雨と思うか、晴れと思うか。
ーーー
ばあちゃん家から小屋に引っ越して数日、
部屋の片付けと必要な物を集めるのに大忙しだ。
その間も、みんなは何もなかったように接してくれるのが、嬉しくもありつつ、辛かった。
そんなみんなの力になれるように、出来る事を全部やることにした。
まずは、慣れない畑作業。
耕し方から収穫まで詳しく教えてもらった。
スミさんは教えるのが上手かった。
収穫時期の見極めや、今後の天候、保管場所を考えながら収穫量の調整をし、空翔はスミさんに言われた所を、ただひたすらに収穫していく。
「どこまで計算してるんだ?」
とつい声に出てしまった。
「農業に携わった事がある人は、みんな自然と身につくんだって。トキさんがそう言ってた。
俺はトキさんとばあちゃんに教えてもらっただけさ。」
スミさんは黙々と作業しながら答えた。
「スミさんだって、農業の経験があるわけじゃないのに、これだけ把握してるのは凄い!
空翔なんてただ収穫してるだけじゃないか。」
「そうかな。適材適所ってもんがあるんだよ。
俺は空翔みたいな体力はない。
たぶん鍛えてもあそこまでの運動量はでないと思う。
それは空翔の努力と才能だ。
そして、空翔のあのポジティブと明るさも、きっと誰にも真似出来ない。
だから、出来ない事を嘆くんじゃなくて、自分が出来る事を精一杯してるんだ。
それは、俺も空翔も晴希も一緒じゃないのか?」
そう言うと優しく微笑みかけた。
「そうですね。」
スミさんの言葉に後押しされ、作業を続けた。
作業中もいろいろと教えてくれた。
ここの他にも、緊急避難時や不作に対応出来るように、数か所畑を作っているそうだ。
全ての畑を、おっさんが平坦な土地から作物を作れるまで耕した。
何もないところから一人で作り出すのは凄い事だと教えてくれた。
教えてくれる人もおらず、何が正解かわからない。
そんな中、進めていくのは怖いはずだ。
本当にこの手順で合っているのか?
そもそも、この作業に意味はあるのか?
自分自身を疑ってしまったら、そこから簡単に壊れてしまう。
信念がないと続けていくのは難しい。
トキさんはそれをずっと続けてきた。
大事に育ててきたものは、時間をかけて少しずつ成長し、芽を出し、花を咲かせ、作物を実らせる。
そこで初めて、自分のやってきた事のコタエが返ってくる。
正しいか間違いかは作物が教えてくれる。
改良が必要なのか、それともそのままの方がいいのか、自問自答しながら進める。
そうやって地盤を作り上げた。
地盤が出来たからと満足するのも可能だが、改良を進め、進化していく事が重要だと思ってる。
その時間をかけ準備してくれた地盤を、俺達はあって当然のように使っている。
それまで、どんな苦労や努力や工夫があったなんて知らずに、作物が出来て当たり前と思い込んでいる。
だが、知らない内に全く関係ないものを育てはじめたら?
その方が金儲け出来るんだと言われて、違う使い道をされたら悲しくないか?
みんなのために、健康に元気になって欲しいと願って作ったものが、金儲けの道具として悪用されたら?
しかも、不良品と判断されたモノは廃棄される。
知らない間に悪用され、作った地盤は奪われた。
所有者が変わると、目的も変わってしまう。
トキさんは責任を感じて今も戦ってる。
スミさんは寂しそうに
「俺はトキさんの事、凄いと思ってる。
ナノチップを開発して、世の中便利にして、こんな事誰でも簡単に出来るわけじゃない。
でも、トキさんになりたいかって言われたら首を横にふると思う。
もちろん、人間的にも技術的にもトキさんの事、大好きだし、尊敬してる。
だからと言って、トキさんのように責任のある行動を取れる覚悟はない。
他人から見たら羨ましい部分は誰しも持ってる。
でも、それは表面しか見えないからそう思うんだ。
俺が『トキさんの努力や苦労をやれ』って言われたら、耐えられないと思う。」
と言った。
「そんな事ないっすよ!
スミさんは頭いいから出来ると思う。
それに、トキさんは好きだからやってこれたんだと思う。」
そう明るく入ってきたのは空翔だった。
急に入って来たから驚いて
「なんでそう思うんだ?」
と質問で返してしまった。
「俺と一緒だから!!
トキさんってモノ作ってる時、物凄く楽しそうにしてるじゃん!
ノーズマスク…ってあの水中で呼吸出来るヤツ作ってる時も時間忘れて没頭してたから。
好きだから、いくら時間費やしても飽きないし、楽しいんだ!
だから、トキさんは苦しんでるんじゃなくて楽しんでるんだと思う!」
ものすごく明るく自信を持って言う空翔に、俺とスミさんは顔を見合わせて笑った。
「やっぱりお前には敵わないや。」
そう心の底から思った。
「何だよ!
なんで二人して笑うんだよ!
真面目に言ってるのに!
俺だって、好きな野球をいくら練習が辛くても続けられたのは、楽しかったからだ。
どんなにしんどくても、勝てなくても、一発ホームラン打ったらそれで全部飛んでくんだ!
自分の盗塁で、自分の送球で、それが積み重なって全部が楽しくなる。
だからやめられないんだ!」
目を輝かせながら楽しそう話す空翔。
「空翔、野球やってたのか?」
スポーツやってるとは思ったが、野球とは知らなかった。
「おう!
俺は中学の全国大会出場して、高校も推薦もらってたんだぞ!
結構有名だったんだからな!」
えっへんと言わんばかりに胸を張っていた。
「へー!そうなんだ!!
じゃあ、蓮樹に野球教えたらいいじゃないか!
そしたら、一緒にキャッチボールで遊べるぞ!」
そう言うと、スミさんが
「あ、いや、晴希、あのな、あっちの作物…」
間に入って話題を変えようとする。
「スミさん、大丈夫っすよ!
晴希は知らないんだから。」
空翔は、そうスミさん言った。
「晴希、俺はもう野球は出来ないんだ。」
空翔は、悲しそうに、でも笑って 言った。




