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第44話 宍倉彩音 Ⅲ

 岡崎先生に送ってもらって家に着いたのは4時半を過ぎていた。


 既に先生から連絡があったので、父も母も心配はしていない様子。


 岡崎先生は父母には合わず、私と伊乃莉を下ろすとすぐに学校に向かった。

 どうやらかなり時間をオーバーしたようで、学校から連絡が来ていたみたい。


 私は1階で両親が働いている会計事務所に顔を出し、帰ったことを伝えると、二人ともにこやかに「お帰り」と声を掛けてくれた。

 そのままこの宍倉ビルの最上階にあたる8階の自宅にあがり、自分の部屋に入って、一先ずベッドに腰を落ち着けた。


 今日は入学式だった。


 朝、母と一緒に家を出て、伊乃莉と伊乃莉のお母さんと合流して学校に来た。

 そのまま式が終わって、伊乃莉と一緒に帰ってくるはずだった。

 別に予定はなかったけど、こちらに帰ってきてから伊乃莉や友達と少し遊びに出てもいいかな、なんて思っていた。


 何がどうしたらこんな怒涛のような1日になるのだろうか。


 何故、あの少年に惹かれたのだろう。


 自分でも不思議だった。


 同世代の男の子と自然に話ができたのはいつ以来かしら。


 それどころか、強引に家まで行ってしまった。


 白石光人に同情したのは事実だ。

 まずいじめのこと、そしてお父さんを亡くした事故のこと。

 同情しないわけがない。

 でも、それだけではないことは解っている。


 西村さんが「コウくん」と呼ぶこと。


 柊先輩の積極的な行動。


 それらが別におかしなことではないのは理解しているつもりだ。


 西村さんは白石光人君の幼馴染。


 柊先輩は従妹の命の恩人である白石影人さんの息子に対する感謝の心。


 二人の行動はとても自然なことのはず。


 でも、その行動を目の当たりにして、私の胸に、言い表せない感情、もやもやした心が確かに存在する。


 では、私は。


 私は、白石光人という人のなに?


 クラスメイト。

 出席番号でひとつ前。

 前の席に座る女子。


 友だち?


 私と白石君の関係が、自分自身で納得がいかない。


 明るい西村智子さん。


 綺麗すぎる柊夏帆先輩。


 自分の感情に名前を付けることは簡単なようでいて、今はその名をつけてはいけない気がする。


 そう。


 今、自分に対して凄く懐疑的になっている理由がある。


「しらいし」という名前。


 何時からだろう、「しらいし」という名前に変な愛着を感じ始めたのは。


 鈴木伊乃莉が奇しくも言っていた通り、「しらいし」という名前に過剰に反応して、伊乃莉の記憶にこびりつかせてしまうほどに。


 にもかかわらず、全国版にまでなった白石影人の事故のニュースは、全く覚えていない。


 今日、白石君の家にあった遺影を見たときに、心の中から暖かい記憶がよみがえるような、もやのような気分が込み上げてきた


 結局その正体は解らなかったが。


 自分の感情が迷路に入ってしまったようだ。


 それでも、白石光人のことを考えていると、心の奥底が温かくなる気がする。

 明日、多分、会えばこの気持ちも少しはすっきりするのではないだろうか。

 そんな気がする。


 ベッドでじたばたしていたら、鞄の中に入っているスマホから着信音が響いてきた。


 慌ててベッドから降り、机に置いた鞄からスマホを取り出した。


 伊乃莉からだった。


「やっほー、あやねる、一人で照れて、ベッドでジタバタしてない?」


 えー、なんでわかるの!


「無言のとこ見ると、図星と見た。」


「ち、ちが、ちがうわよ、いきなり、なんなの!ベッドには寝転んでたけど、ジタバタなんて、してないしー。大体、何の用、いのすけ。」


「いのすけは言わない!そんなこと言っていいのかな、あやねる。面白い情報持ってるんだけどなあ。」


 もったいぶる伊乃莉。

 制服のままベッドに座り、自分の髪の毛をいじる。


 何、その大げさな言い方。


「そんな、じらさなくていいから。言いたいんでしょう。」


「まあね。さっきね、悠馬から連絡あってさ。」


「ああ、弟の悠馬君ね。そういえば日照大千歳の中学だよね。何かあった?。」


「白石君の妹ちゃん、静海ちゃんだったかな、ってうちの悠馬の同級生なんだって!すごい偶然。」


「ええっ!」 


 パニクっていた白石君の妹さん、静海ちゃんを思い出す。少したれ目が特徴的な可愛らしい子。


 いのすけの弟と妹さんが同級生。


「すごい、すごい、すごい!何、その偶然!うわー、こういうことってあるんだあ。」


「なんか、運命、感じない、あやねる。」


 運命、そんなもん、信じないけど。

 でも、光人君とは、何か惹かれるものがあるんだよなあ~。


「やっぱり一目惚れってやつ。」


「えっ、何言ってんの、いのすけ。」


 急に冷やかすような口調で伊乃莉が直球を投げてきた。

 ニヤニヤ笑いの伊乃莉の顔が頭に浮かぶ。


 ホント、ヤナ性格してるな、いのすけ。


「そんな訳じゃないよ。ただ、気になるだけだよ。お父さんを亡くしたばっかで、心配してるだけ。」


「まあ、そういうことにしときましょうか、あやねる」


 軽い笑い声がスマホの向こうから聞こえてくる。


 自分の心臓が変に高鳴ってる。


 あ、どうしよう、明日。変に気にしちゃって、白石君と話せるかわかんない、どうしよう~。


「まあ、そういう訳で、明日は8時までに学校行くからさ、7時待ち合わせで、OK?」


「おーけー!」


 軽く返事して、通話を終えた。


 当然、白石君も妹さんからこの話は聞いてるよね。


 明日、光人に声をけるネタが増えたことは単純にうれしい。


 そう思いながら、まだ制服のままだったことに気づいて、慌ててクローゼットに向かった。



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