新しい傘を差して
誠真さんから、発光した日の事、その前の事もしつこく聞かれたが、変わった事なんて全くなかった。
あれはナノチップの誤作動ではなかったのか?
その疑問を誠真さんとトキさんに聞いてみたが、『わからないんだ』と神妙な面持ちで答えた。
トキさんが、『もう、いい時間だから』と解散となった。
そう言われて壁の時計を見ると、誠真さんと会ってからだいぶ時間が経っていた。
「誠真さん、今日はありがとうございました。
会えてよかったです。」
そうお礼を言った。
誠真さんも
「僕も晴希にいろいろ話しを聞けてよかったよ。ありがとう。
みんなにも宜しく言っておいて。
トキさん、また連絡する。」
と言って別れ、俺とトキさんは、ばあちゃん達の元へ帰った。
数日後。
トキさんは誠真さんのマンションへ向かった。
部屋には、いつも通りイスに座っている誠真と、足元で寝ている犬がいた。
トキさんに気付いた誠真が声をかけた。
「この間は晴希に合わせてくれてありがとう。
しかも、トキさんの作業部屋に行けてよかったよ。
あの機材よく集めたね。」
トキさんも慣れた様子で座りながら話し始めた。
「あの当時はよく捨ててあったんだよ。
ナノチップが普及し始めて、みんなモニターや通信機器が必要なくなったからな。
ただ、あれだけの数集める労力と修理大変だったけどな。
それより晴希だ。
どうする。
何の手掛かりもないぞ?」
その言葉に誠真は少し考え、
「うーん。
手掛かりはないけど、晴希の性格は何となくわかったよ。
確かに犯罪をするような人物じゃないな。
しかも、本人に心当たりがないなら、周辺から情報を集めるしかない。
あ、そういえば、幼なじみと友達が晴希探してるって本人に言わなくてよかったの?」
とトキさんに言った。
「あぁ。今の晴希には言わなくていいと思って。
たぶん心配させるだけだからな。」
「そっか。
そういえば、トキさんからもらった二人の情報とは別に、僕も調べてみたんだ。
この二人、晴希探すのに結構真剣だね。
情報収集能力なかなか凄いよ。
筋がいい。
ただ、僕が全データ抹消したから、辿り着けないのは申し訳ない気持ちになる。」
「知らない方がいいこともあるんだ。
それに、誠真が気にすることじゃない。
俺が依頼して消去してもらってるんだ。」
「いや、僕は逆に、この二人に託してみようかと思って。」
トキさんは一瞬考え
「託す?」
と聞き返した。
「そう。
ここまで晴希のために動いているなら、徹底的に調べてもらおうと思って。
もし、晴希を犯罪者にしたかった犯人が、晴希が生きてるという可能性を知ったら?
この二人に接触してくるんじゃないかと思って。
友達の方は、メッセージが怪しいことにも気付いてる。
晴希と親しいからこそ、僕達では気が付かなかった事に、気付くこともあるんじゃないかと思うんだ。」
それを聞いたトキさんは
「それは、さすがにあの二人が危ない。
犯人は発光させる事が出来るんだぞ。
次はこの二人が発光させられるじゃないか。」
と少し焦って言った。
誠真は、
「だから、トキさんにお願いがあるんだ。
この二人のナノチップのデータ書き換えてくれない?」
待ってましたと言わんばかりに微笑んだ。
トキさんは、誠真に見透かされているなと感じつつも、少し安心した。
また、未犯罪の発光者を増やすわけにはいかない。
「わかったよ。
誠真には完璧見透かされてるな。」
ふっと優しく頬笑ながら
「そんなことないんだけどね。
僕とトキさんは考え方が似てるからこそ言える事なんだよ。
僕じゃ、生きてる人のデータの書き換えは出来ないからね。
この二人を守る事は出来ない。
トキさんがいてくれなきゃ、こんな作戦しようと思わないよ。」
と言った。
「誠真、いつもありがとう。」
そう言うと、トキさんは二人のナノチップのデータ作業を始めた。
その頃、ばあちゃん達のところへ帰ってしばらく経つ俺は、みんなにいろいろ話していた。
誠真さんとの会話。
トキさんと誠真さんの関係性。
みんなと共通の話題が出来た事で、前より会話する機会も増えた。
畑仕事や家事を教えてもらいながら、みんなとの仲を少しずつ深めていった。
最近は畑仕事が終わったあと、晩御飯の準備を手伝うようになった。
料理を全くしたことなかった俺は、ばあちゃんから包丁の使い方を教えてもらい、じゃがいもの皮むきから始めた。
意外だったのはスミさんが料理が上手く、奏さんが包丁を使えない事。
偏見かもしれないが、奏さんは細かい作業が得意そうに見えたから
「奏さんは料理しないんですか?」
そう聞いたら
後ろにいたスミさんに思いっきり頭を叩かれ外に連れ出され、驚くほど怒られた。
奏さんは細かい作業がしたくても出来ない。
だから絶対するな。
本人が一番気にしているからと聞かされた。
ナノチップの影響らしい。
それ以上の事は本人の承諾なしには言えない。
そして、傷をえぐるような事はするなと釘を刺された。
つまり、言えないし、本人に聞くなと言う事だ。
本当にこの人は奏さんの事になると必死になる。
重い物は持つのが当たり前。
料理も奏さんが手伝う前に先回りして、他の簡単な作業を任せている。
畑仕事も軽作業を残し、そこを奏さんに担当してもらう。
まるで奏さんが自ら仕事を選んで取り組んだように振る舞っていた。
最初は、女性だから気を使っているのかと思ったが、明らかに違っていた。
一歩外から大切に守っている感じだった。
その日、晩御飯を食べ終わり、
洗い物をしていると、奏さんがお皿を持ってきた。
スミさんは蓮樹と風呂に行っていた。
「さっきは大丈夫だった?」
と奏さんが聞いてきた。
スミさんから聞くなと言われたから、その話題にどう反応していいか迷っていると、
「大丈夫。スミくんには言わないから。」
と奏さんは自分の口元に人差し指を持って来て『ナイショね』と言っているようだった。
綺麗な人がそう言うのなら、従うしかない。
「大丈夫です。俺こそ、無神経な事言ってすみませんでした。」
「ううん。スミくんが私に気を使い過ぎてるのよ。
女性だからって力仕事させないでしょ?
ちゃんとバレてるんだから。」
とクスクスと笑いながら言った。
ですよね?と思いながら聞いていると、奏さんが
「私が料理しない理由も言ってないんでしょ?」
と聞いてきた。
その質問にコクンと頷いた。
「私、もう気にしてないんだけど、立ち直るまで時間かかっちゃったから、みんなが触れないように話題避けてくれてるの。
私ね…。」
と言うと、
奏さんは、洗い物の中からお箸を取り出し握ろうとする。
しかし、上手く握れずポロッと手元から落ちる。
それを何回か繰り返す。
その状況を見て、やっと俺は理解出来た。
奏さんは苦笑いをしながら、
「手が震えてね、細かい作業が出来ないの。」
と言った。




