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第89話 佐藤景樹 Ⅰ

 昨日、このクラスに来るときは少し憂鬱だった。


 同じサッカー部の塩入と同じクラスだからだが、さらに名前のせいで席が並んでいる。


 サッカーの技術的なものは、まあ、使えるかなって感じで、現時点で俺の脅威になるような奴ではない。1,2年後にそこそこ成長して、同じチームメイトとして、戦える力を持ってくれれば言うことはないと思っていた。


 春休みから始まった、入学前練習で同じクラスになることは解っていたから、仲良くはしたいと思っていたんだが。


 中学の時の噂は知っていたが、これほどとは思ってなかった。


 中学の地区大会は塩入の攻撃的な性格が功を奏して、優勝。

 そして県大会に上がってきたと聞いている。

 しかし、その自己中心的な性格が、仲間を信用せずに、監督とぶつかり、スタメンから外された。

 そのことに怒って大会中に勝手にグランドから去り、部活を辞めたようだ。


 高校に受かって、入学手続きを済ませると、すぐにサッカー部に入るくらいだからサッカーが好きなのは間違いないようには思う。


 ただ、性格は噂のまんまだった。

 さすがにまだ先輩たちもいるからそれほどではないが、自分が一番でないと気が済まないようだ。

 であれば、それだけ練習しているかというとそうではない。

 すぐに出来ない言い訳や、他人の所為、他人の悪口に走る。

 正直、俺はその性格に辟易していた。

 このままでいけば、早いうちに部を止めることになるだろうことは簡単に予想できた。


 それはいい。本人の問題だ。


 問題なのはそいつと俺が同じクラスだという事だ。


 しかも出席番号が並んでると来たもんだ。

 1年間、この関係が続くことになる。

 あいつが少しでも自分の悪いことをわかってくれると、助かるんだが、現時点でそれは望み薄だ。


 入学の日、少し早めに来て自分の席を確認したら、案の定、出席番号順に席が配置されていた。

 前の席は女子だから、下手に声を掛けて逃げることもできない。


 自分が小さい頃から女子にモテることは解っている。

 幸か不幸か、上下に姉と妹がいるせいで、女子の扱い方に慣れてしまっている。

 さらに小学校高学年から始めたサッカーが自分に合っていたらしく、面白いし、テクニックも上がり、さらに面白くなった。

 そのせいでさらに女子から好感を持たれるようになってしまった。


 それに加えて、父譲りのこの顔が女子にいたく気に入られるファクターになってしまっていた。


 俺も男だから女の子は大好きだ。

 可愛い子、綺麗な子、スタイルのいい子など本当に大好き。

 だからと言って女子なら誰でもいいわけではない。

 それは中学時代に痛い目に合って、気付かされた。


 だから、下手に声を掛けて勘違いでもされようものなら、俺の平穏は吹き飛んでしまう。

 女子に対しては当分は冷静に対応しないといけない。

 これは間違えると本当に血を見ることになるかもしれない。


 これ、冗談じゃないんだぜ。


 というような理由から、自分の席にはつかず、周りの様子を見ることにしていたんだが…。


 いやあ、ちょっと、面白かった。


 白石という、これと言って冴えない、別にどうでもいい部類の陰キャっぽい奴が、同じ匂いのする須藤ってやつとつるむのはよくある話だ。


 が、その後がちょっと信じられなかった。


 ショートボブの目がクリっとした女子、宍倉彩音という可愛い女の子に、いきなり「かわいい」だの、「あやねる」だの素っ頓狂なこと言った。

 それだけでも十分笑えるんだが、にもかかわらず、宍倉さんはその白石と仲良くしゃべり始めた。


 何が起こったのか、俺の頭脳では理解できなかった。


 あのような態度を陰キャの男子がとれば、ほぼ100%で「キモッ‼」という声とともに、汚物を見る目で見られるはずなのに。


 さらに、入学式会場に行くために並んでいた時に、その宍倉さんを気に入った塩入に対しては完璧な塩対応!


 まあ、塩入の悪目立ちぶりを見てたらそれも納得がいくと言えばそうなんだが。


 そして入学式会場での宍倉さんの友人とみられる、タイプの違う美少女との絡みに、塩入には無視。


 白石には自分から声を掛けにいっている態度。


 あの冴えない男のどこを一体気に入ったんだか。


 まあ、白石が倒れてからのことはよく知らなかったんだが。


 今朝の朝練で内部生1-Dの三木康太朗(ミキコウタロウ)が、昨日、倒れた男子学生が岡崎先生と一緒に女子二人と車に乗り込んだことを聞いた。

 どうも雰囲気から一人は宍倉さんだろう。

 とはいえ、倒れた白石は保健室にいたはず。

 何故、一緒にいる?


 三木はさらに情報を追加した。


「あんまり詳しくは聞こえなかったんだが、その会話に柊先輩の名が出てきたんだ。その男子、柊先輩が自己紹介してるときに倒れたじゃんか。なんか関係者なのかね。」


 うーん、白石とこの学校で一番じゃないかと言われる美女、柊先輩との関係性?

 わかんねえな。

 まあ、倒れたタイミングの話としては名前が出てきてもおかしくはないんだが。

 

 練習が終わり、教室に戻ろうとしたら、また新たな情報が噂として加わった。


 北習橋駅で女子生徒を泣かせる「女泣かせのクズ野郎」!


 結果、昨日からの情報がすべて統合された。


 「昨日入学式で倒れた男子生徒は、柊先輩をはじめ多くの女子生徒に手を出し、さらに数多くの女の子を捨てて泣かせた最低のクズ野郎。女性だけでなく同性の男性にとっても敵!」


 これに該当する男、白石光人(シライシライト)


 まあ、さすがに盛りすぎだろうとは思った。

 昨日初めて見たときの陰キャの地味男という印象は完全に消えていた。


 これはぜひとも友達になりたい。


 教室で待ってると、すぐに廊下が騒がしくなった。



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