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第90話 佐藤景樹 Ⅱ

「昨日入学式で倒れた男子生徒は、柊先輩をはじめ多くの女子生徒に手を出し、さらに数多くの女の子を捨てて泣かせた最低のクズ野郎。女性だけでなく同性の男性にとっても敵!」


 これに該当する男、白石光人(シライシライト)


 まあ、さすがに盛りすぎだろうとは思った。

 昨日初めて見たときの陰キャの地味男という印象は完全に消えていた。


 これはぜひとも友達になりたい。


 教室で待ってると、すぐに廊下が騒がしくなった。


 待ち人が、泣かせた女を連れてご登校のようだ。


 女子が廊下で白石に詰め寄ってるようだが、どうも宍倉さんが白石LOVE全開みたいで、女子が違う話の展開に向かってるようだ。


 ん、髪の長い女子がドアに向かって行ったな。


「ほら、外で騒いでないで、教室入りなよ。もうすぐ先生、来るよ!」


 あれ、あの子、さっきまで一生懸命その噂を広めてたよな。

 山村だっけ。

 あの手の女子は大抵腹が黒いと相場が決まってるんだが、これは俺の勘は外れなさそうだ。


 宍倉さんが先に入ってきて席に向かった。


 ああ、見ている限り、凄くご機嫌だ。

 瞼は腫れぼったい感は否めないし、隈を軽くコンシーラーで薄く隠してる。

 実際、泣き明かした感じだな。

 でも、今は照れ照れで幸せそうにしてる。


「おはよう!」


 そんな恋する宍倉さんに、全く何もわかってない、雰囲気の読めない男、塩入海翔(シオイリカイト)

 挨拶するものの、宍倉さんは会釈する程度。

 しかも微妙に顔がゆがんでる。

 塩入は塩入でそんな宍倉さんの態度が気に入らない様子。

 塩入海翔は今日も健在。

 

 それにしても、白石光人。なんて男だろう。


「白石、おはよう!朝から目立ってるな!」


 俺は遅れてきた白石に声を掛けた。

 本当は話したいことがいっぱいあるが、もう時間がない。

 とりあえずの挨拶で、あとで話せるように声を掛けたところで、時間切れ。


 ー--------------------------


 俺は柊夏帆(ヒイラギナツホ)という女性を甘く見ていた。


 明らかに今、俺の心は柊夏帆に持っていかれてしまった。


 なんなんだ、あの笑顔は。


 自分の姉、樹里(ジュリ)が結構レベルの高い容姿を持っているため、性格はともかく、その見た目で魅了されることは滅多になかった。


 だが、今、まさにその見た目で魅了されてしまった。


 柊夏帆が今見せた笑顔は、普通の男性、いや女性すらも虜にしてしまう悪魔の笑顔だ。


 この教室に入ってきた柊夏帆は、確かに美しく麗しい、

 華を持つ女性だ。


 ただ、明らかにその美しさを演じる計算高さを感じていた。

 自分の姉、そしてその仲間が垣間見せるその演じた美しさは俺にとって鼻につく感覚を想起させる。


 しかしながら、その計算された演技は、このクラス全員に向けられたわけではなく、白石光人一人に向けられたものだ。

 この二人に何があったか、正確には解らないが、おいそれとは入れない二人だけの領域なのだろう。

 それを真摯に柊夏帆は語り、その真摯さに誠意をもって白石光人は受け入れている。

 美しさの演技は、あくまでもその謝罪を受け入れてもらうための状況づくりなのだろう。

 語られるその言葉は、光人にしっかりと伝わっている感覚だ。


 そして光人から返された言葉に対し、演技や計算を完全に払拭した素の笑顔の何という破壊力。

 人の心を完全にひれ伏させるパワー。


 俺は、この時本当の意味の人の魅力を見せつけられた気分だった。


 それ以上に、その笑顔は、ただ一人に向けられたものだった。


 その笑顔を見た者が、あまりの魅力に心を飛ばされているにも関わらず、向けられた当の本人、白石光人は微動だにしていなかった。


 何者なんだ、光人!


 時間が迫っていることから、校舎案内が開始され、生徒たちが廊下に出る。

 柊先輩の笑顔で瀕死の重傷の者たちは、光人によって起こされ、廊下に誘導されている。


 廊下では先生と光人が話をしながら、列の最後部についていた。


 俺はその隣について話しかける。


 冗談めかして光人の心情を聞こうとしたら、どうも恋愛に関してトラウマがありそうな感じだ。


「本当に光人の美女に対する耐性って、どうしたら手に入れられるのか、不思議だわ。」


「そう言われてもな。確かに柊先輩の笑顔は素敵だな、とは思ってるよ。」


「白石は柊にかなり警戒心があったからな。佐藤も柊の謝罪は聞いていただろ?昨日、そんなことがあったから、他の生徒とは違うんだろうな。」


 岡崎先生の言うこともわかるが、さっきのあれは誤解が解けたことによる柊先輩の笑顔だ。

 となれば、光人が警戒する必要はないはずだ。


 もし、岡崎先生の言うことが正しいとすれば、光人は実はまだ柊先輩を警戒してるってことになる。

 だが、当然、光人は外部受験組だ。

 柊先輩との接点は昨日が初めてのはずなんだが…。


 先輩に連れられている1-Gはかなり遅れているのか、向こうから同じように案内されている集団とかちあった。

 知っている友人からF組だとわかった。


 柊先輩が相手のF組を案内している昨日委員会の紹介をしていた男子の先輩と軽く話、すれ違った。


 と思ったら、目つきの悪い不貞腐れている男子生徒がこちらを睨んでいる。

 どうやら光人の知り合いらしい。

 光人がかなり真剣な目で相手を威嚇していた。

 少し驚いた。

 光人がそんなことをするタイプに見えなかったからだ。


 結局、その光人の眼光に負けたその男子生徒は視線をそらして、集団につき従っていった。


 1-Fとすれ違う際、友人の佐神朗と目が合った。

 アイコンタクトで軽く挨拶していると、その後ろにいたゆるふわに軽くパーマをかけた女子、昨日の入学式で振り向いて宍倉さんに挨拶していた、確か鈴木?さんが、光人に魅惑的な笑顔で軽く手を振っていた。

 光人もそれに対応していると、宍倉さんが微妙な顔でこちらを見ている。


 さて、モテモテ光人君、どうするのかね、この関係。


 まあ、それよりもよっぽどさっきの目つきの悪い男の方が気になる。


「大丈夫か、光人。あいつとなんかあったのか?」


 少し心配になり、光人に話を振ってみた。

 その横で岡崎先生が困った顔をしている。


 そうか、先生はあいつと光人の間に何があったか、知ってるんだな。


「うーん、ちょっとな。あいつ、大江戸(オオエド)って言うんだけど、同じ伊薙中なんだ。今、俺は気にしてなかったんだが、あっちは違うらしい。」


 そう言う光人は、しかしそれ程深刻さは感じられなかった。

 言い方は悪いが、チンピラに対する大ボスのような余裕を感じてしまった。

 腕っぷしが強いようには全く見えないんだがな。


「朝の噂以上に、光人に興味が湧いてきた。」


 俺の言葉に、光人が驚いて俺を見る。


「俺、そっちの趣味ないから!ごめんなさい!」


 思わず光人の頭をはたいてしまった。いい加減にしろよ。


「いったいなあ。今の言葉はそういうことだろう。」


「ちげーわ。お前が同じ人間とは思えないからだよ。」


「えー。ただの陰キャボッチなだけだよ。そりゃ、景樹のような陽キャ、リア充とは違うよ。」


「そういうことじゃないんだけどな。今日は部活見学あるから無理だけど、本当に近いうちに、遊びに行こうぜ。」


「ああ、わかってるよ。」


 そろそろ校舎案内が終わり、教室に帰るようだが、結局どこに何があるかはよくわからなかった。


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