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第59話 白石影人 Ⅲ

 和倉さんは駆け付けた私に穏やかな(それでいて恐れを感じる)微笑みを浮かべ、「柊夏帆(ヒイラギナツホ)に関する報告書」と記された書面を渡した。


 書面はA4サイズの用紙が10枚ほど。

 顔写真とともに簡単な経歴と、活動履歴が載っていた。

 だが、さらにページをめくると、この少女の過去と秘密がつづられていた。


「まさかこんな報告書を作ることになるとは思わなかったよ。」


 強面の和倉さんが笑うと純粋に怖かった。

 犯罪を犯し、警察から尋問を受けるという意味の一端が透けて見えた。


 柊夏帆ヒイラギナツホ 7月17日生まれ 17歳 日照大千歳高校2年在籍

 光栄社発行 女性ファッション誌 JAにて読者モデルとして活動

 JA誌上にての好感度ランキング 一昨年26位 昨年9位

 容姿:写真参照 

 特徴:ダークブラウンの髪と、同系色の瞳

 身長163㎝ 血液型 O 現住所:房総県港湾市***

 家族 父:柊清司(キヨシ) 47歳 (株)JEC 開発部長

    母:柊冬花(フユカ) 43歳 パート勤務 三松堂書店 (旧姓 浅見)

      前職 光栄社(この縁でモデルをしているのか?報告者注)

    妹:柊秋葉(アキハ) 15歳 日照大千歳中学3年在籍

  報告者注:母・冬花は母がノルウェー人でハーフである。従って対象者はクウォーター。



「日照大千歳高校なのか。光人、いや、私と同じ高校なんですね。」


「そうですね、もし知り合えるなら、そちらで聞いてみるのがいいかもしれませんね。」


 そう、うまくいかないだろうな、と考えながら報告書をめくる。


 そこにはある理由で柊夏帆がいじめられていた経歴が書かれていた。


 金銀妖瞳(ヘテロクロミア)


 実例は初めてだ。だが写真はどちらも同じ瞳の色。髪と同じダークブラウン。


 報告書には小学3年から始まったいじめで学校を転校、さらに小学6年で不登校になっている。


 実際の瞳を見ていないので何とも言えないが、そんな子がいれば、子供が好奇の対象にしないわけがない。

 結果、している方は気にしなくてもされた方は大きく傷つく。


 典型的ないじめの構図だ。

 光人のいじめとはその根が違う。だから解決は光人の時より厄介だ。


 しかし小学6年1年間を不登校状態で日照大千歳中学に受かるのか。

 もっとも、学校に行かず受験勉強だけしていたのであれば、話が変わってくるが…。

 光人に比べるとかなり優秀ということになるのは事実だろう。

 実際、今は特進クラスだ。少し悲しくなった。


 中学からは常時カラーコンタクトを装着し、いじめはなくなった。


 同じ小学校から入学する生徒もいないことが幸いしていた。

 彼女の学区だと中学受験はほぼ東京になるため、逆方向の日照大千歳中学は受験生の保護者の視界には入っていないようだった。

 中学からは親友と呼べる者もできたようで、幸せに成長したようだ。


 私の事故が起きるまで…。


 ただ、不思議なのは彼女の周辺を調査してもらったのは私だが、どこから彼女の重大な秘密を調べることができたのだろうか。


「ただの偶然なんですが、この事実は今回の件に関わっているかもしれないと思いまして、わかる範囲で調査させていただきました。」


 和倉さんはそう説明した。


「柊夏帆の母親、柊冬花はモデルをしているJAの編集者・椎名眞樹子(シイナマキコ)と元同僚です。二人がよくいく喫茶店で話を聞いてきたんですが…。」


 内容は報告書にも記されていた。


 光栄社と冬花の勤務する三松堂の近くで営業する喫茶店「ミーミル」。

 椎名眞樹子と柊冬花がよく通う喫茶店。

 柊夏帆の関係者のうち二人が通っている喫茶店であれば、調査対象としてもおかしくないように思えるが。和倉さんはそれとは別の案件でその喫茶店「ミーミル」を調べているらしい。

 

 ここに和倉興信所の調査員・大岡隆(オオオカタカシ)は周辺調査を行うべく赴いた。


 まず、この店の経営者の息子で実質の店舗責任者・長谷部誠明(ハセベセイメイ)に話を聞こうとしたが、当然のことながら個人情報を盾に一切答えなかったそうだ。


 当然である。


 警察の聞き込みならいざ知らず、興信所など、人の弱みで金を稼いでるところと率先して関わる経営者な信用などできない。


 バイトではあるが、和倉所長に基本を叩き込まれている調査員である大岡は、長谷部からの情報はまず取れないことは織り込み済みだった。


 この喫茶店は別件で和倉さんの調査対象ではあった。

 正確には喫茶店「ミーミル」ではなく、ここで働く従業員だったのだが…。


 通常の情報収集で顔を出しての接触は、その後の収集活動の弊害となる。

 本来なら控えるべきなのだそうだ。


 だが、この行動は別のメリットがあるとのこと。

 ある程度第三者がいるような状況だと、この様子を見ていた第三者から接触してくる場合がある。

 それが時に有益な情報を携えて。


 つまり、餌をまいたわけだ。対象者を釣るために。


 大岡はその対象者が食いついてくる可能性が高いことを、和倉所長より指摘されていた。


 喫茶店「ミーミル」が警察の捜査対象ではなかった。

 ただし、バイト職員である鎌取雫(カマトリシズク)は警視庁が内定しているグループに関わりがある可能性が高いことが和倉所長の耳に入っていた。


 この鎌取雫が何故、捜査線上に浮かんできたのか?


 この情報をもとに鎌取がバイトのシフトに入っている時に、聞こえよがしに調査をしたのである。


 案の定、現役女子大生でバイトの鎌取雫が声を掛けてきた。


 釣れたわけだ。


 それは調査対象の二人の女性に関する重要と思われる情報を提供できると、鎌取雫は言った。

 それと交換に対価を請求してきた。


 大岡は自分も大学生でバイトであることを軽い調子で話した。

 大岡は見た目、軽く見られやすい格好をしている。

 そちらの方が相手の気が緩みやすく、軽く口を滑らせることも心得ていた。


 鎌取の勤務後に改めて話を聞くことを取り付けた。


 鎌取雫はお嬢様大学と知られるフェアリー学院女子大学に通う3年生、21歳。


 だが、悪い男に惚れこんでしまった。


 そこそこの小遣いはあっという間になくなり、社会勉強でしていたこの喫茶店程度のバイト代もすぐに底をついた。

 その男の言われるままに借金を繰り返した。

 その借金先は男と関係のある金融会社であった。

 完全に計画的な犯行と思われる。

 結果、借金は膨れ上がり、裕福な両親に打ち明けることもできず、追い詰められた。


 男はその借金を返すための方法を提示した。

 風俗で体を売るか、自分の仕事に協力するか。


 単純に鎌取雫は緊急での金銭が必要だった。


 すでにその男は警察に内偵されている。

 その男により風俗店、犯罪組織に堕ちた女性も数多い。

 金融会社、風俗店もリストに上がっている。


 ただ、鎌取雫がその犯罪に手を染めたかどうかは、今のところ不明。


 出来ればその辺りの情報を掴み、警視庁のネタ元にフィードバックしたい


 そが和倉所長の考えであった。



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