無知な雨
宙に浮く体。
もう俺は死ぬんだ。
ドッパーン
大きな音とともに波を立て川へ落下した。
川は思っていたよりも深く、流れも速い。
しかも心の準備が出来ないまま落ちたせいもありパニック状態。
もがいて手足をジタバタさせる。
とにかく息を、空気を吸いたい。
呼吸が出来ずに苦しい。流れの速さに体の自由を奪われ水面へ顔を出したくてもそれがどこかすらわからなかった。
さっきまで逃げ回っていて体力も残りわずかなまま、更に水中で体力がもうない。
段々抵抗するのもしんどくなり、意識が遠のき流れに身を任せる。
ぼんやりと覚えているのは顎の辺りに何か纏わり付いてくる事。そして服を引っ張っれる様な感覚。
死ぬ時はスローモーションに見えたり、記憶が走馬灯のように見えるって言うけどそれもないのか。俺の人生呆気なかったな。
どれくらい経ったんだろう。
俺は天国に来れたか?地獄なのか?
体は冷たくてヘドロの様な臭いだ。
ということは地獄か…。
俺、日頃の行い良くなかったのか?
天国に行きたかったな…。
温かくていいところなんだろうな。
あ、なんか背中温かい気がするな。誰か擦ってくれてる様な優しい感じ。
母さんが風邪の時こんな風に擦ってくれたっけ?
「おい!起きろ!大丈夫か?」
母さんこんな声低かったか?
もっと優しく声かけてくれてたのにな。
「おい!死ぬな!」
いや、背中痛いぞ。思いっきり叩かれているような感覚。
「起きろ!」
その声と共に喉の奥に詰まっていた水分を吐き出した。
ゲホッ、ゴホッ、ゴホッ
苦しかった呼吸がしやすくなり、一気に空気を吸い込んだ。
「大丈夫か?」
夢の中で聞いた声と同じ。
「…は、はい…。」
返事をし、呼吸を整える。ゆっくり顔を上げていくとそこには横たわる俺の背中をおじさんが座り擦ってくれていた。
誰だ?ここは何処だ?なんでここにいる?
辺りは少し薄暗くトンネルのような所で声が響く。体力の奪われた俺は横たわっており、地面のコンクリートは体を冷やす。そのすぐ横に水が流れている。下水道なのか排水の酷い臭いがする。
俺の背中を擦る知らない男。30〜40代くらいだろうか。Tシャツにチノパン。全身ずぶ濡れ。どうやら川に落ちたあとこの人に助けられたみたいだ。
ぼんやりとした頭が少しずつ覚醒していく。
そうだ、俺は川に落ちて…いや、その前に重罪者扱いされたんだ。
咳をして口元を押さえる手は発光しておらず、いつも通りの肌色だった。あの発光自体夢だったのか。
その手が顎の辺りに何か付いてるのを感じた。少し太めの紐が絡みついている感じで手で確かめていると、耳元まで続き辿ると頭にヘルメットを被っていた。なんだこれ?とヘルメットを触ると
「取るな。」
一段と低い声で背中を擦っていたおじさんが声を発した。
その声の先に目をやると冷たい物が眉間に当てられた。
本物を見たことないが、黒くて重厚感がある。これ拳銃ってやつじゃないのか?
「そのヘルメット取ったら、こいつであの世行きだ。」
そう言って更に眉間に銃を突き付けられた。
おじさんの目は本気だ。
助けられたんじゃない。
もう少し書く予定でしたが次回に続きます。