懐かしい雨
オレンジ色の光の下へ辿り着くと見覚えのある場所だった。
おっさんと初めて会った場所だ。
ここから向こうに行ける確信が持てた所で、迷わず水に飛び込む。
泳げば帰れる。
無我夢中だった。
着ている服が行く手を阻むかのように重荷になるが関係ない。
手と足を動かし続ける。
川の流れが体を運んで行く。
途中で流れが急に速くなった。
川の流れに体全体がのみ込まれた。
やばい。
息が出来ない。
服が足枷になり水上に上がれない。
苦しいあまり、ジタバタと手足を動かしていると右手に何か硬い棒のようなものに当たった。
これ以上流されては無理だと思い、右手でその硬いものを掴んだ。
水中でただでさえ滑るんだ。
必死になって両手で掴む。
掴んだ事により、流された自分の体が水中で一時留まる事が出来た。
上の方が明るい。
光に導かれるように上を目指した。
「ぶっっっはー」
光の先には呼吸の出来る水上と、見覚えのある光景が広がっていた。
無我夢中で掴んだ棒は、川の端に作られた鉄製の梯子。
おかげで助かった。
流されたまま死ぬ所だった。
そのまま梯子を登り川から上がる。
服のおかげで体は重い。
服のせいだけじゃないか。
これだけ流されたら疲れるか。
着ていた服を絞り水分を少しでも減らす。
まぁ、これだけ全身びしょ濡れならあんまり変わらないかと思いつつも、家までの帰路を考えるとあまり目立ちたくない。
幸いな事に小雨が降っている。
濡れているのを多少はカモフラージュ出来そうだ。
少し呼吸が落ち着いた所で、家を目指す。
あまりゆっくりしていると、人が多くなってしまう。
出来る限り見つかりたくはない。
犯罪者扱いされた上にナノチップもない今は、自分の存在はあまり知られたくない。
家に帰って、家族に今の状況を話してどうにかするんだ。
幸いにも辿り着いたここは、最初に俺が飛び込めと言われた中央川からそんなに遠くない。
ここからなら家に帰れる距離だ。
早朝の為、人にも警備ロボットにもあまり遭遇せずに済んでいる。
気持ちが焦っているせいか、川からずっと走り続けている。
少しずつ家に近付き、見慣れた景色になって来た。
通っていた小学校。
桜並木。
遊んでいた公園。
小学校の頃通っていたクラブチームの練習場。
帰りに寄った駄菓子屋、もう潰れて空き家だけど懐かしい。
この公園で待ち合わせをして、舞華と一緒に学校に行ってたな。
日直で先に行ったら怒られて、「先に行くなら言ってよ」って。
おかげで舞華は遅刻して、先生に怒られて。
だから、先に行く時は目印をするって決めたっけ。
待ち合わせの公園のベンチに草を置いておく。
そんな約束も中学に上がったら無くなったけど。お互い部活で一緒に登校なんてしないしな。
ってそんな干渉に浸ってる場合じゃない。
とにかく家に早く帰ろう。




