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第75話 自己紹介 Ⅱ

 一通りの騒ぎが落ち着いた頃を見計らって、先生が俺を見て頷いた。


 ほら、場を温めたから、きっちりとやれよ。


 そんな雰囲気を伝えてきたような気がする。


 俺は仕方なく席から立ち上がった。


 そして周りを見渡す。

 少し緊張している。

 が、あやねるが微笑み、村さんが小さく手を振っている。

 後ろの席の須藤はなぜか親指をあげるサムズアップしていた。


「まず初めに、昨日は入学式中、倒れてしまい、岡崎先生や須藤君、宍倉さんをはじめみんなに迷惑をかけて申し訳ありませんでした。」


 そう言うと同時に深々とお辞儀をする。

 きっかり5つ、心で数え顔をあげた。

 岡崎先生はじめ皆、あっけにとられた顔で俺を見ていた。


「昨日病院で見てもらって、睡眠不足による疲労との事で、大したことはありませんでした。」


 そこで少し間を開け、さらに畳み込むようにしゃべり続ける。


「みんな当然なんで睡眠不足、疲労なんてことになるか、不思議に思うと思う。まあ、入学式に緊張して、さらにあの綺麗な生徒会役員で衝撃を受けたなんてことを考える人もいるかと思うけど。」


 周りで少しくすくす笑う声が聞こえた。


 振り向いたあやねるの目が怖いんですけど!なんで?


「確かに(ヒイラギ)先輩は綺麗でしたが、そのせいで倒れたという訳ではありません。全国レベルでニュースが流れてるんで、知ってる人もいると思うけど、2か月前、うちの親父が交通事故で亡くなりました。」


 さっきまでくすくす笑っていた声も急にやみ、静かになった。


「まあ、急に父を亡くし、家族全員が途方にくれましたが、助けてくれた人たちがいて、今は十分元気になりました。ただ、昨日は多分気の緩みがでたってことだと思います。お騒がせしてしまって申し訳なく思ってます。伊薙(イナギ)中出身、白石光人(シライシライト)です。」


 皆、どう対応していいかわからないような顔で、俺を見ていた。

 まあ、いきなりこんな重い話しするとそうなるよね。


(本当だ、何考えてんだか)


「宍倉さんはそんな俺の事情に同情してくれました。ただ、自分で明るくしようと努めていたんですが、ちょっとした言葉の行き違いから親父の事故の事で、結果的に泣かせるようなことをしてしまいました。この場を借りて謝らせていただきます。宍倉さん、ごめんなさい。」


 前の席から俺を見ているあやねるに腰を曲げて謝った。


 何人かから、ああそういう訳か、という声が聞こえてくる。


 あやねるは突然謝られて、困惑した顔をしていた。

 そんな顔も可愛い。


(光人、お前があやねるを好きなことは重々わかってるから、そういう感想はやめてくれ。むず痒い)


「女泣かせクズ野郎ですが、今後、宜しくお願いします!」


 そう言って締めの挨拶をした。


 呆然としていたクラスメート。

 そんな中、あやねるが拍手した。

 それに遅れて、皆が拍手し始めた。


 フーと息を吐き、俺は着席した。岡崎先生が苦笑してる。


「まあ、演説まがいになったが、白石の父親がこの前亡くなったのは事実だ。まあ、仲良くやってくれ。じゃあ、次、須藤!」


 俺の後ろに座る須藤が慌てて立ち上がった。


 小声で俺に「恨むぞ」と一言告げる。


千城(チシロ)市の皐月(サツキ)中学出身の須藤文行(スドウフミユキ)です。出席番号がひとつ前の女泣かせクズ野郎が自己紹介と言う場を盛大にかき乱したせいで、何一つ面白いことが浮かびません。趣味は小説を読むことと書くこと。特に前の席の女泣かせクズ野郎をモデルにひどい結末を迎えるネタを今考えてます。そんな陰キャ野郎ですが、よろしくお願いします。」


 非常に俺をディスる内容の自己紹介を須藤はぶちかました。

 最初会った時は同じヲタ野郎で友好関係を築けると思ったが、どうやら見込み違いだったらしい。

 本当の陰キャは自分のことを陰キャなどと言わない。


 須藤の自己紹介に盛大な笑いが起こった。

 さっきの俺が作り出した変な空気を見事に変えやがった。

 もしかしたら本当に未来の作家というものを目の当たりにしているかもしれないと思った。


 須藤はニヒル(と自分で思っているであろう)な笑いを浮かべ、右手の親指をまたサムズアップしている。憎たらしいなあ。

 

 自己紹介は進んでいくが、皆、何とかウケを取る方向で勢いがついてしまった。

 俺の場合、昨日のお詫びとあやねるをかばう目的があっってのことだった。ついでに親父の事故は一度言っておいた方が、後々めんどくさくなくていいと思ったんだが…。


(光人、お前いつの間にそんなに胆力がついたんだ?中学までは人前でしゃべることなんて、ほぼ出来なかったろう。)


(そうなんだけど。別に人の視線をそんなに怖いと思わなくなってる。まあ、あやねるをあの噂と質問攻めから守ろうとは思ったけど…)


(いろいろ変わってきてるな。自分に違和感はないか、光人)


(あんまり感じないけど、確かにちょっと前の俺とは心の持ちようが変わった気がする、かな)


(うん、ならいいさ、楽しく行こう!)


竹戸(タケド)市立樫尾(カシオ)中学出身、田中輝良(タナカテルヨシ)です。趣味は絵を描くこと。油絵や水彩画も書きますが、最近はPCでの映像にも興味があります。好きな人がいれば一緒に話せたらいいなとは思ってます。彼女はいません。もうすぐ結婚を予定してる人にはリア充爆発しろ!の言葉を送りたいと思います。」


 今度は率先して岡崎先生が笑い出した。


「田中、今の最高!後で俺んとこ来い!彼女の写真見せてやるよ。」


 大喜びの岡崎先生に面食らう田中(男)。周りから、自分もみたいと合唱。


「俺がウケたら見せてやる。がんばれよ。」


 すっかり先生を堪能させる会になっちまいやがった。



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