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一応主人公はヘアラです
気が付いたら綺麗な服を着せられて森の外へ三年ぶりに出る事になった。
「なんかいろいろあって困る……」
慣れない綺麗な服。
乗るのを躊躇うほど立派な馬車。
「ねえどうなっちゃうの?」
不安になって離れたくないからという理由で狭いのに両隣に座ってもらった二人に尋ねると。
「そうね~。どうなるのかしら」
「ポーラ様なら悪い事にならないと思うけど、問題はあの方々が以前と同じことを繰り返すのなら」
困ったように頬に手をやるファリカとにこやかに微笑みながら殺気を放っているゼファの言葉に。
「――何かあったの?」
考えてみたら妙な話だ。駆け落ち夫婦の二人。なんで森の中で隠れるように暮らしてきたのだろう。人を隠すなら人の多い街でいた方が見つかりにくかったのに。
「う~ん。説明すると難しいけど。正直、人間に関わりたくなかったのよね」
ファリカが言葉を選ぶように告げてくる。
「関わりたくなかった?」
どういう事だろうと首を傾げると。
「あの時は………ゼファとポーラ様以外。う~ん。お父様とお母様はそうでもなかったかもしれないけど、それ以外の方は怖かったのよ」
あの時は心が病んでいたからね。
「心が病んでいた……?」
どういう事だろうと首を傾げるが、
「説明できないわね。まだ、整理付かないから」
そのうち笑い話に出来るようになったら教えてあげるわね。と困った顔で告げているファリカと一切口を挟まないゼファ。
そんな二人に疑問を抱くが、何も言わずにその件はこれ以上は聞かないでおく。
馬車は進む。
森の外を抜け、たくさんの家が並ぶ所に出て、家の造りが煉瓦とか石で作られているのを見るとやはり自分の住んでいた場所がおかしいのだと思える。
「ここら辺は水害の被害はないみたいね」
ファリカが車窓から街の様子を見ながら呟く。
「ポーラ様が、ファリカの計画を実行してくださったようだね。ほら、あそこで水を溜めれる池も用意されている」
ゼファが指差すのは策で囲まれている空間。
「ホントだわ。水害対策に備えていろいろ進言してきたけど。まさか、しっかりやってくださるなんて……」
感動したように呟くファリカに、ゼファはヘアラ越しでファリカに手を伸ばして、
「よかったね」
と微笑む。
「ええ………」
ファリカはそれだけ告げてそっぽ向く。
ファリカもゼファも分からない事が多い。特に今回の事は。
「…………」
そのうち話してくれるだろうと思ってあえて何も言わずにいる。じっと黙って二人を見ていたが、馬車酔いしそうなので外を見る事にした。
ファリカが静かに泣いていて、それをずっとゼファが頭を撫でて慰めているなんて見ていない。見ていないんだから。
馬車の揺れにお尻が痛いなと思って、じっと耐えている中。
「久しぶりだわ」
ファリカが外を見て呟く。
ゼファも顔をほころばせているが、
「聖女様やあの方々は来られるのか?」
と馬車の外で並走している兵士の一人に尋ねる。
「いえ………、ポーラ様が立ち入りを禁じられています」
「なら、大丈夫かな」
といいつつも警戒をした方がいいだろうと呟くゼファに。
「そうね。――わたくしもあの方々にお逢いしたくないわ」
溜息混じりで呟くファリカ。
「あの方々?」
名前を伏せているというか言いたくないという感じな二人に違和感を感じると。
(というか。なんで二人は聖女様に会うかもしれない可能性を口にして、会いたくないという言う態度なんだろう)
と首を傾げるが、触れてはいけない事なんだろうなと空気を読んで黙っておく。
それよりも。
「綺麗………」
そうとしか言えない。
ステンドグラスがたくさん作られている窓。その窓を引き立てるように全体的に真っ白な壁。
天にも届きそうなその建物を。
「神殿だからね」
ゼファが告げる。
「神殿……?」
神様にお祈りする場所だとは聞いた事ある。ヘアラの……ヘアラを馬小屋に閉じ込めて、捨てた両親がたまにお祈りに行くと話をしていたのを小屋越しに聞いていた。
「ついでだし、ヘアラも儀式しておく?」
儀式と首を傾げると。
「スキル確認。魔力とかステータスを自分で見れるようにするんだ。魔力なしだと思われていても、別のスキルがあるとか……」
とゼファが説明してくれていたが途中で言葉が切れる。
「………特殊スキル」
ぼそっ
何かに気付いたように呟く声。
「それなら、魔力なしでも納得がいく……。特殊スキルは覚醒するまで魔力なしの事もあるし、魔力とは異なる力がある場合もあるし」
ゼファの言葉に。
「……………………………あり得るわね」
「だよね。ちなみにファリカはスキル覚醒まではどうだったの?」
「魔力なしだったわね。それでよくいじめられたものよ。ゼファは?」
「同じく魔力なし。役立たずの子供だと言われて使用人扱いされて来たかな」
しみじみと昔を振り返るような話をしているのを聞いて。
「じゃあ、二人はヘアラを受け入れてくれたのは魔力なしだったから……?」
実の親が魔力なしだからと馬小屋に閉じ込めて、人買いに売り飛ばしたのに、二人は受け入れてくれた。
「う~ん。それもあるかも」
「賢者のスキルが覚醒したら魔力を持った者が増えたのはごく最近で、以前は魔力持ちは一割だったというのを知ったのもあったわよ」
二人はそんな話をしながらゼファはヘアラの頭を撫で、ファリカは自分の元に引き寄せるように腕を回して、
「でも、一番はヘアラを大好きになると思ったからだよ。実際そうなったしね」
「大好きよ。ヘアラ」
二人の言葉が嬉しくてへにゃと顔が緩んでしまった。