第68話 泣くあやねる
ちょうど電車が止まり俺たち3人は電車を降り駅を出た。
あれ、そういえば村さんの友達は一緒に登校しなくていいのか?
「村さん、昨日一緒にいた弓削さんと、えっと、大沼さんだっけ、とは一緒に登校しなくて大丈夫なのか?」
「うん。彼女たちは津田川駅からのバス通だから。」
村さんが少し照れたように言った。
なんか、村さんの態度がいつもと違うような気がするな。
(本当に、光人は人の感情の機微にもう少し敏感になった方がいいな)
今の親父の言葉は、友達と一緒じゃないこと、それとも村さんの態度?
(お前は自分に対する悪意に対して過剰なほど敏感なんだけどな。お前に好意を持つものもいっぱいいることを覚えておくといいぞ)
何とも言えない気分で、ちょっともじもじしている様にも見える幼馴染を不思議な気分で見ていた。
駅から出てバス停に向かうと日照大千歳の高校と中学に通学する生徒で混んでいた。
その中で見覚えのある二人の女子生徒が目に入ってきた。
普通なら会えれば嬉しいはずの美少女二人。
でも今は出来れば、顔を合わせたくはない二人。
憂鬱加減が最高潮!
明らかに、ボブカットの女子の目元が腫れぼったい。
誰かいっそう俺を殺して!
(えっ、また死ぬのやだ!)
(親父はもう死んでんだから関係ないだろうが!)
「お兄ちゃん、宍倉さんと鈴木さん、あれ悠馬もいる。」
事情を知らない我が可愛い妹が、今の俺にとって死刑宣告とも言える言葉を、はしゃぐようなトーンで口ばしった。
その声に反応し、かなり目つきの悪い鈴木伊乃莉さん、瞼が腫れぼったくなっていて、それでもハンカチで目の周りを拭いている宍倉彩音さん、何故か笑顔の日照大千歳中学の制服の男子がこちらを向いた。
「白石、おはよう!朝から女神に会えて俺嬉しい!」
一緒にいた男子が嬉しそうにこちらに声を掛けてきた。
彼が鈴木悠馬君ね、鈴木伊乃莉さんの弟。
その声に静海が、そそっと、俺に近づいてきた。
「おはよう、悠馬。」
静海は静かにそう返した。
その言葉に嬉しそうに笑みを浮かべるその後ろから…。
鈴木伊乃莉様、その俺を今にも殺しそうな視線、お願いやめて!
「し~ら~い~し~、何故、メッセ返さねえんだよお~」
まるで地の底、地獄からのお誘いのような、ど低い声音で、閻魔伊乃
莉様が、俺に呪詛の言葉を吐いてきた。
えっ、白石って誰?ああ、白石静海さんのことね、ここにいるよ!
(光人、妹を盾にすんじゃねえよ)
はい、お父様のおっしゃる通りです、すべてわたくしめの責任。
「昨日はごめんなさい!宍倉さん」
思いっきり頭を下げた。それこそ地面頭をぶつける勢いで。
頭を下げっているので顔は見えないが、宍倉さんと鈴木さんの視線が俺の体を貫く感覚がある。
「わた、わた、私は、大丈夫!私のほうこそ、軽率な発言をして、ひっぐ、ごめんなざい…」
「まあ、確かに、あやねるから聞いた限り、悪いのはあやねるなんだけど…。完全無視は、酷過ぎるんじゃないの、白石!」
鈴木姉弟と宍倉さんは、前の列を離れ、俺たち3人のところにわざわざいらっしゃった。
そんなに無理しなくてもいいのに。
(少し離れてたからな。伊乃莉さんの後ろにいた子、かわいそうにまだ震えてるよ)
「白石!おはよう。今日クラス発表だよな。おんなじクラスだといいな。」
「なんで、悠馬とクラスだといいの?私は別に悠馬と離れても関係ないし。麗愛や鳴海とはまた一緒になりたいな。」
鈴木悠馬と思われる男子が、わが妹の無慈悲な言葉にぶった切られてるぞ。
うちの妹はやっぱり怖い!
「白石君、昨日はごめんなさい。つい親しくなれたと思って、我儘言って。しかもお父さんが事故死したことを…。」
愛するわが妹の無情ともいえる言葉に意気消沈している男子の後ろから、小さな声で謝罪する宍倉さん。この図は、周りから見たら、朝から美少女を泣かせた最低クズ野郎の称号をいただいてしまうのでは?
「こっちこそごめん。柊先輩に父の事故死の件で言われて、宍倉さんからもこの件をちょっと軽く見られた気がして、少し不愉快な気持ちになっちゃったから。もう、大丈夫だから。返信せず無視するような態度を取ってごめんなさい!」
「やっぱり、私のせいで…。ごめんなさい…。」
鈴木さんが俺の脇をつついてきて、「どうしてくれるのよ」と小声で言ってきた。
それは宍倉さんのことだけではなく、この状況を同じ学校の生徒たちがこちらに注意を向けているこの状況でもあるようだ。
静海がまた人の腕にその体を寄せてきた。
村さんも状況が分からず、俺に顔を向けてきた。
「コウくん、宍倉さんに一体何したの?」
恐らく、この状況を見ている殆どの人が思っていることだろう。
(この男、こんな可愛い子を泣かせるなんて、ひどい野郎だ)
(この件に関しては多分俺が被害者だ。親父の死を軽率に扱ってほしくないだけだ)
(なんと、素晴らしい息子だ。でも私はか弱い女の子の味方)
(うわ、ひでえ)
「宍倉さん、もう俺は別に何も思ってないから。ちょっと、先輩に会いたくないなあ、と思ってただけ。」
宍倉さんが涙を貯めた瞳を俺に向けてくる。
あ、ダメだ。そんな表情もすんごい可愛い!
(うちの息子はあやねるに夢中!)
うるさい親父の思考をとりあえずスルー。
「うちの妹の静海も柊先輩に会いたいって言うから、今日の放課後にでも生徒会室に行こうかと思ってる。昨日は保留にさせてもらったけど、良かったら一緒に行かない?」
俺は思い切ってそう切り出した。
(よく頑張ったな、光人)
「いい、の?」
宍倉さんが大きく目を見開き、俺を見つめてそう言った。
「許してくれるの?」
「許すも何も、もともと宍倉さんのことを怒っているわけじゃないよ。」
おれはそういって、微笑んで見せた。
明らかに、村さんが変な笑みを浮かべてる。
鈴木さんも「まあいいんじゃない」とボソッと呟く。
静海も俺が生徒会室に連れて行くということに、少し緊張したように体を固くした。
その際に俺の腕を抱きしめるような行動になり、俺の腕に少し膨らみかけているような柔らかな何かが当たり、変な汗が出てきた。
「白石君、お願いします。」
はっきりと宍倉さんが俺に向けて今日初めて笑いかけてくれた。
鈴木さんが軽く宍倉さんの目元をぬぐってる。
そのタイミングで、バスが来た。
読んでいただいてありがとうございます。
もう少し先の話で、部活紹介時の演劇部の紹介での劇の描写がある予定です。その劇のもとになる短編を投稿してみました。
よろしかたっら読んで、感想をいただければ、嬉しいです。
よろしくお願いします。
屋上の二人 https://ncode.syosetu.com/n4505hr/




