掴めない雨粒
2ヶ月前
晴希を無事に見つけ、ばあちゃん家から小屋へ引っ越してすぐ、トキさんはデジタル世界にいた。
慣れた足取りで訪れたのは、マンションの一室。
ドアを開けたその先には、男性が一人座っており、その足元には犬が寛いでいた。
「誠真、お疲れ。」
トキさんが声をかけた先にいた人物は、誠真だった。
誠真はナノチップに不具合はない。
ただ、ナノチップに疑問を抱き、開発者であるトキさんの元まで辿り着いた。
今では、情報操作を手伝ってくれている。
デジタル社会で行動する為に、トキさんにナノチップ所持者に見せかけたニセ情報を与え、自由に行動出来るようにした。
つい先日、逃げ出した晴希を見つけて、監視カメラや警備ロボのデータを全て操作し、俺達の逃走ルートを誘導してくれた人物だ。
「お疲れ。アイツは大丈夫だった?」
「あぁ、みんながついてるから大丈夫さ。
ところで、今日は調べて欲しい事があるんだ。」
トキさんはそう言って、誠真にナノチップを渡した。
「コレを調べるの?」
誠真はナノチップを受け取ると慣れた手付きで、調べ始めた。
目の前にナノチップの情報が表示される。
それは晴希の使用していたナノチップだった。
行動経路、検索履歴、電子マネー履歴、様々な情報が展開される。
「そのナノチップが誤作動起こす、少し前のデータが知りたい。」
「なんで今さら?」
「帰って来た晴希を見て思った。
なんで発光したか原因を知りたい。」
トキさんがそう言うと、誠真は発光した日のナノチップのデータを表示させた。
「誠真は、晴希がなぜ犯罪者じゃないと思った?」
トキさんは表示された情報を見ながら、誠真に質問した。
発光した時に晴希を見つけ、トキさんに知らせたのは誠真だ。
誠真から、『ナノチップが誤作動を起こしてるかもしれない』と連絡を受け、駆け付けたが、
普通は、発光者=犯罪者と考えるが、何を根拠に犯罪者ではないと思ったのか?
トキさんはそれを疑問に思っていた。
「この日、犯罪が起きてないのに、発光者が出たから。
それに、自分が発光しているのに気付いてなかったから。」
「気付いてなかった?」
「そう。ほんの少しの間。
犯罪者なら、犯罪おかした時点で発光するって自覚しているはずなのに、自分が発光しているのに気付いてなかった。
だからナノチップの誤作動だと思った。」
「じゃあ、発光した少し前のデータ調べてもらえないか?」
そう言うと、誠真はトキさんに言われた通り発光した1時間前の情報を表示した。
表示された情報を確認する二人。
「特に変わった行動はないな。
やっぱり、ナノチップの誤作動か?」
トキさんはそう言ったが、誠真がある情報を見つけ、トキさんの前に表示する。
「ちょっとこれ見て。
このメールの発信源が表示出来なくなってる。
その後、改札を通る時に発光するようシステムが組まれてる。」
「どういうことだ?
メールでウイルスか何か送りつけられたって事か?」
「いや、そうじゃない。
詳しい事は、調べてみないとわからないが、メールと発光システムは同じ発信源から送られてる。
ウイルスや誤作動じゃなく、誰かが意図的に仕組んだ可能性が高い。」
トキさんは少し考え込んだ後、
「悪いが、発信源特定してもらってもいいか?
ちょっと俺は別方向から調べて見る。」
誠真が『わかった』と頷いたのを確認すると、部屋を出て行った。
ナノチップが誤作動した可能性は低いと考えたトキさんは、晴希の周辺を探る事にした。
トキさんはナノチップを開発時から、様々なウイルスや外的要因からのエラーを防ぐ為に、セキュリティを徹底して強化していた。
だから、簡単に外部からのシステム操作は難しいはずだ。
それなのに、ナノチップに発光命令が出せる程のシステムなんて、ただ事ではない。
このシステムが、自由に使えるようになったら、ナノチップ事態が乗っ取られてしまう危険がある。
そんな、脅威を放っておけない。
発光命令が出せる程のシステムということは、それなりのデータ量を使う。
そのデータから、どれだけのプログラムが組まれてるか分かれば、システムを解析出来るかもしれない。
まずは、その痕跡を追ってみようと思った。
データ履歴を調べる為に、誠真から晴希のナノチップの情報をもらい、発光した当日の動きを辿ることにした。
家から学校までの通学路。
晴希が最初に発光した場所。
逃げ回って、最後に飛び込んだ川。
全て同じように行動してみた。
当日のデータ履歴を全て検索したが、特に変わったものが見つからない。
晴希が通った同じ時間なら、別の発見があるかもしれないと思ったが、何も見つからない。
もう一度、別の方法で、別の検索方法で、別の通信経路で…。
様々な方法で履歴を追うが、時間だけが過ぎて行く。
気が付けば、調べ始めて1ヶ月が過ぎていた。
ただわかったのは、晴希はごく普通の高校生だということ。
犯罪を起こすような人物じゃない。
そして、もうひとつ、晴希がいなくなった事を悲しむ人物がデジタル社会にもいること。
晴希が飛び込んだ川を訪れた時に、花とお菓子を供えている人物を見かける。
最初は、晴希の為に供えているとは気付かなかった。
だが、花を手向けている人物を見て、どこかで見たことがあると思った。
その場ではわからなかったが、その後、晴希のデータを見返している時に、その人物が写っていた。
彼女は、晴希の幼なじみだった。
その時、誠真から連絡が入った。
気になる事が見つかったから、家に来てほしいと。




