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第8話 半魔(ハーフ)の少女

 いてぇ。腹と背から伝わる痛みで起き上がれそうにない。だが、今もたれかかっている瓦礫の中には、人がいるかもしれないんだ。俺はダメージを抱えながらも、ゆっくりと立ち上がる。いくらダークウルフ三体を倒した相手とはいえ、チートスキルを持っているミーアが早々やられることはないだろう。となれば、俺はこっちの問題を解決するのが先だ。


「誰か、誰か! いたら教えてくれ!」


 叫ぶと身体に響いて痛い。あの子らの両親は、ここにいないのか?


「こほっこほっ」


 あっちか!


 瓦礫をかき分け、微かに聞こえた声を探す。そして、先ほど聞こえた咳払いの声が大きくなったのに気づいた。恐らく、目の前にあるこの大きな瓦礫の中にいるに違いない。ぐっ、重い。俺のこの鍛え上げた肉体を持ってしても、簡単には動かせそうにない。くそ、あと1人いればいけそうなんだが……。


「今すぐ助けるから、もう少し我慢してくれ!」

「わ、わた……私も手伝って、いいですか?」

「えっ……!?」


 俺が瓦礫の下に手を入れた直後、隣に誰かの足が見えた。顔をやると、そこにはキールと呼ばれていた魔人の少女がいた。クソ、人の命がかかっているのに……。


「あの私、魔人って間違われるんですけど違うんです。私はキール・カリシュ……魔人と人間のハーフです。つまり、半魔と呼ばれる存在です」


 キールは慌ただしい手振りと表情で、必死にそう自分の素性を伝えてきた。そして今この状況で言うべきではないが、彼女は隠れている紅い眼と、見えている蒼眼のオッドアイであることがわかる。それにしても、確かに魔人というほど恐ろしさを感じない。シャディアークと比べるとツノがあること以外人と変わらないし、彼女の言うとおり半魔(ハーフ)って言葉が似合う。


「そう……なんだ」

「……うぅ。やっぱり私のこと、信用できないですよね」


 キールはローブの裾をギュッと両手で掴み、顔を暗くさせる。その姿は、俺にはただの少女にしか見えなかった。


「いや、半魔だろうが魔人だろうが……俺は敵対心がなければ怖くないよ。手伝ってくれるっていうなら、力を借りたいな」


 どの道瓦礫をどかすのに、人手がいるのは本当だしな。彼女の素性が何なのかはこの際置いといて、協力してくれそうかどうかを見るべきだ。


「本当ですか!? ボルト以外にそんなこと言われたの初めてです。うぅ……嬉しいな」


 キールは嬉しかったのか、涙をポツンと垂らした。何だか知らないが、彼女を泣かせるのは罪悪感が湧く。


「キールちゃんだっけ……早く助けないと」

「あっすいません!」


 暗い雰囲気を切り替えるように、俺は再び瓦礫に手を入れた。グッと力を入れていると、涙を拭いたキールが隣で同じように持ち上げる動作をした。


「はぁ、はぁ。よし、誰か! この人を運んでくれ!」


 やっぱり、二人いればなんとかなったな。幸い、瓦礫の下にいた人は大きな怪我はしていなかった。大声で冒険者らに伝え、負傷者を救助した。その最中も、やはり彼らはキールを警戒していた。彼女は彼らの視線を察して、ゆっくりと遠ざかる。


「それにしても、キールちゃんはあんまり力ないんだね。魔人とのハーフなら、腕力も相当だと思ったけど」


 たった数分話した程度だが、彼女に怖さは感じない。ずっとこうやって避けられてるのは、少し可哀想だ。俺は咄嗟に彼女のバツが悪い空気を変えるように、そう話しかける。


「はい。私の母はサキュバスなので、筋肉とかそういうのは……その」


 キールは恥ずかしいのか、赤面しながらそう答える。


「さ、サキュバス!? へ、へぇそうなんだ」


 サキュバスってあれだよな、人間の精を吸うあの……いやいやいや、変な妄想はやめろ俺!


「オルテガさん……その、ごめんなさい」

「へっ? 唐突に何だよ」


 脳内でピンクな妄想を繰り広げる最中、キールは申し訳なさそうに話しかける。


「ウォーターショ……!?」


 その瞬間、ミーアが魔法の詠唱を途中で止める声が耳に入る。いや、止めると言うより撃っても意味がなかったのだ。彼女の方を見ると、杖を構える先にはビリビリと青い閃光の残像だけしかなかった。


「後ろだ!」


 遠くから見てる俺にはすぐわかったが、ミーアは背後に回っているボルトに気づかなかった。電気をまとった高速移動、早すぎて遠くにいても完全には捉えきれない。


「アハッ! おそおそだねぇ」

「……ミーア!」


 ボルトの足がミーアの背にぶつかると、ビリビリと彼女の身体に電撃が駆け巡る。痙攣するミーアは、白目を剥きながらうつ伏せに倒れ込んだ。


「やっぱり……ボルトは手加減を知らないので、オルテガさんのお仲間さんを傷つけてごめんなさい! で、でも私がその、助かるから……あっ!」


 手加減を知らないって、死んじゃうってことだろ?ミーア、俺がもう少し早く助けに入れたら……クソッ!


「あ〜あぁ。私より強いかもって期待したけど、大したことないんだなぁ。よわよわちゃんは、魔法士になる資格ないんじゃないかな?」

「……くっ、あなたに決められたく……ない!」


 ミーアは意識を取り戻し、見下ろすボルトを見つめる。


「ふ〜ん。でも、私があなたのこの腕をめちゃくちゃにしたらどうなるかな? 私が決められちゃうんじゃない?」


 ミーアは腕の上に足を置かれるも、抵抗する力も残っていないようだ。ボルトはニヤニヤして、彼女の反応を楽しんでいた。


「……!?」

「いいねその顔。私、その顔大好き! ねぇミーアちゃん、私の下僕になればこの腕壊すのやめるけどどうする?」


 ボルトはグリグリとかかとで腕を押し、ミーアを脅した。


「……」

「時間はあと3秒ね。さ〜んっ、にぃ〜いっ、い〜ちっ、ぜろ〜」


 間一髪、俺がボルトの腕を掴んだ。もう、彼女に好き勝手させる訳にはいかない。


「その手を離せ」

「はぁ? おっさん何?」


 舌打ちをするボルトは、冷めた声色でそう発した。


「おっ、おっさんちゃうわ! まだ16歳!」

「どうでもいいけど、キモいんですけど。手を離せっていうけどさ……おっさん、あんたが離せよ」


 ギロリと殺意を帯びた目を向けられ、思わずゴクリと唾を飲んだ。今俺、すげービビってる。でも、今更逃げることもできない。


「俺はミーアの仲間だ。君が彼女にこれ以上手を加えるなら、見過ごすわけにはいかない」

「立派な正義感だね。でもざんねーん。見るからに雑魚そうなおっさんに、この81期生最強となるこの私を止められるかしら」

「そ、そんなの知らん! や、やってやる!」


 もうどうなっても知ったことか!

俺はボルトのビリビリと電気を浴びた手にドクドクと鼓動を早め、脳内でどうするかと考えを巡らせた。

いつもお読みくださり、誠にありがとうございます!

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