目には見えないが、雨の匂いだけはする
誠真はいつも、不具合者が見つかった時以外は連絡をよこさない。
家に来て欲しいとまで言うのは、調べてもらっていた発信源がわかったのかもしれない。
そう思い、急いで家に向かった。
マンションに到着し、部屋のドアを思いっ切り開ける。
「誠真、何かわかったのか!」
あまりにも勢いよく入って来たトキさんに驚く誠真。
足元にいた犬も驚いて起き上がった。
「早かったね。
まぁ、座ってよ。お茶出すから。」
息を切らして入って来たトキさんにお茶を出し、それを一気に飲み干すとトキさんは開口一番に
「発信源わかったのか?」
そう、誠真に詰寄る。
「まぁまぁ、落ち着いて。
今回呼び出したのは、トキさんに調べて欲しい事があるんだ。」
その言葉を聞き、真相に辿り着いたわけではないのかと落胆する。
その様子を見て、誠真は
「そんなに落ち込まないでよ。
まずは話聞いて、それから判断して。」
とトキさんを落ち着かせる。
「トキさんに頼まれてた発信源だけど、正確に言うと判明していない。
ただ、おかしな事が多すぎる。
ナノチップを発光させるってことは、かなり精巧なシステムを作らなければならない。
トキさんが作ったあの厳重なセキュリティを突破するのは、普通に考えて無理だ。
というか、そんなシステムが作れるヤツなら、とっくにナノチップ以上の物を開発してるだろうね。
それに、システムが完成しているなら、もっと他に発光者が増えたり、ナノチップを悪用された事例が起きてもいいはずだ。
なのに、他は何も起きていない。
つまり目的は晴希を発光させる事だったんじゃないかと思うんだ。
そして、一緒に送られたメール。
メールの内容を見たら
『ごめん、委員会が入ったから先帰っておいて。』
送信元は『種岡舞華』と表示されるが、ダミーだ。実際は種岡舞華からのメールではない。
この内容だけじゃ、断言出来ないけど、晴希を一人にする為に送られたんじゃないかな?」
「その、種岡舞華ってのはこの子か?」
トキさんは誠真からもらっていたデータを表示させ、晴希の幼なじみを表示させた。
「そう。その子。
そんで、ここからが本題。
何故晴希が発光しなければならなかったのか?
原因を探す為に、晴希の周辺を探ってたんだけど、この子ともう一人、晴希の友達の大地って子が足取りを追ってるみたいなんだよな。」
「晴希を探してるって事か?」
「うん。死んだと思ってないみたい。
この前、晴希がデジタル世界に帰った時の形跡探してるみたい。
この二人を調べてもらいたいんだけど、いい?」
「わかった。」
「こっちは引き続き発信源の特定急ぐよ。」
トキさんはナノチップのセキュリティが突破されたわけではないと知り、少し安堵した。
だが、問題はこの二人。
晴希を探すという事は、発光させた犯人か?
晴希のデータを見た感じでは、そんな風には見えなかった。
ひとまず、二人の事を知るのが先決だ。
トキさんは二人を徹底的に調べた。
防犯カメラやナノチップの履歴やGPSなど、あらゆる情報を集めた。
さらに、データだけではなく、実際にそれぞれ行動を追い、怪しい点がないか探した。
そして、1ヶ月後。
トキさんは誠真の待つマンションへやって来た。
「ふぅ。」
と疲れたため息をつきながら、ソファに深く座るトキさん。
その姿を見て、そっとお茶を出し
「お疲れ様。トキさん大丈夫?」
と静かに話しかける。
「あぁ、ありがとう。」
「どう?何かわかった?」
誠真が聞いてきた。
「うん、二人を調べたんだが、怪しい所なんかないんだ。
晴希を発光させるにしても、動機もなければ技術もない。
ただの高校生だ。」
「そうか。
こっちも発信源辿ってるけど、まだ不明。」
残念そうに答える誠真。
その返答にトキさんは腕を組み、考えこんだ。
「なぁ、誠真がここまで発信源の特定出来ないなんて、珍しいじゃないか?
特定出来ない程、高度なプログラムが組まれてるなら、あの二人が仕組んだんじゃない。
晴希を探すのにも、わざわざ近所の家に防犯カメラ見せて下さいって頭下げてたぞ?
もし、プログラムを作った張本人なら、過去のデータ収集なんて簡単だろ?
つまり、あの二人はシロだ。」
誠真も座り、トキさんの意見に同意した。
「そっか。
まぁ、そうだよな。
散々、ナノチップデータ改ざんや情報収集してきた僕が、特定出来ないほどのシステムを作った人物。
そして、晴希に恨み…というか、発光させたいほどの感情を持った人物。
あの二人は、懸け離れている。」
「あの二人を調べれば調べるほど、犯人じゃないという情報ばかり出てくる。
あの幼なじみなんか、月命日に花とこのお菓子を供えていく。」
とトキさんはポケットからコーララムネを取り出した。
「コーララムネ!
懐かしい!
まだ売ってるんだ。」
「そうらしいな。
せっかく晴希のお供えだから、本人に渡そうと思って持ってきた。」
そう聞いて誠真が思いついたように
「ねぇ、晴希に会うんだよね?
僕も会えない?」
と言った。
その発言に少し驚きつつ、トキさんは
「わかった。
晴希連れて来るよ。」
と返した。
「ただ、会うのはここじゃない方がいい。
さらに、晴希の家から離れた場所でもあること。
晴希が目撃されるといろいろマズイし、万が一情報が漏れたら僕達も危ない。
犯人はそれだけのシステムを使うと思って動いた方がいい。
どこかないかな?」
トキさんも考えこみ、
「わかった。
近い内に会わせるよ。
また、連絡する。」
そう言い部屋を出た。




