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~ファリカの過去2~

立場は不遇だけど周りに恵まれていた

 スキル【賢者】というのが孵化した途端今まで魔力なしだと嘲笑っていた人々が手の平を返す用に近付いてきた。


『聡明な方だと常々思っていましたのよ』

 魔力なしの出来損ないと同じ口で告げていた女性が扇を口元に持ってきて告げてくる。


『素晴らしいお嬢様だ』

 かつて公爵家も落ちたものだと足を引っ張ろうとしていた男性が馴れ馴れしく近づいてくる。


 そんな人々の言葉を笑顔を浮かべて話をしないといけないという状況にむかむかとするものがあったがそれもすべて飲み込んで対応していく。


 特殊スキルを持つ者と親しくなると何かおこぼれがもらえると思っている人々に囲まれてゆっくり休む暇もないと疲れを押し隠している時だった。


『すみません!!』

 ばしゃっ

 ドレスに掛かる水。


 たまたま通りかかった青年が持っていたグラスが誰かとぶつかってわたくしのドレスに掛かってしまった。


『すみません!! お怪我はっ⁉』

 黒い髪の青年が慌ててポケットからハンカチを取り出してとんとんと濡れた個所を拭いていく。


『乾くのに時間が掛かりそうだ……。すみません。控室で代わりのドレスを用意してもらいますので着替えて……』

 と通りかかったメイドに控室を用意してもらうように指示するさまを見て、代わりのドレスがあるという言葉を聞いてふとある事に気付く。


『さあ、こちらへ』

『………』

 気を遣うようにエスコートするさま。

 持っていたグラスに入っていた水。


 会場から抜け出して、人が居なくなったのを見計らって、

『わざとですね………』

 わざと水を掛けた。ドレスのしみにならない飲み物を選び、控室もあるのを確認。予備のドレスまで用意して。


 しぃ

 口元に指を持っていき、そうジェスチャーする青年の悪戯がばれたような面白がるような青い目に気付いて、笑いそうなってしまう。


 おそらく彼はわたくしの笑顔が嘘っぽいのに気づいていたのだろう。抜け出す機会を作ってあげるために手を回して。


『ドレスはもともと何かあった時のためにいくつか貸し出されているので、お願いしただけですよ』

 いろいろありますからね。

 含みのある口調で告げる声。


 その含みに、酔っ払い同士のトラブルを含むその他諸々があるというのはなんとなく分かった気がしたが、子供が知る事ではないないようだろうから口にしない。


 二人きりになると青年だと思ったその人が、まだあどけない子供……成長途中の自分と同じくらいか一つ二つ上ぐらいだというのに気づいた。


『助けてくださってありがとうございます。わたくしはミルキーウェイ公爵令嬢。ラウファリカと申します』

 おそらくわたくしの方が位が上だと思ったのでこちらが先に挨拶をすると。

『いえ、水をお掛けするという無礼を働きまして申し訳ありません。アルデバランの一子。ゼファリウムと申します』

 爵位を言わなかった。


『アルデバラン………』

 額の金色の瞳が開く。


 スキルに目覚めてから金色の目が開き、知らない情報がどこからか送られてくる。


 アルデバラン。

 神殿預かりの子供で、何らかの理由で家族と暮らすことが危険だと判断されて保護された子供。


 主に特殊スキルの可能性がある子供。


 …………わたくしの家族がわたくしをただの魔力なしだと冷遇していたらわたくしもまたアルデバランという姓を抱いただろう。


 魔力を持たないと言う事はそれだけ……特殊スキルが秘されていると言う事はそれだけ危険なのだ。わたくしは家族に恵まれていた。


 特殊スキル【賢者】の覚醒……孵化の条件は、知識を仕入れる事の出来る環境下で、それを実際に見に行ける行動力。


 そして、何よりも、自分の得た知識を活用したいと思える。そう思わせる人々に愛される事。だったのだ。


 わたくしの【賢者】のそんな難しい解放条件である事を知ると他の特殊スキルも解放条件が難しいと判断できる。


『綺麗な目……』

 するっと出てきたような言葉。


『えっ……?』

 彼の見ている場所は、両目ではなく、額。


『それが、【賢者】のスキル発動した姿なんですね。綺麗だな……』

 青い目を見開き、あこがれの眼差しを向けてくる青年。


『いつか、僕も………』

 貴方のように特殊スキルを孵化させれるだろうかと不安げに、それでいてどこか期待している声に。


『そうね。……孵化できたらいいわね』

 実際には難しいだろう。神殿で暮らしている【預言者】のスキル持ちのポーラ様が居て、わたくしがいる。どうやれば孵化するのか不明であるので、二人も特殊スキルが孵化している事が奇跡に近いかもしれない。


 でも、未来は分からない。

 彼の特殊スキルがどんなものか分からないが、孵化できるといいと願った。



 


 ただ一度の出会い。記憶の隅で消えてしまってもおかしくない。少なくてもわたくしはこのまま忘れてしまうような些細な出会いであった。


 それが一生大事な記憶になるのはいくつかの人々の思惑が折り重なったから。他の特殊スキルは覚醒するか不明でもしかしたら現れないと思われたのだろう。


 わたくしは、その【賢者】のスキル目的で、王族との婚姻が決まった。


『気持ち悪い!! なんだよっ。その不気味な目!! こっちみんな!!』

 その未来の伴侶になる王子は、わたくしと婚姻関係になる事で王太子になるのが決定していた。その王子であるイザルド・レグルスの第一声はそれだった。


 彼はわたくしの【賢者】のスキルを利用して玉座を得るのに、その発動を不気味に思い、否定したのだ。

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