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第47話 静海の心

「パパを死なせた…」


 静海(ルナ)の表情が消えた。


 目が焦点を失っている。


「違う、静海。あれは事故だ。親父があの子を助けたんだ!」


 体が震えている。

 あれは、浅見夫妻が焼香して帰ったすぐ後、静海はまだ感情をコントロール出来ず、大号泣した時にそっくりだった。


 俺の言葉はまるで通じない。


 静海は頭を抱え、椅子から崩れ落ち、うずくまるようにして震えている。


 フラッシュバックか。


 どうすればいい、どうすればいい、どうすればいい…。


 (光人、私に任せてくれ!)


 (えっ!)


 親父の言葉に俺は静かに心を落ち着ける。そして…。


「落ち着け、静海!」


 俺の体を動かす親父がうずくまる静海のもとに近寄る。


「パパが死んだんだよ、死ななくていいパパが」


「大丈夫だ、静海。大丈夫だから。いいか、私はあの子を助けたかったんだ。」


 親父が完全に自分の立場を忘れてる!


「静海、お前ならわかってるはずだ。私が何をしようとしていたか。」


「えっ、お兄ちゃん、私って、パパみたいに。」


 静海の感情が落ち着いてきた。

 これは、俺の話し方がおかしいことに気づいてるな。


「私は目の前で起こったことに対して責任を取った。あの子の命を救えた。それで十分だ。まあ、死んじまっちゃだめだけどな。」


「そうだよ、死んだんだよ、お父さん。死んだらどんないいことしたって意味ないよ。死んだらもう会えないんだよ。それでいいの、もう私たちに会えなくていいの、お父さん。」


「いいわけがない。でもこうして会いにこれる。あの子を恨むんじゃない、いいね、静海。」


 静かに親父が静海の頭を優しくなでた。

 泣きそうだった静海の顔に笑みが広がっていく。


「静海、君はよくわかっていると思う。あの子も、柊夏帆も、絶対恨んではいけないよ。私は自分の信じる行動をした。いいね?」


「うん、お父さん。」


 ゆっくりと笑顔の静海が親父を見上げた。

 親父がゆっくりとうなづき、静かに瞳を閉じた。と、同時に体が崩れ落ちるように静海の横に倒れた。


「お父さん!」


 俺はゆっくり体を持ち上げるように、上半身を起こした。

 体に大きな疲労感が残っている。


(後を頼む。)


(何を勝手な…)


 とはいえ、さっきの静海を抑えられたのは、親父にしかできないことだ。

「お父さん」という静海の呼び方は不思議なことに俺が中学受験に失敗する前まで使っていた親父への呼び方だった。

 そしてその時は俺も「お父さん」と呼んでいた。

 何故、あの時から二人とも親父への呼び方を変えたんだったか?


「大丈夫か、静海。」


 大きくため息を履きながら、静海に語り掛けた。


 多分、その問いかけで気付いたはずだ。


「う、うん、おとう…お兄ちゃん。大丈夫?」


「静海がおかしなことになっていたから、心配で近寄ろうとしたらこけちまったようで。もしかして、俺、なんかしたか?」


「ううん、大丈夫。お兄ちゃんは、何もしてないけど、私なら大丈夫。」


 しっかりと「お兄ちゃんは」の「は」を力強く発音している。

 そう、お兄ちゃんでない、誰かが何かをしたと言いたいように。


「何かいいことでもあったか?」


 微笑んでる静海を訝しむような声音で、さらっと聞いてみる。

 俺が何も知らないというように。


「ううん、何にもないよ。ただ、パパの事故に関係した人のことで、少し心が平静じゃなくなりそうになったけど、うん、大丈夫。」


 もうパパに呼び方が戻ってる。

 もしかしたら自分がお父さんと言っていたことも覚えていないのかもしれない。


(うまく誤魔化せたようだな、ありがとう、光人。)


(この状況は説明が難しいから。今は、心配した父の霊が俺の体を借りてしゃべったということの方が、静海にとってはわかりやすいよ。誰も信じないと思うし。俺も気絶してわからないということにできたようだしね。)


「柊先輩のこと、大丈夫か。」


「だから、大丈夫だって。それよりもあんな美人の先輩とお兄ちゃんが知り合いってことの方が、鼻が高いよ。」


 扉をたたく音がした。

 たぶんお袋が心配して様子を見に来たんだろう。


「光人、大丈夫?静海もそこにいる?ご飯できたから下にいらっしゃい。」


「ああ、解った。今行くよ。」


 俺は立ち上がり、静海に顔を向けた。


「行こう、腹減ったよ。」


「うん。」



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