第38話 久しぶりの友達
神代麗愛と御須鳴美はすでに待ち合わせ場所の津田川駅前に来ていた。
久しぶりに見る二人は相変わらずおしゃれだ。
麗愛は艶のある長い黒い髪を今日はそのまま、おろしている。
学校では後ろでゴムで止めているので、より大人びて見えた。
中1、いや明日には中2になるか、にしては背が高くほっそりとしたその体に、白のパンツルック、薄いピンクのブラウスで少しガーリーなところに、ブラウンのジャケットを羽織っている。
ぱっと見はどこかのモデルか、女優みたいな雰囲気。
切れ長の少し細めの瞳に鉛筆でも載せられそうな長い睫毛が、麗しい。
静海の少し丸い鼻とは違うスーとした鼻から、今日は薄くオレンジっぽい口紅で飾られた口元がかすかに笑ってる。
あー、きれいでいいなあ~、といつも思わせる麗愛は、静海を見つけ軽く手を振っていた。
それに気づいた鳴美が大きく手を振っている。
小さな鳴美は本当に可愛い。
また今日はあまり見ないような可愛い服に身を包んでいる。
春らしいとはいえるが、横に麗愛がいると、かなりお子様感が大きい。
薄いレモン色のワンピースのスカートにはフリルがてんこ盛り。
膝くらいある丈は、もともとか、それとも背丈のせいか。
その上からピンクのカーディガンを纏っている。
小さな鞄が、これまたおしゃれをした中学生のまんまだった。
まあ、それがすごく鳴美らしくよく似合ってるんだけど。
少し色素が薄い鳴美の髪の毛は染めているわけでも、脱色しているわけでもないのだが、ブラウンという感じの色合いである。
その髪の両サイドを結って後ろで結んだ髪形は全体的にこれからデートにでも行く雰囲気だ。
久しぶりの3人での外出に力入れたのかな?
そんなことを考えながら、静海は動きやすい格好できたことに、鳴美に対して少し申し訳なく思ってしまった。
とはいえ麗愛もそんなに力入ったた感じじゃないからいいよね、なんて思ったり。
「ごめん、遅くなっちゃった。」
静海は顔の前で両手を合わせて、二人に頭を下げた。
「そんなに遅れてないよ、大丈夫!」
鳴美が笑いながら、そんな静海の手をつかんで、ぶんぶん振る。
「珍しいよね。静海が遅れるのって。体、大丈夫。落ち着いたから一緒に遊ぼうって、連絡受けたんで、喜んだけど。やっぱり調子悪そうなら…。」
麗愛が心配そうに静海の顔を覗き込んだ。
そのキリッとした綺麗な顔が少し不安げに見える。
心配という文字が浮かび上がってくるようだ。
「うん、大丈夫、私はね。うちの兄貴が入学式で倒れたって言ってね。担任の先生が送ってくれたんだけど…。」
「それ、ちょっと危ないんじゃない、静海。本当にいいの、ここに居て。」
鳴美が静海の話に驚いて、右側から手を握ってきた。
あ、可愛い手、温かいなあ~。
二人とも静海を心配してるのに、そんなことを考えていた。
「うちの兄貴だからさ、全然大丈夫だよ。どうも睡眠不足じゃないかってことだから。一応、今、うちのママの勤めてるクリニックに診てもらってるはずだけど。」
「じゃあ、遊べるんだね、やった~。ここのところ大変そうだったし、こっちから連絡入れづらくてさ。ルナから連絡あった時はレイと、はしゃいじゃった。」
「はしゃいでたのはナルだけだよ。私はナルとちょっとハイタッチしただけ。」
「レイがハイタッチ?それはすっごいね!ごめんね、二人とも。ヲタクの兄貴も結構頑張ってくれてたんだけど、パパが亡くなったのにママがすっごく落ち込んでてさ。なかなか一人にできなくてね。」
麗愛のハイタッチを初めて聞いた静海はそれが見れなくて少し残念そうにしていた。
それだけ麗愛は大人っぽくて、冷静だ。
それに比べ鳴美は想像しやすい。
「そうそう、聞いてよ。うちのヲタク兄貴、まあ倒れるくらいパパのことは頑張っていたのは認めるけど、ヲタクはヲタクなんだよ。なのに、今日家に担任の、えっと、岡崎先生といったけな、だけじゃなくてさ。」
「ルナっち、ちょっと待って。あなたのお兄さんの担任、岡崎先生なの?」
「あ、うん、そう自己紹介してたから。」
「ルナ、聞いたことないの、高校のレジェンド、岡崎ティーチャーの話」
麗愛が、続いて鳴美が岡崎先生の話に食いついてきた。
静海は二人の勢いの気圧されてしまう。
「何、そのレジェンドって?」
麗愛が大きなため息をした。
鳴美もびっくりしている。
あれ、私って変?
「まあ、高校の先生の話なんてどうでもいいって気持ちもわからなくもないけどさ、岡崎ティチャーの話くらいは知ってないと。噂話も結構馬鹿にしたもんじゃないんだよ。」
なぜか鳴美がえらそうな態度で、そう説いてくる。
でも鳴美だけじゃなくて麗愛も知ってるってことだから、私が噂話に鈍感ってことか。
まずい、みんなの話から取り残されると、兄貴みたいになっちゃうぅぅ~。
「では、かわいそうなルナに、わたくし、鳴美様が教えて進ぜよう。」
鳴美が、思いっきり尊大に、上から目線で静海に対して語り始めようとした。
そこで、麗愛が話を止めた。
「ちょっと待って。話し長くなるかもだから、何か飲みながら話そう。他にも話したい事あるんでしょ、ナル。」
静海は麗愛の視線に応える鳴美に、かすかな違和感を覚えた。
それが何かわからないまま、麗愛に促されるままに、コーヒーチェーン店に腰を落ち着けた。
3人ともオレンジジュースを注文。
話の続きを再開。
「5,6年くらい前に、高校の生徒会の会長に女子が当選したことがあって。たぶんそれが最後でここのところは普通に男子がやってるんだけど。その時の女子って言うのが、特進クラスでも成績が5位から落ちたことがないって人で。しかもかなりの美人。スタイルもよくて、東京でよくスカウトされるんだって。芸能界には興味がないらしくて断ってたって話。もったいないよね。私ならすぐOKして、東京の高校に転校して、イケメン俳優とラブロマンスって、いてっ」
話が脱線し始めたのを敏感に察知した麗愛が後ろから鳴美の頭をはたいた。
「もう、レイはすぐそうやって私の頭をはたくう~せっかく一生懸命セットしたんだよ。」
小声でレイが「今言った話、そのまま伝えてもいいの?」と、鳴美の耳元で囁いている。
私に聞こえないように気を使ったようだが、バッチリ、私の耳に届いていた。
はて、何のことだろう?