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第98話 自己紹介 Ⅷ

 一番前に座ってる背の高い女子が立ち上がった。

 ぱっと見、俺より高い。

 そして、結構手足が長いように見える。

 しっかりと背筋を伸ばして立ち上がるところを見ると、何かスポーツをやっているようだ。


 髪の毛もかなり短めに整えている。

 顔立ちも悪くはないと思うが、どちらかと言えば、そのりりしい顔立ちは男っぽさを兼ね備えている。


今野瞳(コンノヒトミ)です。舟野市立三里中学出身です。中学ではこの背を生かして、バスケやってました。高校でもバスケ部に入るつもりです。」


 今野さんはそこで柊先輩に顔を向けた。


 お、今度は百合発言か!


「柊先輩も素敵ですが、柊先輩の後輩で2年女子バスケ部の狩野瑠衣(カノウルイ)先輩が自分の憧れです。お二方のファッション誌でのご活躍、これからも応援してます。頑張ってください。」


 深々と柊先輩にお辞儀をした。

 自己紹介なのか、応援のメッセージなのか、少しあやふやになった。


「今野さん、ありがとう。瑠衣にも伝えておくね。瑠衣は特に私よりも、読モの方に一生懸命だから励みになると思うよ。」


 先輩は深々とお辞儀をした今野さんに、そんな優しい言葉を掛けた。

 その声音は、読モを頑張る狩野という先輩に向けたものでもあるのだろう。


 当の今野さんは「よろしくお願いします!」と、体育会系な挨拶を柊先輩にして、座った。


 続いて、景樹が立ち上がる。


 もしかしたら気のせいかもしれないが、その景樹を見る今野さんの瞳が熱っぽくキラキラハートを飛ばしているように見えたのだが…。


佐藤景樹(サトウカゲキ)です。美川市立下總中学出身です。もう、サッカー部に入部して、後ろの席の塩入君と爽やかに汗を流しています。クズ野郎かいいやつなのかまだよくわからないけど、白石とも、今日友達になりました。こんなふうにこのクラスの人とはいい友人関係を作りたいと思ってます。よろしくお願いします。」


 微妙に俺をいじりつつ、いい人アピールを忘れない。

 すんげー強コミュ者だ。


(あれくらい人とコミュニケーションを簡単に取れたら人生楽なのかね)


(いや、あれは多分、人間関係に苦労した結果だろう。なにがあったかはわからんが。逆にいえば、陰キャという輩は人間関係をないがしろにしても誰かが何とかしてくれると思っている甘えん坊なんだろうな、光人。)


(言い返す言葉が思いつかない。自分が何かしなくても生きていられるのは誰かが自分のために動いてくれているってことだと気づかされたからな)


実際、親父が亡くなってからのことを考えれば、親父の言うことの正しさを痛切に思い知らされた。


(お前が成長してくれていることを実感できて、お父さん、うれしいよ)


自己紹介を終えた景樹がこちらを見て、ニヤッと笑った。


「今、佐藤からも言われたけど、サッカー部の塩入海翔(シオイリカイト)です。舟野市立尼川中学の時には一度サッカーをやめてたんだけど、やっぱりサッカーの魅力に勝てず、高校でサッカー部に入りました。1年生も結構入っていて、友人も増えました。この高校で青春をエンジョイしたいと思ってます。女性を泣かせるような真似はしたくありません。困ってる女性には積極的に助けていきたいと思ってますので、何かあればいつでも頼ってください。よろしくお願いします。」


 女性の味方、塩入海翔君はそう言ってあやねるに視線を向けて、笑った。

 こちらからあやねるの顔の表情はわからないが、その背中が震えてるように見えたのは気のせいではないだろう。


(光人の考えは間違えてはいない。あやねるは、かなりの恐怖を覚えてるんじゃないか)


 あやねるは少し震える感じで立ち上がった。

 そして、顔を前方から左に向きを変える。

 よほど塩入を視界に入れたくなかったのだろう。


「江東区立江南中学からこの高校に入学しました宍倉彩音(シシクラアヤネ)です。まずは朝の私の行動で迷惑をかけて申し訳ありませんでした。特に白石君には私が悪いにもかかわらず、「女をとっかえひっかえして、ヤリたい放大のスケベクズゴミ男」とまで言われるようにしてしまい、本当に申し訳ありませんでした。」


一瞬の静寂の後、このクラスのほとんどの人間が笑い始めた。


「ちょっと待って!それ、いったい誰のこと言ってんの?余計な修飾語多すぎない?」


 笑わなかったうちの一人である俺が人の自己紹介の途中で異を唱えた。

 笑いはさらに大きいものになった。

 ちなみに笑わなかったのは、他に塩入と村さん。


「「女をとっかえひっかえして、ヤリたい放大した後捨てるスケベクズゴミ男」と言ってしまってごめんね、白石君。でも、やっぱり白石君はいい人ですので、よろしくお願いします。」


 また一つ修飾語が増えてる。

 とうとうあやねるまで俺をいじり倒してきてるよ。

 岡崎先生が人に見られないように笑ってる。

 あれ、誰も見てなかったら、のたうち回ってるんじゃないか?


「私は中学で部活などこれと言った活動はしてませんが、高校では自分に出来ること、好きなことをしっかりとやりたいと思ってます。ただ、男の人は苦手なので、まずは女子の友達を作りたいと思います。よろしくお願いします。」


 この言葉に、みんな冗談だと思ったようで、また笑いが起きる。


 だが、この最後の言葉が冗談ではなく本当の想いだと知っている俺と岡崎先生は笑わなかった。


(まあ、あやねるの光人に対する態度を見てて、「男嫌い」を本気と思えという方が無理がある)


「よし、という事でみんな、お疲れ様!非常に楽しかったので、メインの楽しみは時間がなくなったから、部活動紹介終了後に改めて行う。今回は特別にこの天井に張り付いてるプロジェクター使って、全員見れるようにするから、それでいいな。」


「はい!」


 クラスメイトの声が揃った。



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