~ファリカ。過去3~
典型的な政略結婚
王太子の婚約者に選ばれてから、次期王妃となるための勉強。礼儀作法、社交術。国外のあらゆる事を学んできた。
正直、【賢者】の知識は実際に体験する事でより効果を得る事も多く、他国で成功した事をこの国に合うようにアレンジして政策に乗り出したことで国がどんどん豊かになるのを実感して喜びを感じた。
王太子の婚約者は正直断りたい事だったが、やってみたい事を実践できるというのは利点だったのだ。
今まで資金やら人材やら他領と協力しないといけない領主としての限界で試せなかったありとあらゆる事を王太子の婚約者という立場で実行に移せて、試せるのだ。
心が躍った。
最初は無駄な金食い虫だとかさんざん言われたが、軌道に乗ると誰もそんな事を言わなくなり、先見の明があるとかさすが、【賢者】だとほめたたえた。
褒められると嬉しいし、恥ずかしい……こそばゆいというのだろうかいろんな感情が出てきて落ち着かなかった。
そんなこそばゆい感覚をしている中。
「ちっ」
それをよく思わない人物がいるというのもうすうす察していた。
「気味が悪い。なんでこんな化け物が俺の婚約者なんだ!!」
会うたびにそう罵られて、舌打ちをされる。
婚約者同士で交流でもしなさいと用意されたお茶会に出ても会話は続かない。しまいには王太子はお茶会をすっぽかすような真似をしだした。
子供じみた真似をする。
呆れたが、それに対して何かしようという気が起きない。いくら【賢者】の力を持っていても自分を気持ち悪がって化け物呼びをする王太子に媚びて宥めて好かれようとする方法など知識としてなかったし、何よりもそんな事をわざわざしてまで気に入られたくなかった。
所詮政略結婚だと理解していたし、自分が断れる立場ではないのだ。
お茶会をいつも通りすっぽかすだろうなと思ったから日傘を用意してもらい、日傘の下で持ってきた本を読む。
レアスキルの事が書かれてある王宮の図書室にしか置かれていない貴重な本。その本には【守護者】というスキルの紹介があった。
身体能力が人並みかそれより低いレアスキルの所有者は過去何度もそのスキルを邪魔だと思った存在によって殺されているという歴史が書かれており、そのレアスキルを持つ存在の傍に【守護者】が生まれやすく守ってくれるようになっているとあった。
「【守護者】……」
身体だけではなく、心も守ってくれる存在。
そんな存在が傍にいればわたくしはもっと自由だったのだろうか。
…………自分の役目を理解している。【賢者】の知識で国を発展させられるのならいい事だ。それがたとえ、王子妃という立場になる事を義務付けられて、そのために不自由さを味わい、心通わせる相手との間にどんどん溝が出来ていても。
なら、歩み寄ればいいと理解はしているが、こちらから歩み寄るには王太子の行いが許容範囲を超えていた。
王太子妃になりたいわけではないのにそのために行う事をすべて全否定して、【賢者】の知識を欲しての政略結婚のはずなのにそのスキルの発動を気味悪がり、【賢者】の自分を化け物呼びするのだ。
それで好意を持てと言われるほど無理な話はない。
まあ、それはこちらの言い分であちらにはあちらの事情があるのだろうとは思うが、それでも人間関係を築くという知識は実践できずにいたのだが。
そんな矢先。
「【聖女】のスキルを持つ者が見つかった!!」
という報告が来たのは水不足で苦しむ民のために水を手に入れるためにいくつかの計画を立てて実行に移そうかと思った矢先。
水の手に入りにくいわが国では珍しい長雨が降り続けたある日だった。