第84話 大江戸天 Ⅰ
面白くねえな。
俺は、今通っている高校に、既にイラついていた。
まだ2日目なのに、もう辞めたい気分だ。
中学で悪いのはあいつらなのに、俺たち3人が悪者扱いされた。
しかも、今後2度とあいつらに近寄らないようにまで言われた。
白石光人と西村智子。
もともと白石が三笠颯と二戸詩瑠玖にちょっかいを掛け、別れさせようとしたことが原因なのに。
教科書が汚されたのも、靴が亡くなったのも、シャーペンの芯が全部折れたのも自業自得ってやつなのに。
それでも懲りねえから、岩谷勝と平泉鉄親とで少し懲らしめただけだ。
それを今の親父にチクりやがって。
しかも今の親父である大江戸浩が日照大出身で、その付属校に通わせるために、家庭教師と塾の詰め込みで勉強させられた。
やっと合格したこの高校にはあいつらもいた。マジでムカつく。
さらにムカつくことに、西村のブスとくっつく分にはいいが、結構可愛い子と仲良くなり、しまいには「女泣かせのクズ野郎」なんてよバレてやがって、腹が立つことこの上ない。
こちとらまともに女の子と付き合ったこともねのに。
昨日倒れたときはそのまま死んじまえばいいのにと思ってたのによ。
岩谷も平泉も、あれから変にまじめになりやがって、公立のそこそこの高校に通って面白く過ごしてんに違いないのによ。
同級生はみんな頭がいいって顔で俺を見下してるようだしな。
まあ、女子は少ないが結構可愛いのもいるから、そこはなんか弱みでも握って、何とかしねえとな。
母ちゃんには迷惑はかけねえようにしないとまずいが。
ああ、つまんねえな。
今も、校舎案内とかでぐるぐる回されてるし。
大体このクラスの担任も女ではあるけど、不細工だしな。
案内係も男だし。しかも変にイケメンぶりやがって。
ホント、なんかいいことねえかな。
ん。
前から来るのは、すげえいい女じゃねえか。
あれは確か、生徒会の役員やってる、ああ、柊とか言うすげえいい女だ。
なんでうちの担当じゃないんだよ。
このクラスの担当だったら、すげえいい子のふりすんのにな。
って、あれ。西村か?ちっ、後ろに白石もいんじゃねえか。
なんなんだよ、あいつらばかりいい思いしやがって。腹立つな。
「おう、いのすけ!」
ん、何だ、今の声。
うわあ、可愛い子じゃんか、いのすけって、このクラスに向かって言ってんのか。
そんな男いたっけ?
「あやねる、でかい声でその名前は呼ぶなあ!」
あれ、男の声にしてはやけにかわいい声?って、いのすけって、鈴木伊乃莉のことか!
可愛い子の友達はやっぱり可愛いのか!
あれ、今あやねるって呼ばれた子、西村と話てやがる。
あんなチンクシャとか。
西村は変に友だち、多かったな。
全く、うらやま…ちがう。羨ましがってなんかないぞ。
「辺見君、ごめん、ちょっと遅れちゃってて。」
「大丈夫でしょう。部活動紹介にはまだ時間ありますよ。」
生徒会役員はあんな美人と一緒か。
すげえ、いいな。つうても、生徒会なんかまったく興味ねえけど。
違うクラスは楽しそうにやってるのか。
って俺は何思ってんだ。
あいつ、白石か。
なんかやけにキラキラした男と並んでんな。
何、楽しそうに笑っていやがる。
お前の所為で、俺は散々だ。
俺は白石を思いっきりにらんでやった。
へん、ビビるがいいわ。
お前には楽しい学校生活なんかぜってえ送らせてやんねからよ。
お、俺に気付いたようだな!勝手にビビってろ!
なんだ、何俺にメンチ切ってんだよ。
何睨んでやがる。
お前のそんな視線、こ、怖かあ、ねえよ…。
俺はつい、視線をずらしてしまった。
今日はこんなもんで勘弁してやんよ。
ああ、怖か…、いやあ、あんなもん、どうってことねえよ。
だが、俺にそんな態度取って、どうなっても知んねえからな。