第52話 岡崎先生と石井先生 Ⅱ
軽く石井教諭は笑い、さて、ここから本番みたいな意味深な瞳を慎哉に向ける。
「さて、会議の報告はこんなもんで、白石光人君のほうはどう?」
「無事本人をご自宅まで送り届けましたよ。その間、これといって調子悪そうにはしていませんでしたね。」
「何もないことはなにより。家庭訪問の結果は?」
「結果も何も、母親は不在でしたね。入学式にも来られなかったようです。うちの中学に通う妹さんはいましたけど。」
「あ、そういえばそうだったね。詳しくは聞いてないけど、中学の米倉先生が、交通事故で親をなくした女子の話してたっけ。」
「マスコミとかの対応もあって、長めに休んでいたはずですよ。」
「上に報告するようなこと、ある?」
「一応、母親の務めている診療所に行くように指示しました。明日、私と柴波田先生に報告するってことで。その程度ですかね。」
「ということはそれ以外に何か私と共有するべき情報があるってことか。」
「かなわないな、石井先生には隠し事ができないですね。」
「隠す気なんかないでしょう。何かあった?」
さて、何から話すか。白石光人の態度の変化については説明しづらいしな。
「やけに白石に興味を抱く女子生徒がいましてね。」
「えっ、ラブロマンスの話?」
うわぁ、すげえ食いついてきた。
「さあ、そこまでのことかどうか、何とも言えないんですけど。」
興味津々な目、してるんですけど!
「その女性とってのが宍倉彩音なんですよ。」
「ちょっと待って、それって例の男性不信の宍倉?」
「ええ、その宍倉彩音です。中学の連絡からは、ちょっと想像つかなかったんですが、ね。」
少し考え込んだ石井教諭は、疑り深い眼で慎哉を見る。
そんな目で見られても、本当なんだから。
「変な目で見ないで下さいよ、石井先生。保健室で寝てる白石を見舞うし、さらに白石の家まで付いてきちゃいましたよ。」
「はあ?なにそれ?それのどこが男性不信なの。白石光人ってそんなにいい男だったの?」
「どうなんでしょう。少しいろいろありすぎて、何というか、まあ、普通の男子高校生ってとこですか、ね。」
「答えになってないわね。まあ、極度の男性不信が解消されたのなら問題の一つは解決したってことで、いいことね。」
「何とも言えませんが、要観察ってとこでしょうね。今後、ちょっと注意お願いします。」
「了解したわ。他には何かあるかしら。白石光人は今のところ問題はなさそうってことでいいわね。」
「とりあえずは。まだ入学式ですからね。問題が大きくならないうちに解決していく方向は変わりませんよ。全く、よくもまあ、これだけの生徒を一つのクラスに押し込んだもんだ。」
「それだけ信じられてるってことか、あるいは。」
「問題が起こることを誰かが願ってるか?ってとこですね。」
「くれぐれも用心しなさい。一応フォローするつもりだけどね。すぐに親睦旅行でしょ。トラップは至るとこにあるわよ。」
石井教諭はそう言って立ち上がり、ペットボトルを持ち上げた。
「これありがとね、ということで、また明日。頑張ってね、いろいろ。」
「茶化さないでください。そんな意味深な言い方して。こっちは給料分しか働く気ないんですからね。」
「はい、はい。いつもそんなこと言って、よく貧乏くじ引いてるとこ、結構好きよ、岡崎先生。」
そう言って、英語準備室から手を振りながらでていく。
「ったく、勝てんな。」
さて、明日の予定の再確認と、純菜に連絡か。一応父さんには連絡入れておくか。
信哉は国立大学機構石川大学の教授である父親に電話を掛けた。