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『ヘアラ』

 真っ白い空間で誰かに呼ばれた。


 誰だろうとその声の方向に視線を向ける。


 ほわほわと宙に浮かぶまん丸い光がそこにあった。


『君は幸せ?』

 光が尋ねる。


 幸せと聞かれて、何当たり前の事を言うんだろうと思いながらも。

『うん!!』

 返事をすると光が満足げに点滅して。


『なら、君を幸せにしてくれている二人にお礼をしないとね』

 光がゆっくりとこちらに向かってきたと思ったら体の中に溶けるように消えていく。


『その気持ちを忘れないでね。君は今日から――だよ』

 光の声が内側から届いた。






 朝起きるとまず自分のいる場所を確認する。


(天井……布団……布団はいつも通り硬い)

 もっと柔らかい布団にしてあげるねと言われたけど、柔らかすぎると落ち着かないからこのくらいがいい。

 布団というか寝る前に身体を冷やさないように包んでくれるものがあるなんて今まで知らなかったのでこんな温かいものがあると言う事が驚きで、それ以上求めたら罰が当たりそうだ。


 もぞもぞと布団から出て、部屋を出る。


(変な夢見たな。なんだったのかな)

 二人ならさっきまで見た夢を解釈してくれそうな気がするなと思ったけど、歩いているうちに夢の内容を忘れてしまった。


 忘れると言う事はあまり印象的ではない夢だったのだろうと勝手に想い台所に辿り着く。

「おはよぉ」

 目をぱしぱしさせながら台所にいる人影に声を掛ける。


「おはよう。ヘアラ」

 赤い髪にきつそうな緑色の目の女性が声を掛けてくる。悪人のような怖い顔でしょうと最初に会った時に言われたが、とても真面目で優しい人なのはよく知っている。


「おはよう。ファリカ。ゼファは?」

 目をこすりながら問い掛けると。


「ゼファなら鶏小屋よ。朝ご飯用の卵を分けてもらうって」

 だから、卵待ちなのよ。

 そんな風に告げてフライパンを見せてくれるファリカに、

「じゃあ、ヘアラも待ってるね」

 と椅子に座って待とうと思っていたら。


「そんなに待たなくていいわね」

「ただいまファリカ。おはようヘアラ。卵持ってきたよ」

 にこっと微笑みながらドアを開けて入ってきたのは黒い髪に青い目の青年。気弱そうで騙されやすそうに見えるが、実際にはそんな事を思って騙そうとする人を撃退する能力が高い。


「ありがとう♪ 早速目玉焼きにしましょう♪」

 準備していたフライパンにさっそく卵を次々と入れていく。


「あらっ。一個双子卵ね♪ ヘアラの分にしましょう♪」

「そうだね」

 そんな話をしながらフライパンを覗き込んでいる二人。


「ほら、見てヘアラ」

「見事な双子だよ」

 と優しい声で呼ばれて、狭いのに三人固まってフライパンを見る。


「ほんとだね」

「私は半熟。ゼファは完熟。ヘアラは……」

「少しだけ固まっていない目玉焼きが好きだな~」

「あら、難しいわね」

 と話をしながらファリカが次々と卵をお皿に乗せていく。


 その間にゼファがお米を盛り付けて食卓に並べる。

「ヘアラ。席に着こうか」

「はぁい」

 返事をして、席に着く。


「「「いただきます」」」

 手を合わせて告げると食事が始まる。


 ごはんとみそ汁と目玉焼き。

 ごはんというものもみそ汁というものもこの家に来てから食べるようになった。


 ゼファが試行錯誤して見つけて、作ったと教えてもらった。

 素敵な人たちだ。


 ……………この人たちが居なかったら”ヘアラ”は居なかった。


 ヘアラという名前も。

 この幸せも。

 三年前にもらったものだ。


 ヘアラは……あたしは、魔力なしで不気味な灰色の髪と目を持つ子供と言う事で、名前を与えられず、家畜小屋で育てられ………いや、育てられたというとファリカがそれを育てたって言わないの!! と憤慨していたが……。


 もともと水の少ない国であったのに最近では水が多くなりすぎて、水害に見舞われてたとかでもともとあたしを厄介払いしたかったのもあったのだろう人買いに売り飛ばした。


『こんな珍しいのを好む好事家も居るからな』

 そういう輩に売り飛ばせば高値で買ってもらえると言われた言葉に、何も感じなかった。


 言葉も小屋の外で話しているのを聞いて覚えていただけで、誰とも会話した事なかったあたしにその内容は理解できずにただどこかにやられるのだけ分かったのだ。


 両腕を紐で縛られて引っ張られるように歩き続ける。


 と、そこで――。

『うちの奥さんの言ったとおりだな。人が森に近付いているって』

 てっきり追手だと思った。といきなり目の前に現れて、奴隷商人に向かって告げると彼は不快気にこちらを見て。

『それにしても、奴隷は禁止されてるんだけど~。どういう事かな~』

 ましてや、この森に近付くなんて密売だと言っているようなものだしね。という声と共に奴隷商人を捕らえて、

『さて、どうしようかな~』

 と奴隷商人をじっと見つめて、

『うん。そうだね。こうしよう』

 と木にぶら下げて放置したのだった。


『怖かったね。もう大丈夫だよ』

 そう視線を合わせて告げられたのは、初めてだった。


 誰かと視線を合わせる事も。自分を見て話をしてくれる人も初めてで信じられなかった。


 それが、ゼファ。

 ゼファは混乱しているあたしを連れて、見た事もない――もっともずっと家畜小屋に住んでいたから他の家を見た事ないが――木と土と紙で作られた家に向かう。


『ファリカ。奴隷商人がいたよ』

『追手じゃなかったのね。よかった~。で、この子は?』

『捕まっていた子』

『そうなのね。おうちに連絡した方が……』

 と言いかけて、ファリカと呼ばれた女性の額から不思議な金色の目が現れて、

『ああ。駄目ね。――ゼファ。この子はわたくしの娘にするわ』

『――【わたくし】じゃなくて、【わたくし達】の子供でしょう。奥さん』

『お…っ!! そうね。そうだったわね。奥さん……奥さん……』

 ふふっ

 顔を緩ませて微笑むファリカにそんなファリカを見ながら同じように顔を赤らめているゼファ。


 二人は、一年前に駆け落ちしたばかりの夫婦だというのを後日知らされた。そして、あたしは二人からヘアラという名前をもらって二人の娘になったのだった。


 それから、三年たった。




「サンドクロスの水害ますますひどくなっているみたいね」

「もともと水の少ない地域だったからね。水害対策もしていないだろうし」

 食事をしながら二人は話をしている。


()()()()()()が現れたから今まで水不足で苦しんでいたのに急に水が増えたからね」

 水神の聖女というのは清らかな乙女で馬小屋にいる時に聞いた事ある水神に愛されているだけではなく、王子様達にも愛されているすっごく綺麗な方だとか。

「それにしても増えすぎよね~」

 おかしいわとファリカが呟く。

「ここまで来たら恵みの雨じゃなくて災害になっているよね」

 ゼファが同意だとばかりに告げると。

「水害を防ぐには木を植えるのが一番なんだけど、伐採ばかりしていて、木を植えていないようなのよね~」

 ファリカの額から金色の目が現れる。

 ファリカは【賢者】というスキルを持っている。そのスキルを使う時に第三の目が出るとか。


「この目怖いでしょ~。それで、いろんな人に嫌われちゃって~。見た目も悪役令嬢ぽいし」

 と話していたファリカに。


「ファリカの目はとてもきれいだし。顔は可愛いよ」

 とのろけて赤面させるゼファの言葉は激しく同意だし。そんな事をスルッと言ってしまう様はかっこいいと思う。


「もちろん。目だけじゃなくて、美味しいものを食べてほころぶ表情も珍しい物を見つけて輝く緑の目もすべて素敵だよ」

 すらすらと誉め言葉の羅列が続くが、これがファリカが怒って赤くなったと勘違いして慌ててフォローしているというのを一緒に暮らしていくうちに悟った。


 で、そんな言葉を惜しまずにべたぼれ具合を発揮するゼファにファリカはたじたじになりながらも想いをしっかり受け止めて同じように想いを返す夫婦。


 割れ鍋に綴じ蓋だというのだと最近ファリカの本で学んだ。で、そんな二人を見ているとこれで駆け落ちまでしているのにまだ初々過ぎるので呆れてしまう。


「弟か妹欲しいんだけどな……」

 ぼそっ

 呟くと二人とも顔を真っ赤にして。


「そ、それは欲しいけど……ま、まだ心の準備が……」

「そっ、そうだよね~。生活基準がまだ整っていないんだし……」

 もじもじとしている様を見てまだ遠そうだなと思っていると。


 からんからん

 森の入り口から音がする。


 確か侵入者に反応するように仕掛けた罠だったな。

「ファリカ」

「……森の外から十人……超えているわね。列を為しているからもともとそういう教育をされている組織。軍かしら」

 ファリカの言葉に、

「じゃあ、行ってくるね」

 どこか普通の言葉だったが、副音声で、逝ってこさせるねと聞こえた気がしたのは気のせいだろう。にこやかに武器を持ってゼファが外に出て行った。

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