~ファリカの過去4~
水に恵まれない国。
水を常に隣国から買っていて、それでも足りない水の量故に手に入らなかった者たちから死んでいく。
ファリカの【賢者】の知識で水源を見付け、深い井戸を掘る計画が練られていた矢先だった。
「聖女が見つかった!?」
「はい。水龍神殿で【聖女】のスキルが発動した少女が見つかりまして、水の加護持ちになったとの事です!!」
ファリカは自分の知っている【聖女】のスキルを思い出していく。
レアスキルの【聖女】は自分の祈りと願いを神に差し出して、加護をもらうスキル。【聖女】のスキルの持ち主がどの神に祈るかは【聖女】次第だが、神の能力も上昇すると言われていて、どこの宗教もひそかに【聖女】のスキル持ちを欲しているのだが、レアスキルは【賢者】ですら探し出せない条件で埋もれているので探し出すのは困難だったのだ。
そんな中で見つかった聖女。
「――では、この雨は【聖女】の加護――」
ファリカがついポツリと言葉を漏らす。
それに反応したのは誰だったか。
すぐさま【聖女】を保護しようと動き出す。
「【聖女】は王家の保護で養育をしないといけないな!! そうだ。私自ら彼女を守らないと」
さすがにイザルド王子がそう言いだした時に、
「いえっ!! 【聖女】は【守護者】のスキル持つ者が守ります!! 王族を含む権力者が彼女を保護してはっ」
「煩い!! 黙れっ」
王子の声と共に向けられる剣先。
王子の側近の剣だ。
「はっ。【賢者】と言って偉ぶっていた自分の地位が危うくなるからと言って見苦しいな」
そんなファリカの様子を自分の地位が危ういからだと私情で告げていると判断した王子は【賢者】が自分の感情を前提でその知識を利用しようとしたら能力が消滅すると言う事実を知らなかった。
いや、それは【賢者】だけではなく。他のレアスキルも同様――。
そして、それが一番顕著に出るのは………。
「ですが……」
「どうせ、お前の【賢者】とやらの知識で作ろうと思っていた井戸の計画がなくなると思って止めるんだろう。あさましいっ!!」
「…………」
「大体、その【守護者】とやらが本当にいるのか?」
「それは………」
居るはずだ。だが、
「【聖女】のスキルを持つ者が現れたらその【聖女】を守るように対になる形で【守護者】が現れる事は多いのでどこかに……」
「はっ。それをわざわざ探せと言うのかっ⁉ 見つかる可能性が低いのに!!」
「そうです。それが【聖女】のために」
「黙れっ」
こっちの言葉を遮って、
「お前のその不気味な【賢者】というスキルが無用な長物になるからって必死だな。井戸がなくなってお前のような存在はいらなくなるしな」
大切な井戸の事を作る計画をそう言いだす王子に反論しようとするが、
「これは決定事項だ」
お前が口出す事じゃない。
話はそれで終わりだとさっさとこの場を去れと命じて、部下に命じて乱暴に掴まれて追い出される。
…………嫌な予感がした。
いや、【賢者】の知識からすればこれは予感ではなく、歴史的根拠だと言うだろう。
誰かのために祈り覚醒する【聖者】のスキル。
だが、その誰かという前提が崩れたら――。
多くの歴史がその末路を告げている。何度も何度も歴史に描かれて来たのに人々は繰り返してきたと言う事はその行為を止めるのは至難の業だと言う事。
そして、その【聖女】の最後も惨たらしいものが多い。
だからこそ止めないといけないと警告をした。
だが、それは嫉妬だとか。自分の立場が危うくなるからだと言われ続ける日々。
悪手だと分かっていたが、【聖女】自身に直接会って忠告しないといけないと思って、【聖女】のスキルを持つ少女――マリスに会いに行こうと思った。
だが、その時にはすでに遅かった。
彼女を害する存在だと思い込んだ者たちが彼女を取り囲んで彼女を守っていて近付こうとするだけで警戒される。
……………今、思えば、【賢者】としての知識は豊潤にあったが、人間の心というのは知識のようにいかないと言うのを知らなかったから犯した失敗。
人は劣っている者を甚振る事で自尊心を高めると言うのは経験済みだったが、逆に人は勝っている者に嫉妬して足を引っ張ろうとすると言う事実を知らなかった。
正論だけでは人は動かない。ましてや、王子は【賢者】のスキルを煙たがっていたのだから。
そして、同時にそのスキルの利用価値を誰よりも理解していた。
「ラウファリカ・ミルキーウェイ。お前は【聖女】のマリスに嫉妬して【賢者】のスキルを利用して悪行三昧だと言うのは調べがついているぞ!!」
そんな事を言い出した時につい突っ込みたくなった。
誰が誰に嫉妬していると言うのか。
スキルを利用しての悪行はスキルを損失すると言う事実。
それに何よりも【賢者】のスキルを利用して悪行するなら、教科書を破いたとか悪口を告げて、それを周りに告げて流すとか子供の嫌がらせ程度で終わると思っているのだろうか。
ましてや階段や池に突き落としたとか、以前それをされたのならもっと警戒しなさいと言いたいほどの事だ。
「言っときますが、悪口を正面から告げたと言うのは規則や常識を述べただけにすぎませんが」
大きな声でしゃべらない。廊下を走らない。足で扉を開けようとしないとか食べ物を咥えたまま動き回らない。常識的な事だ。なぜそれが悪口になる。
子供のような言い分だが、それだけ王子にとって自分が目障りなのだろうと納得もしてしまった。
彼はずっとわたくしに自尊心を傷つけられて、目障りだったから。
「口答えするな!! お前は罪人として北の塔に幽閉されるがいい。そこで生涯罪を償うんだな!!」
罪を償う。そんな言葉の裏に内政を押し付けると言う声が聞こえた気がした。
そして、北の塔ではなく、全然別の地下牢に囚われて、王子たち……王子と側近らの行うはずの仕事をすべて押し付けられる日々を過ごし。遠くから王子たちが宴会でも行っているのか笑い声が風に乗って聞こえるのに苛立ち、怒り、嘆き、そして、一生ここで利用され続けるのかと諦観し出した時に。
『――見つけました』
牢屋の鍵を持って、兵士の格好をした青年――ゼファが現れた。
『どうやら、陛下とその側近が襲撃され、命令系統に乱れが生じているようです』
『乱れ………』
『王子と聖女を傀儡にしようとする何者かが居る。とだけ』
それだけ告げて、脱走を促された。
その時、ゼファ――ゼファリウム・アルデバランの特殊スキル【守護者】が覚醒していた事。
今のままでは【賢者】のスキルを利用しようとする輩が王子らを利用して動き出そうとする事。
一度身を隠した方がいいと言う事だけ分かると言う事で二人は逃げ出した。
すぐに逃げた事がばれないようにと【守護者】のスキルで本物そっくりの人形が用意されて、怪しまれないように駆け落ちという態で王都を去って、関所を通過したのだ。
ストック無くなりました