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氷雨

治療院の夫妻はトキトウさんの治療を終えたあと、僕を奥の自宅へ入れてくれた。

そして、用意されていたご飯を僕の分も出してくれた。

「さぁ、召し上がれ」


「すみません、ありがとうございます」


「こちらの方が、トキトウさんを助けてくれてありがとう」


「あの、トキトウさんのこと知っているんですか?」


その言葉に、夫妻はキョトンとした顔をして、

「あら?トキさんから聞いてるんじゃないの?」


「あ、いえ」

しまった。言わない方がよかったか?


「トキトウさんには息子夫妻がお世話になっているの。

ナノチップの危険性を訴えているんだけど、トキさんに止められて、それ以来」


「そうなんですか」

そんな事は全く知らなかった。


すると、部屋の奥から赤ちゃんの鳴き声聞こえてきた。


「あらまぁ、起きちゃったのね」

そう言って、鳴き声のする方に行き、あやしながら戻ってきた。


「この子もお腹空いたみたいね。

さぁ、みんなで食べましょう」


そう言ってご飯をご馳走になった。


そこで、トキトウさんの事をいろいろ聞いた。


息子夫婦は医者で、病院に運ばれた患者さんがナノチップの不具合が原因で亡くなっている事を知り、ナノチップの危険性訴えてきた。

しかし、誰にも信用してもらえない。

そこで様々な場所で抗議をしているとトキさん出会った。

これ以上抗議を続けていると、君達が危ないと言われたそうだ。

それでも夫妻は止めなかった。

『不具合があるとわかっていながら、患者を増やすわけにはいかない』

その気持ちが強かったと。


夫妻には生まれたばかりの男の子がいた。

この子が生きていく世界は、ナノチップを搭載する事によって落とす命があってはならない。自由であってほしいと願っていた。

そのため、この子にはナノチップを搭載していないそうだ。


そして今日、夫妻はナノチップ搭載を反対する人達と一緒に、本社へ行くと言っており、トキさんはそれを止めに行ったそうだ。


と、いうことは、あの車に乗っていたのはこの人達の息子夫婦だったのか?


どうしよう。僕は、助ける事が出来なかった。

申し訳ない気持ちで、俯いてしまった。

政府のやっていることは間違っていると、堂々と戦っていた人達を救えなかった。


すると、そこにトキさんが起きてきた。


「申し訳ない。助ける事が出来なかった」

そう言いながら治療してくれた2人に土下座をした。


その姿を見た旦那さんは、

「トキさん、やめてくれ。

君が助かっただけでもよかった。

息子達は立派に戦ったよ。

事実とは違う報道がされても、息子達の行動が少しでも世の中に知れ渡れば、何かが変わるかもしれない。

そのためにあの子達は頑張ったんだから。

ほら、トキさんも怪我がひどいんだ。

まだ安静してもらわないと困るよ」


そう言って、トキさんをベットに戻した。


「さぁ、誠真くんはそろそろ帰らないと、お家の方が心配するわ」

恵子さんがそう言って、車を出してくれた。


「あの、明日も来ていいですか?」

僕は、いても経ってもいられず思わず言ってしまった。

このまま何もしなければ、僕はきっと後悔する。そう思った。

そのあまりにも突然の申し出に


「えぇ、待ってるわ」

恵子さんは優しく微笑んだ。



それから毎日、恵子さんの元へ通った。

学校が終わってから向かい、トキさんの様子を見つつ、息子夫妻の子供の蓮樹の遊び相手をしていた。

その中で感じたのは、恵子さん達は息子夫婦を失った悲しみを表に出さないようにしているが、たまに隠れて泣いていた。大切な息子さんを亡くして悲しいのに、なぜそんなに気丈に振る舞っているんだろうと思っていた。

それは蓮樹のためだった。

息子夫婦が残した大事な命。

蓮樹のために、未来を変えようと動き回った。決してなかった事にしてはいけない。息子夫婦の意思を無駄にしない。

その強い気持ちが、恵子さん達を支えていた。


そばで見ていると、蓮樹と一緒にいる時恵子さんはいつも笑っていた。

「蓮樹には、悲しい思いをさせたくない。両親が居なくても、蓮樹の事をいつも一番に考えていたのよって伝えてあげなきゃ。

それが私の役目だから。

おばあちゃん頑張らなきゃね」

そう言って、抱っこしていた。


その姿を見て、

これ以上政府の思い通りにさせてはいけない。

と固く心の中で誓った。


そして、トキさんに

「ナノチップの取り出し方法を教えて下さい」と頭を下げた。


最初は全く相手にされなかった。

「お前には関係ない」

の一点張りだった。


しかし、毎日トキさんに頭を下げに行っていると、

「なぜ取り出したいんだ?不具合が怖いのか?」

と聞いてきた。


「そうじゃない。

これ以上、被害者を出したくないんだ」


それを聞いたトキさんは、

「命、狙われてもいいのか?」

と強い眼差しで言い放った。


「もう大切な人を亡くしたくない。

守りたいんだ」


その答えを聞いて、トキさんは

「わかった。

ただ、約束してくれ。

もし、何があっても自分の命を大切にすること。

蓮樹みたいにひとり残されたら、悲しむ人がいることを絶対に忘れないこと」

そう言った。


トキさんが一番悲しんでいるんだ。

自分が作ったナノチップが多くの人達の命を奪った事を。

そして、その責任を取るために戦っているんだ。


「はい、わかりました!」

と大きな声で答えた。


その声に驚き蓮樹が泣き出し、恵子さんに怒られた。



それからは、ナノチップを利用し、GPSの偽造や、監視カメラの修正、政府システムへのアクセスなど、僕がしている事をトキさんに話した。


すると、トキさんに驚かれた。

「俺よりナノチップを使いこなしてるじゃないか。

むしろ、このまま俺に情報をくれないか?」


そこから、トキさんと僕の関係は始まった。

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