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第39話 レジェンド岡崎

 小声で麗愛(レイア)に言われたことが刺さったのか、鳴美(ナルミ)は「ごめん、言わないで」とこれまた小声で返した。

 麗愛はそれに満足したように、今度は少しトーンをあげて、私を意識する様うな感じで文句を言う。


「話をする気があるんなら、サクサク話す!わかった?」


「あ~い。ッと、なんの話だっけ?」


「女子生徒会長、向井先輩の話。」


「了解。その生徒会長さんね、なんで生徒会長に立候補したかわかる?」


 ニヤニヤしながら鳴美が静海に問いかける。


 これは、あれだな、恋愛絡み。

 あれ、でも、岡崎先生の話ってどこ行った?


「生徒会に好きな人がいたから、とか?」


「おしい!いい線行ってる、ルナ。もうひと声。」


「え~、じゃ、立候補したら、好きな男子が付き合ってくれるとか、条件だったとか」


「ぶー!答えから離れました。」


「もういいからさ、岡崎先生の話はどこに行ったのよ」


「だから岡崎の先生の話してんの。実はその時の高校生徒会の顧問が岡崎ティーチャーだったのよん」


「なに、それって、つまり、好きな先生とお近づきになりたくて、生徒会長になろうとしたってこと!」


「はい、大正解です。その時のニッチ高の美人No.1と呼ばれた女生徒からモーション掛けられちゃうぐらい、いい男ってことなのよ。」


 興奮気味に話す鳴美。少しあきれる静海。


 さっき見た先生、そこまでのイケメンではないよな。不細工とは言わないけど。

 うちの兄貴とどっこいどっこい。


「ナル、一つ質問していい?」


「なんですか、白石君。」


「鳴美先生は、その高校の岡崎ティーチャーを見たことがあるんですか?」


「噂は知ってるけど、そんなすごいイケメンを学校でみたことはないです!」


「うわあ、すがすがしいばかりの噂だあ~」


 あきれた感じの麗愛が、オレンジジュースを飲み切って話に入ってきた。


「ナルは本当に話がずれるよね。まだ話の途中だよ。」


「あい、すいません。岡崎ティチャーがイケメンかどうかはさておき、実際に先生の気を引くためだけに、生徒会長に立候補、当然そんな美少女が立候補すればほぼ満票で当選と相成りました。」


「え、満票ってさすがに凄くない。」


「ナルは話を盛りすぎ。ルナも話半分で聞いてあげて。」


 麗愛があきれ顔で、注意を促す。


「ま、そんなことで無事に生徒会長となり、岡崎ティーチャーと結ばれました、めでたしめでたし。」


「で、ナルはめんどくさくなって大幅に話を端折りましたとさ。」


 麗愛が鳴美の話を豪快に、ぶった切る。


「ホント、ナルは大見得切って話し始めても尻切れトンボだよね。こんな話より、ルナに報告があるってのに全く。」


「えっ、今の話はなんなの、レイ。」


「まあ、ちょっと待って!本人、まだ心の準備が整ってないみたいだから。とりあえず、レジェンドの話、続けるよ。」


「うん、お願い。」


「まあ、そこで本当に付き合い始めちゃったら、どう考えても学校側からも、生徒からも非難ゴウゴウよ。実際のところ、つい最近流れてきたんだから。5年くらい前の話ではないのね。生徒会長になった向井先輩は、まず当時の恋愛状況を変える運動をしたの。当時生徒間の恋愛行動に関して厳しく取り締まる風潮があったみたいで。カップル同士の成績が落ちたり、校内でのイチャイチャぶりのせいで、他の生徒の勉強に対するモチベが落ちたりとかね。」


 まあ、それはなんとなく理解できる。

 目の前でイチャイチャされたりしたら、「リア充爆発しろ!」って、ヲタじゃなくても思う。


「とはいえ、好き同士の恋人同士を強制的にやり玉に挙げ、別れさせるなんて酷い、ってことで、当時の風紀委員を解散させ、別に校内の雰囲気を悪くしないために生活委員を設置したのが向井元生徒会長ってわけ。基本校内で度を越えた恋人同士の行動を注意はするけど、節度思った男女交際を認めるような形に持って行ったんだよね。」


「結構それ、凄いね。絶対学校側は反対するでしょう。」


「そこは顧問の岡崎ティーチャーの後押しの元、巧妙に生徒総会にかけて、成立したんだよね。」


 そこで麗愛は一息つく。隣で鳴美がその声を聞いているんだかどうかわからない顔で、オレンジジュースを飲んでいる。

 さっきまでの勢いはどこへやら、何か緊張感を漂わせ始めた。

 これはさっき麗愛が言っていた「報告」とやらのことだろうか。


「でね、向井先輩は、もひとつ、重要な仕事をしているの。」


「さっきの話だけでもすごいけど、まだあるの?」


「実は、うちの文化祭って、7年くらい前は、保護者だけを招待した、内輪受けものだったって知ってた?」


「学校見学で小6の時に来たけど、普通に一般の人たちも見に来ていたような気がするけど。」


「それは2年前くらいでしょう。その一般公開を、その時の文化祭委員と一緒に一般公開を実現したのも向井先輩たちの生徒会だったんだって。ねえ、すごくない?」


「ほへ~、それ、岡崎先生がレジェンドでなく、その向井先輩自身がレジェンドじゃないの。」


 もし、高校生程度でそこまでのことができるって、すでに天才!


「そうだよね。でもね、その仕事一つ一つに岡崎ティーチャーが絡んでるんだって。困ってる時に助けてくれる王子様なんて、それまでいいと思っていたら、もう好きになるしかないじゃんって感じだよ。」


「ほー凄い人だったんだ、あの先生。ふつうにめんどくさい仕事を押し付けられた若い先生だと思ってた。ああ、でも、そうか、わざわざ連れてきてんのもな。」


 静海は少し意味深な言い方をした。

 このいいように麗愛も鳴美も、ガッチリ食いついてきた。


「ルナ、その言い方、何!」


「気になる口調だね。」


 静海はその意味ありげな言い方は、岡崎先生よりも、先生が連れてきた兄貴の同級生に興味があることを話すきっかけにした。


「実はさ、兄貴が連れてきたのは、その岡崎先生だけじゃなくてね、女子の先輩、しかも2人も。私はそっちに気を取られちゃった。」


「え、ちょっと~。ルナの兄貴って、非モテ陰キャだって言ってなかった?」


 鳴美が当然の質問を投げかけてきた。

 それは静海が散々この二人に愚痴って来たことだった。


 自分がいかに兄弟運がないか、手を変え品を変え、説明していたのである。

 兄のことを自分が悪く言うのは一向にかまわないのに、他人に言われると、胸にモヤモヤが広がる。

 これが自業自得ということを痛感する。


 特に、父親の死後のあとの、さまざまな事務処理を、父の知り合いで兄のいじめの時にも相談してもらっていたという鶴木弁護士とこなしながら、母や自分を励ましてくれた。

 その時の印象が強く、すでに自分の中から兄に対しての嫌悪感が消え、逆に好感度が爆上がり状態。


 それ故、人から悪口を言われると否定したくなる。

 が、鳴美にしても麗愛にしても、その兄の外見内面共に悪しざまに語ってきた身としては、それこそ今頃否定などできるものではない。

 二人から静海が変わったという印象を受けるのは、父親の突然の死だけではなかった。


「で、どんな女子の先輩だったの。」


 ナルは容赦なく説明を求めてくる。


「ちょっとかわいい感じの先輩なんだよ。なんというか、うちの兄貴からは想像できない感じの。あれ、二人とも同じクラスだったかな?鈴木伊乃莉(イノリ)さんと宍倉彩音(シシクラアヤネ)さんって言ったと思うんだけど。どっかで聞いたことのある名前だと思ったら、ヲタク兄貴の好きな声優に似た名前だったんで、覚えちゃった。」


 静海は、基本、地頭がよく、特に記憶力が優れていることは自分でもよく判っている。

 人の名前、顔は一度見聞きすれば、ほぼ覚えてる。

 ただ、噂話など、自分に関係ないと思うとシャットアウトする傾向がある。


「鈴木伊乃莉先輩、あ、ちょっと待って、どっかで聞いたことあるような気がする。」


 静海の言った名前にどうも聞き覚えがあるらしい。

 鳴美が目をつぶり、難しい顔をして考えている、

 もしかしたら声優の人と間違えているのかもしれない。

 でも、そう。ルナも少し引っ掛かっていた。鈴木、伊乃莉…。


「で、今日初めて会ったはずなんだけど。妙に兄貴のこと気にしてんだよね。まあ、倒れたのが心配ってこともあるんだろうけど。」


「一目ぼれって感じかしら」


 麗愛が、ルナの話から勝手に想像してる。

 でも、白石光人の顔を思い出して、静海は「ない、ない」と軽く手を振りながら答えた。


「でも、兄想いの妹としては、どちらでも十二分に可愛いので、ぜひ兄貴と付き合ってほしい!」


「え、嘘、ルナ、そんなキャラだったけ?」


「まあ、ヲタク呼ばわりしてたのは事実だけどさ、パパが亡くなっちゃって、残った家族がぎくしゃくするのも、嫌だし。それにホントは、お姉さんって欲しかったんだよね。まあ、今までの兄貴じゃ、天地がひっくり返ってもリアルな彼女作れるとは思わなかったんだけど。」


「既に彼女になってる設定?でも、ルナも恋愛、興味でてきたんじゃない?」


 浮かれた感じで鳴美がはやし立ててくる。

 さっきから、どうも浮わついた感じがする。何故?


「はあ~。ナル、変なテンションになってきてるよ。そろそろじゃないの。」


「う~ん、そうなんだけど。」


 麗愛と鳴美は何かルナに言いたげだが、どうも鳴美が言いづらそうな感じがしてる。


「ナルぅ~、もう時間、やばいよ。」

 結構長居をしているコーヒーチェーン店。

 午後4時を超えている。

 もっと話したいことはいっぱいあるのに、楽しい時間は早く過ぎるって本当だ。

 パパを亡くして本当に辛かったけど、少しづつ慣れてきてる自分がいる。

 でも、多分、ずっと私たち家族が悲しみ続けて、本当に悲しむのは、パパなのではないだろうか。


「よし、わかった。」

 かなりの優柔不断を発揮していた鳴美がやっと決心がついたようだ。


 鳴美が何かを振り切るようにして、口を開いた。


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