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第91話 須藤文行 Ⅰ

今回から3話にわたって、主人公の後ろの席の「須藤文行」君の回になります。

彼の趣味:小説を書くことという事で、彼が書いたという設定で

短めの「魔地」という小説を投稿しました。彼の作品としてこの「親父と同居(脳内)のスクールライフ」に関わってきます。

よろしければ読んでみてください。この作品とは少し毛色が違いますが、楽しんでもらえれば幸いです。

 自分がいつから陰キャなんて呼ばれ方をするようになったかはよく覚えていない。


 小学校の時はそれなりに友達と遊んでいたと思う。

 仲のいい友達もそれなりにいた。その中で田久保誠司(タクボセイジ)は中学時代も友人として過ごした。


 ただ、中学に入って、他の小学校が集まった時点で、うまく友人を増やせなかったのは確かだ。


 運動部にも入らなかった。

 そもそも運動するのは得意ではないし、やりたい運動部があったわけでもない。


 もともと小学校から、それほど身体が強い方ではなく、1学期に1度くらいの割合で学校を休んでいた。


 うちは決して裕福な家庭ではない。

 まあ貧乏というほどではないが、一般家庭の平均年収より少し割り込む程度。

 母は普通にパートを掛け持ちしている。

 父も小売業での販売員と言ったところで、給与は決して高くない。

 父、母、自分、今は中学1年の妹の4人で、昔の団地をリノベーションした物件を賃貸で住んでいる状況だ。


 体が弱いといっても持病としての大きな病という訳ではなく、1~2日も学校を休んでいれば治る程度。だが、この自分にとっては普通の事態でも、中学では一部にさぼり魔と言われ、陰口もたたかれていた。


 そのため余計人とは接触せず、気付いたら「陰キャ」「ボッチ」と言われるようになった。


 だからと言って酷いいじめがあったわけではなく、少しいじられる程度。

 しゃべる相手が完全にいないという訳だはないが、始終、仲良くつるむという相手がいないだけ。


 中学なのでバイトができるわけではなく、部活もしていない自分は、結果的によく図書室を利用した。


 本、特に小説はよく読んでいた。

 病気で学校を休んだ時などは、本が自分の友達でもあった。


 新しい本は滅多に変えないから、図書の無料の本は有り難かった。


 本をそれなりに読んでいると、自分に影響を与える言葉に会うことがある。

 その言葉は自分に感銘を与えることもあれば、不快感を湧き起こされるものもある。

 小説の場合には、そう言った価値観を持つ登場人物と相対する考え方を持つ者たちがその関係性の中で物語を進めるから、まだ納得もできるし、自分で考えるいいきっかけになる。

 でも、エッセイなど、作者の考えが直接反映する作品は、価値観が合えばすごく楽しいんだが、全く相いれない意見ではこちらの感情がおかしくなってしまうこともあった。


 そんな本に囲まれて、本当に満足できる本が限られていることもわかってきた。


 だったら、自分で書けば、自分の満足できる物語が書けるのではないか?


 単純にそう思った。


 いわゆる中二病、自分の思い通りにいかないこの世界を、特別な自分が思い通りにできると妄想する自分は確かにいた。

 それと同時に、救われない人々がテレビ、ネットから様々な形で垂れ流しになっている。


 書き始めはそんな感じだった。


 当然、そうやって書かれた小説もどきは人に読ませられるものではなかった。

 田久保は、それでもそんな小説もどきを読んでくれた。

 そして、良いところ、悪いところ、そして良くも悪くも心に残った文章と感想を必ず自分に伝えてくれた。


 田久保は卓球部でそこそこ頑張っていた。

 田久保の友達は田久保同様人のいい奴ばかりだったが、自分の文章を見てもらえるほど自信はなかった。


 ただ、自分はその時、図書でよく会う、大人しそうな女の子と知り合っていた。

 たぶん学校で唯一話ができる女の子だった。

 関藤繭(セキフジマユ)という同学年のその子には、自分の小説もどきを読んでもらい、悪いところを直し、良いところをさらによくするための助言をもらっていた。


 そしてできたその作品を田久保に読ませるというような形が出来上がった。


 田久保は、初期の時に比べたら、はるかに読みやすくなったことに素直にほめてくれた。

 自分が褒められることに慣れていなかったのもあり、関藤繭という女子のことを話したところ、田久保が興味を示した。


 田久保が部活の休止になる定期テスト1週間前に、図書室に連れてきて関藤を紹介した。

 その時は3人で勉強会みたいなものをしただけで終わった。


 だが、二人の相性が良かったらしい。

 二人から付き合うことになったと報告されたのは、それから1か月も経っていなかった。


 二人ともそれから変わらずにいい友人達であり、自分の小説を評価してくれる貴重な読者だった。


 しかし、高校受験で、二人は公立高校に順調に受かったのだが、自分はこの日照大千歳高校に受かったことで、多分モチベーションが落ちてしまったらしい。本命の公立高校に落ちてしまった。


 父母は落胆していたし、本当に悪いことをしてしまったと思った。

 だが、奨学金をもらえる通知を受け取り、世帯所得の適用がなされ、何とか高校に行けることになった。


 正直、私立高校は敷居が高かった。

 あらかたは富裕層の連中であることが分かっていたからだ。

 もっとも、2次募集をしている普通科高校か、定時制しか行くことが出来ない以上、この状況を楽しもう。

 たとえ友人が出来なくとも、陰キャボッチは今更だ。


 俺はそう思っていた。


 ー---------------------


 最初に白石から声を掛けられた時、まさか自分に向けられたものとは思わなかった。

 さらに自分の呼んでいる文庫本に興味を示すとも思っていなかった。


 仲間だと思ったのだが。


 すぐに、前の席の美少女、宍倉彩音(シシクラアヤネ)さんと仲良くなった。

 こいつは陰キャでも非リアでも、ましてやコミュ障でなんかあり得ない。


 入学式前の整列時に自分の知っている本のタイトルでいじったら、その可愛い瞳を輝かせ宍倉さんがイケメンの奴から逃れるように、白石との会話に入ってきた。自分にはありえないことだ。


 それでも、あんなに可愛い女の子と話せることに喜んでいる自分に自己嫌悪を感じてもいた。


 だが、そんな白石が、生徒会役員の光り輝く柊先輩の自己紹介の時に倒れたときにはビビった。


 抱き起したところで岡崎先生が来てくれて、正直助かった。

 抱き起すまではよかったが、その後、どうすればいいか全くわからなかったのだ。


 結局、白石は大したことはなかったらしい。

 俺は入学式に来ていた、周りがそこそこいい服を着ている連中に身の置き所のなかった母、須藤文代と一緒に自宅に帰った。


 その時点では、白石の状況は何も知らなかった。

 



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