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第76話 自己紹介 Ⅲ

 田中輝良(タナカテルヨシ)の自己紹介に今度は率先して岡崎先生が笑い出した。


「田中、今の最高!後で俺んとこ来い!彼女の写真見せてやるよ。」


 大喜びの岡崎先生に面食らう田中(男)。

 周りから、自分もみたいと合唱。


「俺がウケたら見せてやる。がんばれよ。」


 すっかり先生を堪能させる会になっちまいやがった。


津川茉優(ツカワマユ)舟野(フナノ)市立海臣(カイジン)中学出身です。大野美穂(オオノミホ)とは同じ中学で一緒に美術部に所属してましたが、私にはその才能がないみたいで、高校では違う部活動をしてみるつもりです。」


 先ほど俺に突っかかってきた少女が快活に挨拶する。

 そしておれのほうに顔を向けた。


「さっきはごめんなさい、白石君。白石君の話で、噂に惑わされてはいけないことがよく解りました。できれば、クラスメイトとして仲良くしてください。皆さんもよろしくお願いします。」


「ほら、白石、返事!」


 岡崎先生が急に俺に振ってきた。


(え、どうすればいいの!)


(いや普通によろしくでいいんじゃね。早くしないと前のあやねるの熱視線で焼かれるよん)


 親父の言葉に前を向くと、半目で睨む美少女の姿!


「はい、友達から宜しくお願いします。」


「告白の断り文句かい!」


 前の佐藤景樹(サトウカゲキ)がすかさず突っ込みを入れた。

 その言葉に、クラスメイトの笑い声が響く。


「ありがとう、さすがクズ野郎!」


 津川茉優は颯爽とそう言葉を投げ、着席。

 笑い声に変な声が混じる。


 声の方を向くと、岡崎先生が変な声で笑いをこらえてる。


「苦しい、何だ、お前らの会話!」


 腹をよじってる。ツボにハマったらしい。


 みんながみんなしっかり自己主張が出来てるわけでは当然ないが、自由に言いたいことを言ってる感じがする。こんな自己紹介はそうそうないに違いない。


(こんなエンタメな自己紹介あるはずないだろう。ああ、動画で撮ってSNSに上げたら、面白いだろうにな。)


(全部モザイク掛けないとUPできねえよ。変に現代的な感想すんじゃねえよ、昭和人が!)


 親父相手に心の中で騒いでると見知った女子が立ち上がった。


西村智子(ニシムラトモコ)です。今朝がたからこのクラスの注目を一身に浴びる女泣かせのクズ野郎こと白石光人(シライシライト)君と同じ伊薙(イナギ)中学の出身で、幼馴染でもあります。」


 お前もか!自分で自虐ネタをしたものの、こうもいいように使われてると、泣いちゃうぞ!


(泣くのは構わんが、あやねるが泣くと皆心配して、同情してくれるが、お前が泣くと、皆、この教室から退室するくらい引くと思う。いや、引く方に全財産!)


(現時点で、親父の財産はすべて相続され、あなたは今無一文です)


 親父の浮かれ具合に突っ込む。


「ですが、このクズ野郎は、父親の死後、家族のためにその身を削り、守ってきた優しいクズ野郎でもあります。そこのところは皆さん、一応、心に留めておいてください!」


 一応かい!


「私は中学時代テニス部に所属していました。その縁で、クラスメイトの弓削佳純(ユゲカスミ)さんと友達になりました。このクラスで皆さんと一緒なのも他生の縁(タショウノエン)ってやつだと思ってます。よろしくお願いします。」


 相変わらず見事なスピーチだ。

 これがカーストトップに君臨するコミュ力!顔は、まあ普通だけど。


(本当にお前は西村さんの事、異性としての扱いが雑だな)


「あ、あと、次の星那ちゃんとも昨日友だちになりました。次の星那ちゃんの自己紹介もよろしく!では、根室星那(ネムロセイナ)さん張り切ってどうぞ!」


 どっかの演歌ステージの司会者のような紹介で締めやがった!


「あ、あと、えと、習橋(ナラハシ)市立草野台中出身の、ね、根室、星那、です。」


 唐突な振りに、慌てて席を立ちあがった根室さんがつっかえながら、自己紹介を始めた。


 背筋を伸ばせばかなりスラーとした感じになるようだが、猫背で卑屈に見える。

 髪の毛は短めなものの、前髪が長めで顔を隠してる。

 顔の表情もよく見えない。


 まあ、雰囲気だけで決めるのもなんだけど、我々(須藤文行(スドウフミユキ)を含む)と同じ陰の者と見た!


(いや、それって無理あると思うよ。既に光人は陰キャとは、ここに居る誰も思ってないから。お前さんの言う陰キャは絶対に「女泣かせのクズ野郎」と言われることはない)


 にべもなく否定された。

 と言うより、いつの間に俺って陰キャには見えなくなってたの!


「智ちゃんとは友達ですが、私はあまり人と関わるのが得意ではありませんが、優しくしてくれたら嬉しいです。よろしくお願いします。」


 ちょっと小さめの声だったが、かなり自分で頑張ったのだろう。

 席に着くと小さくガッツポーズしてた。

 前の席の村さんがにこやかな表情で軽く右の手のひらを根室さんに向けると、左手で軽く村さんの手に合わせるような、タッチをする。


 林、原と終え、次の人物が静かに席を立つ。


 見た感じが、何と言うか、立っているだけなのだが、存在感が圧倒的だ。

 別にそれほどの美しさとか、可愛さがあるという訳ではない。

 背丈も女子の平均とそう変わらないと思う。

 だが、先の背が高い根室さんより大きく見える。


 何故だろう?


日向雅(ヒナタミヤビ)参川(サンカワ)市立三延(ミノベ)中学出身です。美術全般とイラストが好きです。ただ、部活動は私事が多くそれなりに忙しいので、全く考えておりません。平穏無事に過ごしたいと思っていますので、このクラスでも静かにしていただければ幸いです。」


 その文句をしっかりとよく通る声で、はっきりと告げた。

 ある意味、私に関わらないでくれ的な言葉に聞こえる。

 少しミステリアス。


 どうもこの高校というかクラスで友達を作ることは期待していないし、私に近寄るなって感じだ。

 ある意味達観しているともとれる。


 少し興味をひかれた。

 自ら孤独でありたいという思いが、一体どこから来るのか?

 先ほどの自己紹介を思い出す。


 私事が多い?


 プライベートに何かあり、高校生活はその余禄と言ったところか。



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