雨粒の波紋が波となって押し寄せる
とにかく疑問しか出てこなかった。
「ルートは封鎖したんだろ?
だったら、ばあちゃん家に住む事に問題はないんじゃないか?」
俺はばあちゃん家に戻れない意味がわからなかった。
「確かにルートは封鎖したが入って来れないわけじゃない。
それに、生きてるって分かれば何が何でも追跡してくる。それが政府だ。
ばあちゃん家は、GPSでも検知出来ないようにデータ操作している。
だが、実際に誰かが来てデータ上存在しない家を目視で確認され、暮らしてる痕跡があれば、確実に命を狙われる。
少しの可能性も潰しておくべきなんだ。」
可能性って、何をそんなに恐れているんだろう?そう思いながらおっさんに疑問をぶつける。
「追跡って、おっさんは毎回ばあちゃん家と向こうを行き来してるんだろ?
それでもバレてないんだから大丈夫だろ?」
おっさんの後をついて行ったんだから、同じじゃないか?そう思った。
おっさんが真剣に返答する。
「俺は向こうに行く時は必ずデータ操作をしてもらってる。
監視カメラや警官ロボに映らないようにデータ操作してる、向こうの世界で行動出来るように架空の個人情報が出るようになっている。
今回探すのを手伝ってくれた空翔も、それで動いてもらった。
だが今回、晴希が行く想定をしてなかったからデータ操作が後追いになってる。
監視カメラにデータが残ってる可能性がある。
そして、一番は晴希が家の近くで声をかけられた事。
晴希の顔見知りだった可能性が高い。
そこから通報されたら終わりなんだ。」
待て待て。
今の発言おかしくないか?
何故そこまで知っている?
「俺が声かけられた時、近くにいたのか?」
恐る恐る聞き返す。
おっさんは冷静に
「いや、実際には見ていない。監視カメラのデータ削除の時、映っているのを見たんだ。
監視カメラと警官ロボのデータは全て削除した。
だが、人の記憶は消せない。
晴希に声をかけて来た人物が、通報し追跡される可能性がある。
向こうの世界にとって都合の悪い存在の俺達を探すのに政府は必死だ。
それだけ恐ろしい世界なんだ。」
と言った。
俺しか知らないはずの行動が全て筒抜けだった。
実際に政府が追跡してきたら?
あの犯罪者扱いされたような事が、ここにいる全員に降りかかるのか?
どうしよう、もしあの声かけて来た人が通報してたら。
俺の顔を見ていたら。
ばあちゃん家までバレて、みんなの命まで狙われたら。
全てが悪い方向に進んでしまったら、俺はとんでもない事をしてしまった。
ここにいるみんなに危害が加えられる。
そう思ったら、全員の顔を見るのが怖かった。
自分自身から血の気が引くのが判る程、全身から力が抜けていった。
どうしたらいい?
これ以上大切な場所を、人を、想いをなくしたくない。
悔しくて目に涙が溜まってくるが、俺は泣く資格なんかないんだ。
何もしてないみんなの方が、家を奪われ、命を狙われてる不安なはずなんだ。
その恐怖の元凶の俺が泣いてどうする!!
悔しい!
自分の行動が!!
無力な自分が!!
自分勝手な自分が!!!
右手を思いっきり握りしめ、自分の太ももに打ち付ける。
何度も何度も。
痛みで泣かないように、そしてみんなの心の痛みを拳で実感するように強く打ち付ける。
こんな痛みじゃないはずだ。
もっと強く、もっと痛く、もっと辛く!!
強く打ち付ける俺の拳を、望月さんが止めた。
「晴希、やめろ。
こんな事しても解決にならない。
それに、お前一人責任感じる事ないんだ。
ちゃんと説明してなかった俺達にも責任はある。
全部背負い込むな。」
俺の拳に望月さんだけでなく、みんなの手が重ねられていく。
温かく、優しい手から伝わってくるぬくもりに拳の力が少しずつ抜けていく。
「晴希、知ってるか?生きてればなんだって出来るんだ!」
満面の笑みで言う空翔に、みんなは『空翔らしい』と笑ったけど、俺は号泣した。
子供のように泣きじゃくる。
安心して、糸が切れ、次から次へと溢れる
止まらない涙を見て、みんなタオルを持って来てくれたり、頭を撫でて落ち着かせてくれた。
やっと溢れ出ていたものが落ち着いた後、
おっさんは
「いいか晴希、お前は責任を感じる事はない。
元はと言えば、俺がナノチップを開発してしまった事が原因なんだ。」
と冷静に言った。




