雨の欠片
そして、空翔はーーー
急に照らされたライトに驚いた。
「なにこれ?」
まるで真夏の太陽のような、眩しい光。
あぁ、夢の甲子園の舞台か!
ウィィィーンとサイレン鳴り
『わぁぁぁぁぁー』
と大きな歓声が球場内に広がる。
「行くぞ!」
という掛け声とともに整列し、審判からよろしくお願いします!の挨拶で試合が始まった。
俺達の目指した甲子園の舞台にいる!
やっとここまで来たんだ!
毎日の練習も、基礎トレも、全てこのために積み重ねて来た。
「みんな!勝とうぜ!」
「俺達なら勝てる!」
全員が自信に満ちあふれていた。
俺ひとりでは出来ないことも、みんながいれば出来る!
全員の得手不得手を知り、フォロー出来るチームワークがある!
だから不安なんてなかった。
しかし、頭に鈍い痛みが走る。
その痛みはだんだんと強くなってくる。
なんだ?この痛みは?
気がつくと、バッターボックスで倒れ、甲子園の土越しにピッチャーの姿が遠くに見えた。
そして、近くに転がるボール。
あれ?俺はなんで倒れてるんだ?
みんなで目指したこの舞台で勝つんだって、優勝するんだって、あれだけ頑張ったんだ。
こんなところで倒れてどうする!
立て!
起き上がるんだ!
しかし、頭の痛みが強すぎて動けない。
だんだんと意識が薄れていく。
待ってくれ、まだ試合終わってないんだ。
勝たなきゃ、やっと掴んだ夢の舞台立てているんだ。
何も出来ずに終わるわけにはいかない。
お願いだ。まだ、何も出来てないんだ。
悔しい。
まだ全力出してないんだ。
まだやり残したことがたくさんあるんだ。
まだみんなに恩返し出来てないんだ。
気がつくと、真っ白な世界にいた。
「何だここは?」
起き上がろうとすると、頭に激痛が走った。
その痛みが強く、もがき苦しんでいると
「空翔すまないが、内蔵されているナノチップが破損していて取り出せない。
もしかしたら、今後この破片が脳に突き刺さり身体に影響を及ぼす可能性がある。
最悪の場合も考えないといけない」
「最悪の場合って?」
「死んでしまう可能性もあるってことだ」
あぁ、そうか。
俺はもう野球出来ないんだ。
どれだけ筋トレしたって、基礎練したって、バッティング練習したって、戦略考えたって、野球は出来ないんだ。
甲子園で勝つことも、試合することすら出来ないんだ。
実際に球が二重に重なって見えるのを目の当たりにすると絶望しかなかった。
追いつきたかったんだ。
自分の中の自信に繋がっていたから。
あの時、父さんが喜んでくれたから。
俺の夢が、取り柄がなくなっていく。
野球のない俺はなんにもない。
あ、俺って空っぽだ。
そう思った瞬間に落ちていくようだった。
どこまでもどこまでも、地の底まで。
遠くから声が聞こえる。
「空翔がきてくれて助かったよ」
「空翔くんがいてくれると、周りが明るくなるね」
「空翔兄ちゃん、一緒に遊ぼう!」
そうだ。俺には、野球部以外にも仲間いるんだ。
みんなと一緒にいることで、俺もここにいていいんだと感じる。
ナノチップの秘密を共有しているだからではなく、俺個人を認めてくれている。
血は繋がっていなくても家族と思える存在だ。
そんな家族が困っているんだ!
そうだ!こんなところでヘコんでいる場合じゃない!
トキさんのためにも、早く行かないと!
そう思った瞬間、目が覚めた。
真っ白な部屋にひとり。
上から落ちたようだ。
背中が痛い。
ここから出て、早くシステムを止めに行くんだ。
背中痛くたって動ける。
動けるならなんだって出来るじゃないか。
壁を登ってでもこの部屋を出る。
出来ないことに目を向けるんじゃなく、出来ることを見て行くんだ!
生きているんだ、やれることをひとつずつ増やしていく。
俺は進化し続けるんだ。
上を目指して登り始める。
壁の小さな引っかかりを見つけては、それに手をかける。その繰り返しだ。
決して持ちやすいわけでもない。
だんだん手も痛くなる。
それでも一歩ずつ上へ。
やっと上まで辿り着いた。
そのころには手がボロボロだったが、達成感でいっぱいだった。
俺は何もないんじゃない。
空っぽなんかじゃない。




