第56話 柊夏帆 Ⅷ
うわあ~、やっちゃった~!
私は自分の部屋に入り、扉を閉めると同時にベッドに倒れこんで、今日、自分がしてしまったことに頭を抱えてしまった。
慎重に白石君に接近するはずだったのに、なに、あの態度!
どうしていいか分からず、焦ってしまった。
そうとしかいいようがない。
岡崎先生だけならまだしも、あんな可愛い子が怖がるように私を見てたんだもん。
好感度を持つような接近方法なんて、明らかにあの女子生徒に反感買っちゃいそうだったんだもん。
それにしても、強引すぎる。ストレートすぎる!
「伊薙駅の事故で亡くなった白石影人さんと縁のある人」なんて文言、おかしいでしょう、柊夏帆!
頭脳明晰、成績優秀、才色兼備って、いったい誰のことなんだ~
よく言われている自分を讃える言葉が、私を奈落に落とし込んでいく。
交通事故で亡くなった人の遺族に、不遠慮に言っていいことじゃないよ~!
とりあえず落ち着け、わ・た・し。
ゆっくり深呼吸する。
やってしまったことはしょうがない。
まずは、現状の整理。
明らかに不快を表情に出していた白石光人君。
少しおびえたような宍倉彩音さん。
あきれた顔をしていた岡崎先生。あの顔は、明日呼び出し案件だな、うん。
考えてるだけで、恥ずかしさが全身を襲う。
本当に何をやってるんだろう。
よし、自分の悪かった点はひとまず置いておこう。
今回良かった点。
これは絶対に白石君と知り合えたこと。
その印象が最悪だとしても…。
宍倉さんを生徒会に誘えたこと。
もし興味を持ってもらえたら、これは非常に大きいアドヴァンテージ。
嫌われてなければ、だけど。
宍倉さんとしっかりコミュニケーションを取らないと。
本当に生徒会に入ってくれないかなー。
今のところ、まだ白石君より話しやすい気がするんだけど。
担任があの岡崎先生だったことは救いかな。
他の先生よりかは話し通りやすいし。
最悪、向井先輩経由で協力を仰ごう。
とはいえ、蓮と一緒にお線香をあげに行くのは出来たとして、本当のことを白石家の方に打ち明けるとなると…。
なんか、今までより更にハードルが上がった気がする。
事故現場にいたこと、そしてそれを隠していること。
何故うちの家族が隠さなければならなかったのか。
このことを白石影人さんの遺族である白石君たちに打ち明けることを自分で誓ったはずなのに、既に絶望し始めてる。
勉強や運動は、もうやり方は決まってるようなものだから努力だけなんだけど。
こういった交渉みたいなものは、その人のことがわからないと対処のしようがない。
そうだよね、まずは相手を知らないと。
まずはそこから。
白石光人。この少年について、まずは知らなきゃ、ね。
今日、見た限りでは、特別特徴を捉えることは難しい。
私の焦りすぎな暴走に対して、表情は良いとは言えなかったけど、礼を失しない程度に振舞っていた。
そして、蓮のことを心配していたのは紛れもない事実。
たぶん、優しい子なんだろう。
委員会説明の時の倒れた原因は解らなかったけど。
でもそういえば、私を目の前にして全くかしこまった雰囲気がなかったな。
ふつうの男の子は私の前でオドオドした感じになるのが常なんだけど、そんな感じには見れなかった。
自分がかなり整った顔立ちとスタイルであることは、今更謙遜することすらはばかられる。
でなければファッション雑誌で1年以上も読者モデルなど務まる筈もない。
ある意味周りに圧倒する存在感を与えているはずだ。
そんな自分と対峙して「普通」でいられる高校1年生がどれほどいるのだろうか?
確かに白石君は私に対して警戒とも取れる緊張感をまとっていた。
そう、あれは私に対する警戒だ。
何故?
私が交通事故で助けられた蓮と従妹であることは知らないはずだ。
でも、あの態度は、穿った見方をすれば私が何者か知っていた雰囲気だったとも思える。
どういうことだろう。
それに、白石君の後ろで様子を見ていた宍倉さんは、彼とどんな関係なのかしら。
まさか恋人同士?
わからないことが多い。
今日会っただけで変な邪推をするのはやめた方がいいだろう。
宍倉さんが生徒会に興味を持ってくれていたら最高だが、そうでなかったとしても、それを理由に明日彼らの教室に様子を見てみるのもいいかもしれない。
そのせいで白石君にまた悪感情を持たれたとしても、今更だし。
白石光人君、ごめんなさい。たぶん、いくら謝っても、私は許されることはないわね。
それでも…。
うん、よし、明日からの行動はそれで行こう。
ちょっと、どうかと思ってたけど、生徒会の役員であることも利用させてもらおう。
ちょうど明日、都合のいいイベントがある。
二人が同じクラス、確かG組だったはず。担当を変更すれば対処できる。
もう、手段をどうのこうの言ってる場合じゃないんだし。
だって、私が、白石君のお父さん、白石影人さんを、
……………………… コロシたんだから
この話で一応入学式の1日が終わります。
まさかこんなに長くなろうとは、書いている本人がびっくりしてます。
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