第30話 宍倉さんの友人
校門のところに見覚えのある少女が立っていた。
鈴木伊乃莉さんだ。
入学式で宍倉さんに振り向いてた元気な少女だ。
こちらに気づいた鈴木さんが、少し膨れたような顔で俺の前を早歩きする宍倉さんに駆け寄ってきた。
「おそいよー、あやねる。LGINEでよくわかんなかったけど、何がどうしてどうなったの」
鈴木さんが文句を言ってる。
そりゃそうだろう。
一体どのくらい待ってたんだろう。
「もう、本当なら、お昼食べてる時間だよ。大体こんな目立つところにいたから、変な男たちから声かけられてやんなっちゃう。」
まあ、鈴木さんも宍倉さんとタイプは違うけど、十分可愛い女子だ。
ちょっと幼く見えるけど、声を掛けてくる陽キャ男子、チャラ男さんはいて当然だと思う。
(光人、お前この高校に入学して、何人の美少女とお知り合いになってんだ。西村さんが妬くぞ)
(何故、ここで村さんの名前が出てくるの?)
親父の言葉にびっくりする。西村さん、関係ないだろう。
「ごめん、いのすけ。ちょっと友達が大変だったから。」
俺、宍倉さんの友達でいいの?ちょっと感激。
「だから、いのすけはやめてよ。でも、もう友達出来たの、あやねる。すごい進歩だね。え、高校入学で進化しちゃった!」
「おおげさだよ。中学でもそれなりにいたじゃん。」
「待って、あやねる。その友達、全部、私経由って覚えてる?」
あっ、やっぱり宍倉さん、俺と同じ陰ある人だ。なんか安心しちゃった。ま、でなきゃ俺なんかと合わないよな、うん。
(光人、変に納得すんなよ。パパ、涙が出そうになっちゃう。)
(あー、鬱陶しい)
宍倉さんは、鈴木さんの言葉に返す言葉がないようだ。
俺は、宍倉さんの横から顔を出し、少し頭を下げる。
「えーっと、鈴木さんだよね、宍倉さんの友達の。ごめんなさい、俺のせいで引き留める形になっちゃって。」
一先ず謝る。
鈴木さんが俺を見て、それでなくとも大きめの目を見開いて、まじまじと俺を見つめた。
いや~、そんなに見つめられると、照れちゃうって。
「まさか、友達って、この男子?えっ、あの、あやねるが、男の人の目が怖いって言ってたあの、ボッチ系美少女のあやねるが?」
宍倉さんの過去に何があったか知らないが、かなりの驚きよう。
まあ、でも、俺も知り合って数時間しかたってないのに、かなりの積極性を見せてたよね。
波長が合うってやつなのかな。
それにしても、友達のことをかなり下に見ている態で、美少女って言ってくるところって、鈴木伊乃莉さんは、もしかするとツンデレ百合の人なのだろうか?
(下劣な想像はしない!)
非常に正論なお叱りを親父から受けた。
一瞬、宍倉さんと鈴木さんが百合な光景を妄想した自分が悪いね、うん、反省。
「私だって花の女子高生になったんだから、男友達の一人や二人で来ても当然で…。」
「だんだん言っている内容に自信がなくなっていくところはいつものあやねるだけど。本当に友だちなの。変な薬飲まされて、マインドコントロールされて、調教されてない?」
「や、やめてよ、調教って何よ!本当に友だち!白石光人君。出席番号が続きで仲良くなったの。変な想像しないで!」
「あ、すみません、只今ご紹介にあずかりました、出席番号18番の白石光人です。今後ともお見知りおきを」
「何、その堅苦しいあいさつ。披露宴の友人代表挨拶か!」
笑いながら突っ込んでくれた。
こういう風に反応してくれると助かる。
一歩間違えると、完全スルーで、息が止まってた。
「あれ、っていうか、あやねるの近くの番号ってことは、入学式でぶっ倒れた人ってこと!」
「はい、そのぶっ倒れた人で間違いありませんです。宍倉さんに、付き添ってもらってまして、これから担任の先生に家まで送ってもらう予定です。」
俺は淡々と事実を告げてみた。
(いや、全然淡々としてないから。どう考えても挙動不審にしか見えん)
(冷静な突っ込みありがとう)
ここのところ、慣れてきた親子漫才を脳内で繰り広げていると、鈴木さんが訝しむような眼で俺と宍倉さんを見た。
「ちょっと待ってね。今の話からすると、私ついさっき知った男子の家に連れていかれるってこと」
うーん、宍倉さんはLIGNEでどういう説明をしているんだろう。
「そう、さっきメッセ送ったじゃん。友達になった子の家に付き添うから一緒に来てって。」
「確かにその通りの文面だけどさ。重要な単語がいくつか抜けてると思わない?男子ってことも、担任の先生ってとこも、車で行くってとこも。」
おお、鈴木さんすげえ。
速攻で宍倉さんの文面の重要な欠落を的確に指摘した!
しかしその文、たぶんだけど、わざと重要な部分隠してるね。
「このメッセの文からじゃ、普通、学校の近くに女子と友達になったから遊びに行こう!ってなるよ。男子の友達?担任の先生?あ、ちょっと待って、先生って、男?女?」
「うちの担任、岡崎慎哉先生。男、独身、生徒会書記の先輩の話によれば、元教え子の恋人有り」
「うわー、最後の情報、いらなかったなあ~。それ、教え子に手えだす、最低教師ってことじゃん」
宍倉さん、もしかすると鈴木さんいじって、楽しんでる?
でも間違ったことは言ってないか。
さて、鈴木伊乃莉さん、どうする?
「いのすけ、ダメかな、一緒に行くの」
あ、声のトーン変えてる。
(こんな声で女の子におねだりされたら、男は断れんな。)
(同感。)
頭の中のもう一つの人格の考えにさすがに肯定した。
とはいえ、女子に通じるのか?
「もう、可愛いあやねるの頼みじゃ、断れるわけないじゃん。それに、もし私が行くの断ったら、一人でも行くつもりでしょ。あやねる一人で電車に乗せるわけにはいかないし…。」
あれ、デジャヴ?さっき同じような言葉を聞いた気がするんだが。
(ああ、似た言葉を岡崎先生が言ってたな)
あ、ちょっと便利、このアイテムの実装。
(親の人格をアイテム呼ばわりすんじゃない)
素で怒られた。
「ありがとう、いのすけ。大好きだよ!そういうとこ」
鈴木さん、うっすらとほほが赤くなってる。あれ、やっぱりそっち系?
ああ、でも、言われたいなあ~、「大好き」
(大好きだよ、光人)
(反応よくボケてくんじゃねえ)
(息子に親の愛が届かない、およよよ)
(泣きまねすんなし)
クラクションが軽く2回鳴った。
日照大千歳高校のNを大きくデザインされたプリウスから岡崎先生が窓から手をあげた。
プリウスはハザードを点灯させながら、校門を過ぎ停車した。
運転席のドアを開け、岡崎先生が降りてきた。軽く笑った。