雨の中の本音
ーーースミさんはカナさんと合流するまで走り続けていた。
「じゃあ、ばあちゃん、蓮樹、くれぐれも気を付けて。何かあったら連絡ちょうだい。すぐに戻ってくるから」
「スミくん、そっちも気を付けてね」
そう会話し、ばあちゃん達を送った。
それからすぐにみんなの居場所を確認しながら、ナノチップ本社へ向かった。
自分ひとりが遅れているのを申し訳なく思いながら、一刻も早く合流したかった。
全員のが本社ビルに集まっていく。
その中でも、カナさんの居場所を気にかけていた。
みんなの会話を聞くと、無事に本社まで移動出来ているようだった。
大丈夫か?
体力的にも精神的にも、一番辛いのはカナさんじゃないだろうか?
こんな長距離移動で、しかも警察に捕まるかもしれないという緊張と隣合わせだ。
すぐにでもそばにいてあげたい。
またカナさんを失いたくない。
その思いが強かった。
だからこそ、この距離が歯痒かった。
速く、少しでも、ちょっとでも追いつけるように。
気持ちだけが先走る。
いつまでも縮まらないのか?
一緒に暮らすようになって、少しはカナさんとの距離が縮まったと思ったのに。
まるで『君には無理だよ』と言われているような感覚だった。
負けてたまるか!
無理なんかじゃないんだ!
何度救われたと思ってんだ。
小さい頃から、ピアノで救われて、カナさん笑顔に心奪われて、亡くなってもう会えないと絶望していたのに、会えたんだ!
生きてくれていたんだ!
そして一緒に過ごす事が出来てる。
これ以上の奇跡ってないだろ?
だから、絶対そばにいる!
「あそこがナノチップ本社だな」
本社まであと少しというところで、全員の通信が途絶えた。
「みんなどうした?
何があった?聞こえたら返答してくれ」
と問いかけるが返答がない。
すると誠真さんから返答がきた。
「スミ、ナノチップ本社で何かあったんだ。
みんなの存在が向こうにバレている」
「え?潜入したときに見つかったってことですか?」
「いや、その前からだ。
たぶんナノチップを装着していない人物を危険人物として特定するよう、システムを変更してるみたいだ。
だから、スミの通信機には、ちょっと小細工した」
「全員出来ないんですか?」
「晴希に言われて、気付いた時には、他のメンバーはすでに存在が知られていた。
そこから小細工しても、もう追跡は免れられない。
だから、まだその時間、デジタル世界に来ていなかったトキさんとスミはバレないように小細工した」
「でも、みんなが危険なのは変わりない。
とにかく、僕もナノチップ本社へ向かいます!
誠真さんはトキさんのことを最優先して下さい。
そのための僕たち囮なんですから」
「スミも言うようになったな」
「いつまでも守られてばかりじゃいられませんよ」
「わかった。じゃあ、そっちは頼んだ」
「はい。わかりました」
そう言って通信を切った。
向こうには、僕たちの存在が知られている。
ナノチップ本社内部で捕まっている可能性が高い。
それならば、一刻も早くナノチップシステムを止めなければ。
一層、本社へ向かう足取りが早くなった。
本社へ到着すると、人の気配は全くなかった。
いくら深夜とはいえ、ここまで静かなのは異常過ぎる。
これはむしろ歓迎されてるってことか。
迷いなどなかった。
中に入った。
どこいる?
無事なのか?
システムまで辿り着いたのか?
あまりにも静か過ぎて、本当にみんなここに来たのか不安になる程だった。
誰もいないんじゃないか?
不安に思っていると、微かに声が聞こえた。
本当にわずかだったが、聞き間違えるはずがない。カナさんの声だった。
近くにいる!
どこだ?
片っ端から廊下先、曲がり角、部屋、全てを確認すると、廊下の奥の部屋にカナさんがいた。
しかし、カナさんは暗闇の中に引き込まれそうなっていた。
『消えていけば…』
そんなこと言わないで。
やっと会えたんだ。
また居なくなるなんて、
「そんなの嫌だ!」
カナさんが消えてしまうなんて嫌だ。
必死に手を掴んだ。
「なんで?」
これ以上失いたくない。
だから
「そっちに行っちゃダメだ!行くな」
「大丈夫だよ?」
大丈夫じゃない。
君は急にいなくなったじゃないか。
あのとき、本当に後悔したんだ。
何も出来なかったから。
だから
「居なくなっちゃダメだ」
「どうして?」
だって
「僕にはカナさんが必要だ」
その一言に、カナさんは悲しそうな顔をした。
そして、その一言をきっかけにカナさん感情が溢れ出した。
今まで知らなかったカナさんの気持ち。
カナさんのためと思って行動していたことが、カナさんを苦しめていたなんて知らなかった。
これ以上言っても、カナさんは納得しないだろう。
だから、僕の本心をさらけ出すしかない。
嫌われても、生きてくれているならそれでいい。
その一心だった。
すると、カナさんからまさかの
「ありがとう、スミくん。
大好き」
と返ってきた。
もう絶対に離さないと誓った。
カナさんと部屋から脱出し、落ち着いたところで、今の状況を話した。
「みんなの存在はもう知られている。だから、どこかから僕達の行動を見ているはずなんだ」
「じゃあ、どうして捕まえないのかしら?」
「一番の目的はトキさんだから。
僕達には興味がないんじゃないか?」
「でも、トキさんと関わっているんだったらここに潜入する前に私達を捕まえたいはず。
それをせずに、本社に潜入まで許したってことは、私達ここまで誘導された?」
2人は顔を見合わせ、
「急ごう!」
と先を急ぎはじめた。




