ赤にして野菜を確認した。



どうしたんだろう?と思っていると、

スミくんが、赤い顔のまま

「ごめんなさい。

言ってなかったけど、

蓮樹は土が落ちたか、毎回確認してるんだけど、奏さんは俺に確認してもらわなくても自分で土が落ちてるの確認出来たら、こっちのかごに入れてくれたらいいから。」

と言った。



あ、そういうことか!

恥ずかしくなって、こっちまで顔が真っ赤になった。



「なんでぼくだけ?」

と蓮樹くんがこの恥ずかしい空気を断ち切るように、スミくんに尋ねる。



その質問にハッとしたスミくんは

「蓮樹は、土残ってることあるだろ?

残ってたら、ご飯おいしくなくなっちゃうぞ。」


「えー。それはやだー。」


「だろー。」


そのやり取りが面白くて、ふふっと笑ってしまった。


「じゃあ、私も確認してもらおうかな?」

と私が言うと、



それを聞いた蓮樹くんが

「ごはんおいしくなるー!」

と喜んだ。


さっきまでの恥ずかしい空気なくなり、3人で笑った。



おばあちゃんが笑い声を聞いて、安心したように微笑む。



久しぶりにこんなに温かい気持ちになった。

両親といた時以来だろうか。



もうひとつ家族が出来たみたいで、嬉しくなった。

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