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第31話 自宅までのドライブ

 停車した公用車の運転席のドアを開け、岡崎先生が降りてきた。


 軽く笑った。


「わりぃ、学年主任の山脇先生に捕まった。柊と話してるのを見たみたいでね、嫌み言われたよ。」


「柊先輩と話してると、何で文句言われるんですか。」


 俺は先生の愚痴に違和感を覚えて、素直に聞いてみた。


「変な噂のせいでな、担当でもないちょっとかわいい女子生徒と話をしていると、すぐ勘ぐってくんだよ。」


「教え子に手を出したせいですか?」


 宍倉さんがかなり直球で先生に聞いた。


「言い方!悪意に満ち満ちた言い方だぞ、宍倉。ほら、お前の友達がドン引きだ。さっさと乗ってくれ。白石んち、向かうぞ」


 岡崎先生はそう言うとすぐに運転席に乗り込んだ。


 俺は、何気に助手席に乗ろうとしたのだが…。


「白石君はこっちの後部席!私の横に来て。」


 宍倉さんは後部座席にその小柄な体を滑り込ませると、上半身を俺に向けて強引に手をつかんで引っ張り込もうとする。


「あやねるう~。私は何処に乗ればいいのよ」


 鈴木さんは後部座席に宍倉さんと乗るつもりだったのだろう。

 そう思ったから俺は助手席に乗ろうと思ったのだが。


(少し狭いが、二人の少女に挟まれるのも悪くはない。)


(人の心を代弁するかのようなナレーション調の思考を脳内で入れるな。)


(別にこれは光人の気持ちを代弁したわけじゃない。私のささやかな願い)


(エロ親父願望止めい)


(二人のかすかな体温と甘いにおいを感じたいのはお前も望んでいることだろう)


(エロ願望を共有したくない!)


 エロ親父との脳内漫才が続く中、宍倉さんはにこやかに鈴木さんに指示する。


「いのすけは助手席に座って。私、白石君に聞きたいことがてんこ盛りなの。」


「あやねるう~。私の体を変態ロリコン教師に差し出して、自分はラブコメ編に突入ですかあ」


「聞こえてるぞ、変な濡れ衣を俺に着せるな。いいから、さっさと乗れ」


 鈴木さんは不満いっぱいの顔をして、助手席に乗り込んだ。

 宍倉さんは岡崎先生の運転席の後ろに、俺はそのとなり、助手席に鈴木さんという配置に落ち着き、ゆっくり車が動き出した。

 

 車が動き出すとすぐに宍倉さんが真剣な顔で俺に向き直った。


「私はよくわからないんだけど、白石君のお父さんの事故って、何があったの。柊先輩はその事故にどういう形でかかわってるの?」


 そうだろう、この話が聞きたかったんだよな。柊先輩の話の時から急に積極的になった気がする。


(なあ、親父、どう思う)


(お前の言いたいことは理解しているつもりだ。宍倉さんの聞きたいのは、事故の経緯もさることながら、あの美少女の関わりだろうが、問題は彼女が隠してることについてだな)


(ああ、本人が隠したがっている以上、何故かは解らないが、言うべきではないよな。でも、隠したいなら、わざわざ自分から俺に接触してくるのもおかしいよな)


(まあ、人は矛盾する生き物だからな、お前もわかるときが来るさ。)


(何か知ってるのか、その口ぶり。)


(ノーコメント)


 急にだんまりを決め込んできた。


「先生、俺の家ってわかりますか。」


 岡崎先生に、一応確認する。もう、体調は戻っているのだから、本来は俺が助手席でナビゲートするべきなのだ。


 その助手席には、まだ正式に本人から自己紹介されていない、童顔のふわふわパーマのかかった少女が、運転席から極力体を離すようにして、シートベルトを握りしめて、座ってる。

 どうも、たまにスカートの裾を引っ張るようにして素足を隠すようなそぶりを見せている。


「カーナビに住所いれてっから大丈夫だろう。近づいたら、細かいとこ教えてくれれば十分。それより、白石、事故のこと、言いづらければ知ってる範囲で俺がしゃべってもいいが。」


「先生、父の事故、どのくらい知ってます?」


「一通りは。中学からも連絡きたし、ニュースや新聞でも確認したよ。」


 そこまで知ってれば、確かに先生から言ってもらっても構わないが。

 既に親父が俺の頭に住み憑いてるから、前みたいに事故の話をしても心が締め付けられることもなさそうだ。


(住み憑くって、人を悪霊のように)


「えっ、白石君のお父さんの事故って、全国で放送されるほどのものだったんですか?」


 宍倉さんが驚いていた。


 仮に見ていても、自分と関係なければすぐ忘れるしな。


 事故のニュースなんて毎日必ずやってる。

 かなりの大事故か、悪質なものでなければ覚えちゃいないだろう。

 俺だって、自分の家族のことでなければ池袋の老人による母子ひき殺し事故くらいしか記憶にない。


「もしかすると、小学生を助けるために飛び込んでトラックに轢かれたって事故のこと?」


 あれ、覚えてる人がここに居る。


「鈴木さん、覚えてるの?」


「前に、あやねるが「生協の白石さん」とか「久保さんは僕を許さない」とか、あと「ミステリーという勿れ」のTVかでキャストが白石麻衣がでる、って言ってて、変に白石って名字が記憶にこびりついてた時にあったニュースで。確か亡くなったの、白石影人さんって人だったよね。」


 鈴木さんが窮屈そうに俺たちのいる後部座席に顔を向けた。

 もう観念すればいいのに、少しでも岡崎先生から距離をとろうとしているので、少し笑ってしまった。


「な、何笑ってんの。私は自分の教え子に手を出すような破廉恥教師から貞操を守ってるってえのに!」


「お前、いい加減にしろ!先生を無条件で敬えという気はないが、いくら温厚な俺でも、機嫌悪くするぞ。確かに俺の恋人の向井は元教え子で間違いない。だが、付き合い始めたのは、あいつが大学出てからだ。高校時代の女子生徒と関係を持ったような事は1度もない。」


 岡崎先生が力強く語ってる。

 鈴木さんは絡みつくような陰湿な目で先生を見てる。

 しかし、新入学してすぐに担任ではないとはいえ、教師に対してする態度ではない。


 まあ、今のところ、直接俺には関係ないしな。


「いのすけ、先生に対して失礼よ。」


「誰の所為よ!」


 うん、鈴木さんをさんざん脅した人の言うセリフではないね。


「でも、いのすけはもともと事故のニュース、よく覚えてるよね。」


「まあ、私には直接は関係ないんだけどね、親戚で交通事故で亡くなった人、いるからさ、なんとなく引っ掛かるんだ。」


「えっ、初めて聞いた。」


「そりゃあそうよ。人に話すことじゃないしさ、私が生まれる前の話だから。」


 少し寂しそうに、鈴木さんが言った。

 あまり突っ込んで聞けそうな話ではなさそうだ。


(光人、お前が許せば私の方から説明するぞ。)


 親父が脳の中で俺を心配そうに聞いてきた。


(そんなことできるの、親父)


 前の話だと俺が意識を失う状況でないと親父はこの体を動かせないんじゃないのか。


(光人、少し考えるのをやめて、心を無にしてみてくれ。)


 急に言われてそんなことできるのか。

 俺、禅宗の僧侶じゃないよ。


(いいから、やってみろ。一番は自分の呼吸を意識して、心臓が動いてることを想像してみろ)


 仕方がない、やってみよう。


 呼吸をゆっくり、意識して、心臓の動き、ゆっくり、ゆっくり、ゆっくり・・・ゆっくり・・・ゆっく・・・・・ゆっ・・・・・・・。


 意識に靄が、かかる。


 何かが俺を押しのけるような感覚があった。



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