雨しか知らないと、晴れの喜びを知れないんだ。
普段生活では、何も気にならなかったが、確かに奏さんは細かい作業をしているのを見た事がなかった。
食事の時もスプーンとフォークを使っていた。
「指先が震えて、細かい作業が出来なくなってしまって、包丁も危なっかしいって怒られちゃった。」
やわらかく微笑みながら教えてくれた。
「それって…」
と話を続けようとしていると、
足元に風呂上がりの蓮樹がしがみついてきた。
「晴希兄ちゃん、次お風呂どーぞって!」
急に現れたから驚いた。
「あぁ、蓮樹ありがと。」
と顔を上げると、そこには風呂上がりのスミさんがいた。
ヤバい。
絶対スミさんに何か言われる。
肩をすくめていると
「晴希、洗い物の続きはやるから、風呂入っておいで。」
と言われた。
これ以上奏さんに聞くなと言う事だなと思い
「あ、はい。じゃあ風呂行ってくるので、あとお願いします。」
と言って逃げるように風呂へ向かった。
スミさんはそのまま台所入ってきて、
「蓮樹は、空翔に髪乾かしてもらってきて。」
「はーい。」
と蓮樹は空翔のところへ行き、スミさんは洗い物をし始めた。
奏さんはそのまま洗い物を手伝い続けた。
スミさんは、洗い物をしながら
「無理に言わなくてもいいと思う。」
と独り言のように呟いた。
奏さんはその言葉にスミさんの方を見るが、スミさんは洗い物から目を離さない。
「晴希には、プライベートな事は聞くなって言ってあるから。」
私の過去を話さなくていいように、辛い事を思い出さないようにしてくれてるんだなと、遠回りながらも、彼の気遣いに
「ふふっ」と笑い
「もう大丈夫よ」
と言った。
スミさんが何か言おうとしたが、先に奏さんが
「それより、久しぶりじゃない?
こうやって二人で洗い物するの。」
と言った。
「最近洗い物は、空翔か晴希がしてくれてたからな。」
スミさんは、相変わらず目を合わせず洗い物を続ける。
チラッとスミさんの方を見たが、目が合わない事に諦めて、奏さんも洗い物に視線を送りながら話を続けた。
「そうね、人数増えたものね。
スミくんが来た頃は、いつも一緒に作業してたのが懐かしいなって思ったの。」
「あの時は、ばあちゃんと蓮樹と4人だったから、二人で力仕事頑張ってたしな。」
「今じゃ、私は力仕事させてもらえないけど。」
「いいんだよ。男手が来たから、力仕事は任せたら。」
「ありがとう。
でも、そこまで女子扱いしなくても、出来る事はやるから、私にも仕事振ってね。」
「大丈夫だよ。今でも充分やってもらってる。」
「ほら、そうやって、甘やかす!」
と、ちょっとムスっとする奏さん。
それに、スミさんも微笑み
「わかった。考えておきます。」
と返す。
「私ね、スミくんには本当に感謝してるの。
あの時は、まだ事故から立ち直ってなかったから。
毎日話かけてくれて、外連れ出してくれたでしょ?
あの時、晴れた星空見ながら言ってくれた事覚えてる?
あの言葉に私、救われたの。」
「さぁ?大した事は言ってないですよ?」
スミさんは顔を真っ赤にしながら答えた。
それを遠目に見ながら、蓮樹と空翔は小さな声で話始める。
「久しぶりに二人一緒いるね。」
「本当に。スミさん、すぐ逃げるから。」
「スミ兄ちゃんは好きなのに、なんで逃げるの?」
「奏さんに嫌われたくないんだよ。」
「奏姉ちゃん嫌ってないよ?」
「そうなんだけど、スミさんの好きと奏さんの好きは種類が違うからなー。」
「好きに種類があるの?」
「そう。おこちゃまには、まだ難しいかなー?」
「えー。僕もう子供じゃないよ!」
「まだまだ、子供だよ?」
「えー、違うもん!」
と空翔と蓮樹がふざけ出す。
その騒ぎに気付いて、スミさんが洗い物を終わらせて、二人の元へ行く。
奏さんも洗い物を終えて、濡れた手をタオルで拭く。
そして、その震えの止まらない手をしばらく見つめていた。




