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第81話 柊夏帆 Ⅹ

 妹の秋葉(アキハ)と一緒に8時10分くらいに学校に登校した。


 昨日、秋葉が言っていた相談事に関しては今朝は一言も触れなかった。

 私は、必要な時が来れば言ってくるだろうと思い、無理に聞き出そうとはしなかった。


 昇降口にはすでに人だかりができていた。

 クラス分けの発表だ。今回、私達には関係ないため素通りして下駄箱に向かう。


 1年と3年の下駄箱は多少離れているのでいったん離れた。


「ああー。」


 すぐに秋葉のため息が聞こえた。

 それが何に由来するのか、自分にも経験がるのですぐに察しがついた。

 上履きに履き替え、すぐに秋葉のもとに向かう。


「あ、お姉ちゃん。はあー。」


 秋葉は封筒のようなものを3枚抱えて肩を落としている。

 この姿は、自分を見ているようだ。

 そして周りからの視線も…。


「どうするの、秋葉。」


「行くしかないよね。イサムかオオジに一緒に来てもらうよ。」


 要はラブレターだ。

 そして差出人は外部受験生。


 昨日の入学式で見て、早い者勝ちだと思っているのか、見た目だけでその女の子の中身も気にせずラブレターをよこす。


 うじうじして、何も行動を起こせないものよりも幸せをつかむチャンスは高いのかもしれない。


 だが、される方はたまったものではない。

 こういうものを完全に無視できればいいのだが、変な対応をするとストーカーや逆切れを招きかねない。


 秋葉は男友達を連れていくことにより、そういう可能性を潰そうとしているという事だ。


「無理しないようにね。」


 私は、大きく肩を落とす妹の肩をたたき、生徒会室に向かった。

 秋葉は歩きだした私に、力なく手を振っていた。


 ー----------------------------


 今日は生徒会役員が新入生の校舎案内の件で連絡は入れてあるので、いわゆる公欠扱いだ。

 そのまま生徒会室に入る。既に会長は来ていた。


「おはようございます、会長。」


「おはよう、夏帆(ナツホ)。」


 二人きりの時、斎藤会長は私を下の名で呼ぶ。

 春休みに彼の告白を受けてから、そういう関係になっている。

 と言っても、いわゆる恋人たちのするようなことはほとんどしていない。

 岡崎先生に昨日突っ込まれた時に、思わずあやふやなことをしてしまった。


「とりあえず、昨日の夏帆の提案通りにする。慎重にな。」


 要は、男子生徒に変な気を起こさせるようなことをするな、という事だろう。


「ええ、そのつもり。クールビューティーとやらを演じてみるわ。」


 コンコンコン。


 ノックの音がした。こちらの返事を聞かずにドアが開く。


「柊、いるか?」


 岡崎先生だ。

 ああ、昨日の白石君のことか。

 まだ、父親が死んで2か月の遺族に対する態度の件だよね、センセ。


「はい、何でしょう、岡崎先生。」


 私は1度落ち着けた腰を上げる。

 岡崎先生の指が「こっちに来い」と指示してる。


 私は会長に軽く頭を下げ、岡崎先生のいる廊下に出た。


「おはようございます、センセ。」


「可愛らしい態度とっても無駄だ。」


「センセ、怖いよ。」


 大きく息を吐いた。


「とりあえずの注意だ。親を亡くしたばかりのものにあの態度はいただけない。」


「分かってます。ごめんなさい。彼を見てたら、つい焦ってあんなことをしちゃいました。別れてから、ずっと後悔してるんですよ。」


 岡崎先生の目が困ったようにまたたく。


「まあ。お前のことだ。同じミスをしないようにな。」


 それで終わったと思ったのだが、岡崎先生は少し考えた後、また口を開いた。


「さっき、八神(ヤガミ)に会ったんだが、あいつ、少し変なことを言っててな。その確認なんだが。」


 八神君に会った?とすると、何を先生に言ったか、想像がついた。


 ちょっと先生を驚かそうと思ったんだけどな。


「校舎案内の担当が変わったって話、本当か?」


「八神君がモテない理由ですね。男のおしゃべりは、本当にマイナスポイントなのに。」


「柊、何でそこまで白石に固執してんいるだ。いくら従姉の恩人の息子とはいえ。実際問題として、白石が助けたという訳ではないんだろう。」


 岡崎先生は言いながら、しかし、自分の発言を後悔していることが表情から読み取れた。


白石影人(シライシエイト)さんが生きていたのなら、先生の言う通り、本人にお礼を言いに行きます。でも、影人さんは蓮を助けるためにその命を落とした。言い換えれば、身代わりになってしまった。私たちは彼と遺族に対して、感謝してもしきれない恩を受けたんです。出来れば白石君、いえ、白石君の家族の方と良好な関係を築きたいと思ってます。私の叔父と叔母は出来る限りの援助を申し出ましたが、その気持ちだけで充分だと、影人さんの奥さんと息子さん、つまり光人君から言われたそうです。」


「そうだな。白石影人さんは確かにその身を挺して子供を助け、亡くなった。そうだな、わかったよ、柊。でも、白石の気持ちを考えて行動してくれ。くれぐれも気持ちの押し付けはするなよ。お前はそれでなくても目立つんだから。」


 岡崎先生はある程度、私の考えを容認するようだ。


 私は特に白石君と強力に繋がろうとしているわけではないが、しっかり関係を作りたいとは思っている。

 言い換えれば「親しい友人」としての立場を作りたい。

 もし、白石家に何かあれば救援できる立場に…。


 岡崎先生は軽く手を振って、離れていった。


 私は、どんな「手段」を使っても白石光人君、そして白石家の人々としっかり手を握りたい。

 私ができうる限りのことを…。

 私の責任の全てで…。



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