第66話 幼馴染と妹と
静海が玄関を開けると、うちの家を囲っているブロック塀の前によく知った少女が立っていた。
「あ、西村さん、おはよう!あれ、お兄ちゃんと待ち合わせてた?」
静海が元気よくあいさつした後、少し驚いたように俺を見た。
俺もちょっとびっくりした。
もともと幼馴染ではあるので、家がそんなに遠いわけではないが、慎吾のように隣同士というほど近いわけではない。
高校に行くための駅までは村さんちからは明らかに遠回りだ。
ふと視線をあげると、淀川慎吾が自分の家の2階、自分の部屋からニヤニヤして俺たちを見ていた。
「おはよう!」
俺の視線に気づいた慎吾が爽やかに挨拶してきた。
その言葉に村さんも気づいたようで、慎吾に向けて大きく手を振り、「おはよう、久しぶり」と返した。
「おはよう、慎吾。」
「おはようございます、慎吾先輩。」
慎吾はそういえばイケメンだったな。
イケメンが好きなわが愛すべき妹が照れたように挨拶をしている。
(誰にも静海はやらんぞ!たとえ慎吾君でもだ。)
親父が何かわめいているが、現彼女持ちの慎吾に警戒の目を向ける必要はないはず…。
「仲いいな、お前ら!」
慎吾の言葉に、ふと、左手に柔らかい感触を覚えた。
静海が右手を俺の手に絡めてきてる!
胸の柔らかいふくらみが俺の右腕にあたってるんですけど!
「静海ちゃん!なにしてんの!」
村さんが静海の行動に驚いて、変な声をあげてる。
「静海さん…?」
俺はおっかなびっくりという態で、顔を静海に向けた。
少し朱に染まった頬が絶妙に可愛いんですけど!
えっ、えっ、なんで?
この前までゴキブリを見るような殺気をはらんだ視線を向けてきていたのに!
(お前は実の妹まで手を出したのか?)
(そんな分けねえだろう!)
(じゃ、静海のこの態度はなんなんだよ!)
(俺が教えてほしい!)
「お兄ちゃん、早く行こうよ、遅れるよ?」
「あ、ああ」
そうとしか答えられない。
どうやら離れる気はないらしく、そのまま手を引っ張るように駅に向かおうとする。
「静海ちゃん、遅れるのは解るけど、兄妹でそれはないと思うよ?」
もっともな意見を言う村さん。
俺は引きずられ、歩を進めながら慎吾に顔を向け、「じゃあな、慎吾、また!」と声を出した。
「光人、今度彼女の虹心をちゃんと紹介するから、逃げんなよ!」
「わかってる!」
「どういうこと?」
今、村さんの頭の中はきっと❔マークでいっぱいのことだろう。
「慎吾の彼女、榎並虹心を俺が面識ないって言ったら、今度紹介するってさ。」
「そういえば、私も詳しくは知らないな。」
人脈の広い村さんにも知らない同学年の女子がいたか。ちょっと驚き。
「なあ、静海、なんでお前は俺の手を引っ張ってんの?」
いまだ俺の手を引いている妹にやっと声を掛けた。
静海は慌てて手を引っ込めた。
俺の手と二の腕に違う種類の柔らかい感触が熱を持つように残ってる。
手を引っ込めた本人は耳まで赤くして俯きながら歩いている。
「だって、なんだか西村さんが可愛かったから、なんとなく、かな…。」
意味不明。って、イミフだっけ?
急に歩き出したため置いてきぼりになりそうだった村さんが追いついた。
「おいてかないでよお。」
「ああ、わりい。で、何で村さんこっちから来てんの?」
俺たちに合わせた歩きをしながら、俺の左側に顔を出す。
「だって、心配だからに決まってんでしょ!昨日倒れてんだもん。」
「ああ、ごめんな。でも、昨日LIGNEで大丈夫って送っただろう。」
「そうは言ったって、ここのところの白石家は大変だったじゃない。心配しちゃ悪い?」
「いや、そんなことないけどさ。」
静海が俺の反対側から村さんに向いた。
「心配ですよね、西村さん。倒れただけでも心配なのに、家にきれいな女の子が二人も尋ねてきたんですもんね。」
先ほどまで照れて赤かった顔は平常営業になり、今度はにやついた表情を浮かべ、村さんを揶揄い始めた。
「そんなこないよ、静海ちゃん。ちょっと意地悪だね。」
「うふふ、可愛いですよ、西村さん。そんな表情見るの初めてかも。」
なんか村さん、頬をぷくって感じに膨らんでる気がするんですけど、拗ねてます?
「でも、宍倉さんがコウくんちに行ったって聞いたときもびっくりしたけど、もう一人女子がいたって、どういうことなんですかね?モテモテの白石君。」
LIGNEで書いたじゃんかよお~。蒸し返すなよ、村さん!
(やっぱり経験値低いと、こういう時駄目だな、光人)
(親父は村さんが絡んでくる理由、解るんですかね、レベルの高い賢者さん)
うざく絡んでくる親父に皮肉を込めて、伝えた。
あざけるような含み笑いが頭の中にこだまする。
(わからん方がどうかしてるんだが…。西村さん自身もどうもわかってないようだし、光人は色々な意味で、人生の経験値をあげるべきだな。)
微妙に説教臭いことを言われた。
これって、あからさまに見下されてるな。
「宍倉さんにしても、その友達の鈴木さんにしても、正直なんで俺んちまで来たかよくわかんないって、説明したろ。勢いで中学の話して同情されたところで、柊先輩が親父の事故の事、喋っちゃうったからさ。」
心底疲れたように村さんに言ったら、急に俺に視線を向けた。
睨んでる!
「ちょっと待って!柊先輩って、生徒会の説明の時、ちょうどコウくんが倒れたときに自己紹介してた先輩?あの、とてつもないオーラを振りかざしてた?」
あれ、柊先輩のこと、LIGNEに書かなかったっけ?
うん、書かなかったな、俺。
その件で静海がおかしくなってた時だし。村さんだって、
体調の心配もそこそこ、宍倉さんのことやけに絡んできてたよな。
「柊先輩がな、自分の紹介の時に倒れた生徒がいるってことで、わざわざ見舞いに来てくれたんだよ。まあ、確かに、廊下に射す光で、すんごく輝いてたけどな、柊先輩。」
村さんが柊先輩を表す表現が、やたら大げさなので、俺もあの時の柊先輩の素直な気持ちを口にしたんだが…。
「ああ、やっぱりコウくんもきれいな人、大好きだね。やっぱり、あまりの美しさに気絶したんだあ~。」
どうしてそうなりますか、村さん。
あまりの美しさに気絶するって、どこの異世界?
「確かに柊先輩は読モやるくらいだからすんごく綺麗だけど、ふーん、やっぱりお兄ちゃんも顔しか見てないんだね。なんか、やだな~。」
えっ、何なの、この二人の冷ややかな反応。
静海だって、昨日先輩と知り合いって言ったら、事故の事知らないときはやけにテンション高かったじゃんか!
村さん、俺の前に言った言葉覚えてる?似たようなこと言っただけじゃん!
「まあ、男なんてそんなもんよね。」
「そうですね、西村さん。」
二人が俺の横から少し早足になり、見えてきた伊薙駅に俺を置き去りにするかように進んでいく。
「まったく。なんで俺が悪いみたいに言われなきゃなんないのか、女の考えることは解らん。」
ひとり呟く。
(女心は解らんものだけど、今の会話は結構わかりやすいんだが。光人、少しは女心を理解する努力はした方がいいぞ。)
俺には心休まることはできないのか。
(いつでも相談に乗るぞ。)
(親父のそのおせっかいが一等鬱陶しい!)
俺は前を行くふりに追いつくため軽く走り出した。
読んでいただいてありがとうございます。
もう少し先の話で、部活紹介時の演劇部の紹介での劇の描写がある予定です。その劇のもとになる短編を投稿してみました。
よろしかたっら読んで、感想をいただければ、嬉しいです。
よろしくお願いします。
屋上の二人 https://ncode.syosetu.com/n4505hr/