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第60話 白石影人 Ⅳ

 大岡は近くのファミレスで鎌取雫(カマトリシズク)と会った。


 もう一度、柊冬花(ヒイラギフユカ)椎名眞樹子(シイナマキコ)の情報についての対価について交渉した。

 どのような情報かわからないモノの値段としてはかなりの高額の要求だった。

 しかし大岡は1,2度の交渉でほぼ満額を払うことを了承した。

 これは、自分の能力を極力低く見せて後の情報の収集を有利にするためでもあったが、鎌取の余裕のなさが、彼女の置かれている状況がかなり悪いことが見て取れた。

 しかも情報を提示する前の前金を要求してくるところが詐欺のにおいさえしてくる。


 鎌取雫の話は椎名眞樹子と柊冬花の娘と思われるダークブラウンの髪の毛の人物を含む女子高生と思われる3人との会話だった。


 必ずしもすべてが聞こえたわけではなかった。

 だが1番重要なカラコンの話と金銀妖瞳(ヘテロクロミア)の話は、柊夏帆の周辺を探るうえで有益なものであった。

 大岡はにとって重要な仕事は終わったが、もう一つの、特に和倉興信所にとって大きな仕事を続けた。


 鎌取雫は決して美しい女性ではなかった。

 不細工ということはなく、たまに可愛い仕草をのぞかせるものの、いわゆる「普通」の娘であった。

 にもかかわらず、実家が裕福であることから、ちやほやされていたのである。


 しかし現大学に入学すると、裕福なお嬢様ばかりで、親の経済規模が大きな娘たちも多い。

 さらに可愛い、綺麗な女子大生が数多くキャンパスにいた。

 結果的に雫は全く目立たなくなった。


 今までは普通の顔立ちでも金持ちということでちやほやしてくれた。

 だが今は、誰も、男も女も全く雫を特別扱いしなくなった。

 化粧をして着飾っても、この大学では普通以下に見られてしまう。


 大学で現状を目の当たりにし、出版社近くの喫茶店でアルバイトを始めたが、長谷部をはじめ誰も自分のことを異性として認識してくれなかった。

 合コンに出ても引き立て役か、都合のいい1夜限りの使い捨てだった。


 そんな時、自分のことを誉めてくれる男に出会った。

 男の言われるままに体を許し、金を渡し、借金をした。


 この話を、大岡は高額の情報提供料の理由から聞き出した。

 後半部は居酒屋に誘って相談する振りをしながら、口を軽くしてもらった。


「だって、向こうの仕事して高額だっていうお金、実際には全部借金に充てられて、自分の手元に来ないんだもん。」


 鎌取雫との会話はすべてボイスレコーダーに録音している。

 大岡はその言葉に、今まで演技で行っていた笑みが、心からの勝利の笑みに変わった。


 鎌取はすでに犯罪に手を染めていた。

 今回の報酬は借金返却ではなく、自分の遊ぶためということだった。


 大岡は慎重にその「仕事」の内容と実施日時、回数を相手に気付かせることなく巧妙に言わせる。

 頃合いを見て、彼女の分も含めた会計を支払って離れようとした。


 だが、鎌取雫は執拗に大岡をホテルに誘った。


「あの男、最近してくれないんだもん。」

と、言うことだった。


 大岡は何とかこの酔っぱらいをタクシーにぶち込み、鎌取の自宅まで強制的に排除して所長に報告した。


 この時に合わせて、鎌取雫の「ミーミル」に関しての話はかなり不鮮明であることも報告している。


 鎌取雫は厨房の中という、かなり距離のある場所から聞いていたらしく、ヘテロクロミアとかカラコンとかと言った会話の断片でしかない。

 さらに付け加えれば、実際には柊夏帆がカラコンを取っていたらしいのだが、その下の瞳の色は見ることが出来なかったこともわかっている。


 直接柊夏帆(ヒイラギナツホ)や冬花を脅迫しようとしても、ただの女子大生風情にそんな大それたことは出来ない。そして、遠方から聞いていた「ヘテロクロミア」という単語だけで金銭を要求できるはずがない、と理解できるほどの知性は持っていた。もし出来るとしても、SNSで噂を流し炎上させる程度の嫌がらせくらいなものだ。

 これは鎌取も重々承知しているようで、であるから、先に金銭のやり取りを急いだということも報告している。

 暗に柊家には危害が加わる可能性が少ないということを和倉は仄めかしたわけだ。


 和倉所長が報告後、警察がどういった動きをしたのか、彼らの犯罪が何だったのかまでは和倉さんは話さなかった。


 ただ鎌取の語った内容より、柊夏帆の過去はかなり楽に調べられたようだ。

 キーワードが多かったのは僥倖だった。


 私はその報告書により、柊夏帆がある程度は理解できたような気がした。

 そして両親たちが夏帆をかばった理由も朧げに理解できた気がする。


 柊夏帆は圧倒的な有名人という訳ではないものの、そこそこの知名度がある。


 この私の事故に関わっていたとマスコミが知れば、いやな過去をほじくり返される可能性があった。

 そして、絶対、人に知られたくない瞳の秘密が露見してしまう。

 彼女の両親たちはそれを恐れたのだろう。

 小さな興信所でさえたどり着いた秘密。

 小学3年生までは普通に瞳を晒してきたのだ。

 マスコミが興味本位で探ればすぐに事細かに秘密は暴露される。


 柊夏帆がそのことをどれほど理解しているかは今のところ不明である。

 この秘密が暴かれる危険性を鑑みれば光人に接触することなど愚の骨頂だ。


 にもかかわらず、現場にいたことを隠しながらも光人に近づいてきたのは、罪に対する贖罪の現れか。 

 そう考えるしか今のところはないのだが…。


 ここまで調べてくれれば、私としては不満の言いようはない。

 

 それどころか思った以上の収穫を得られたわけだ。

 先程鎌取雫に払った情報提供料も全額こちらで支払う旨を和倉さんに申し出た。

 しかしながら、この件に関しては和倉興信所と警視庁のパイプの維持が目的であり、純粋に依頼内容に則したものでないため、受け取りを拒まれた。

 だがこちらとしても柊夏帆が家族に守られている最大の秘密がわかったのも、この件があるからであった。

 結果的には鎌取雫の報酬の額は折半ということで折り合いをつけた。


 私が行った和倉さんとの交渉は、とても中学3年生が行えるものではない、と感嘆していた。

 さらには、この事務所でバイトしないかとまで誘われてしまった。とはいえ、現時点で中学3年の少年を働かせられるはずもなく、大学生になったら待ってるよ、と最後に声を掛けられた。


 私も調査内容に熱くなってしまったようだ。

 少しこの肉体の年齢に合わせていくことを考えていかないと。


 柊夏帆の周辺情報は思った以上の成果に満足している。

 今後、本人と接触するようなときは、この情報を的確に使っていかなければいけない。


 私は今考えていることを、極力自分のPCに収めるようにしている。

 これは、私という存在自身が消滅した後も、光人の行動の指針になることを期待しての作業だ。

 事故関連はこうしておけば、光人が行動に迷った時の最低限の道標になってくれるのではないか。

 私はその思いを込めて、この文面をしたためている。


 とりあえずこの件に関しては、光人には伝えないつもりだ。


 柊夏帆があの現場から姿を消したのが本人の意思ではないことと、その理由が推測できたと思う。


 しかし、まだ私の中で納得はいっていない。


 瞳の秘密は確かに彼女と親族にとって、守らねばならない秘密だと思う。

 そのせいで過去に傷を負った少女がいたのだから。


 だが瞳の秘密は少年を助けた恩人の遺族にまで秘密にしなければならないのだろうか?

 というよりも、それほど秘密を守りたいのであれば、やはり自分から光人の接触(コンタクト)してきたことは解せない。


 もっと大きな、そう、罪を彼女は抱えているのではないだろうか。


 そして、あの美少女はそれに悩み、光人にその罪に対する報いを求めているように感じるのは、考えすぎなのだろうか?


 光人にはまだ柊夏帆の瞳の秘密は伏せておいた方がいい。


 必然的にあの事故現場から姿を消したことについて、私は白を切るしかないな。


 まさか、日常で和倉さんに会うことはないと思うのだが…。

 注意するに越したことはない。


柊夏帆にはまだ、語られていない謎が残っています。

やがて、夏帆自身が語ることになりますが、まだまだミステリアスで、ポンコツヒロインとして頑張ります。

期待して待っていてください。


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