第260話 白石家に向かう3人
まだ、高校入学編すら終わらない状況(笑)
「じゃあ、俺たち帰るよ。」
智ちゃんが食べ終わるのを待って、慎吾たちにそう告げた。
榎並が猫みたいになって、慎吾にスリスリしている。
まあ、いいんだけど。
「ああ、今後ともよろしく、な!光人。」
俺は少し自分の笑顔が引き攣っているのが分かったが、構わずそのまま慎吾に顔を向けた。
「ああ、今後とも、な。」
「じゃあ、慎吾君と虹心ちゃん、バイバイ‼」
すっかりお腹がいっぱいになって、満足げな智ちゃんが、親し気に二人に手を振った。
智ちゃんなりに、榎並の謝罪を受け入れたという事だろう。
二人はまだ半分くらい残ってる。
あとは若いお二人でってとこだな。
3人分の金額を会計で支払ったが、会計を担当した男性店員が明らかに腰が引けていた。
今日、これで2軒目だ。
すっかり俺は嵐を呼ぶ男になっている。
「嵐を呼ぶ女泣かせのクズ野郎」。
もう、変な名前はいらないよお~。
(誰もそんな事言ってないからな、光人)
(いいや、誰かが俺の行動を監視してるに決まってる。「女泣かせのクズ野郎」の時だって、俺が心な中で冗談でそんなこと考えてたら、すでに学校で呼ばれてた)
(ただの偶然だろう?特に、あの時は学校へ行くバスの停留所で彩ちゃん泣かせてたからな)
(そうだな。変な事を考えるのをやめればいいんだよな)
(そう、ポジティブに行こう)
3人で津田川駅に向かう。
「鈴木さんの家ってどこ?」
「私の家は門前仲町だよ。」
「じゃあ、ここでお別れね。」
「えっ、なんで?私、これから光人のうちに行くんだけど。」
そう言えば、そのために俺についてきたんだっけ。
伊乃莉のその言葉に、智ちゃんの笑顔が消え、グルンって感じで俺に青筋を立てた顔を向けた。
「コウくん、どういう事かな?恋人面は、あくまでも榎並虹心に対する盾のようなものだったんじゃないの?」
「そうだよ?伊乃莉が恋人役をやっていたのはそのためだけど、何か?」
俺はこの状況でも、すっとぼけることにした。
分かってるよ、そんなことが役に立たないことは。
でも事実なんだもん、しょうがない!
(何が、事実なんだもん、だよ。心の中でカマっ気のある言葉で思考すんじゃないよ。気持ち悪いな)
親父殿の心に負担になったらしい。
でもな、正直に言って、納得するかな?
「じゃあさ、なんでコウくんちに来ることになってんの?」
「親父に線香あげたいんだって。さっき言っただろう、ナンパの話。あれは親父のお陰で助かったようなもんなんだから、って話になってさ。じゃあ、線香あげたいって。」
その話を聞いて、伊乃莉を見る。
伊乃莉は今日何度目かの化粧直しをして、やっと学校で会う伊乃莉に近くなった。
でもさ、女性ってこうも化粧で変わるんだな。
伊乃莉はもともと美少女だけど、智ちゃんも化粧のやり方によっては、いい女になるかもしれん。
(光人!本当にお前は失礼なやっちゃな!)
「コウくんさあ、今すんごく失礼なこと、考えてなかった?」
親父は俺の心が分かるからなんだけど、女子は皆、揃いも揃ってこういう時の勘は鋭い!
というか、みんなきっと超能力者か、魔法使いなのではないだろうか?
「言い返さないとこ見ると、本当に失礼なこと考えてたね‼」
俺の視線は遠い未来のこの世界が平和になった時を見ているのさ!
「うん。今日、助けたお礼を光人に言ったら、親父に言ってくれって言うから、光人の家に行くことにしたの。ついでに光人の友達にも顔を売っておこうかと思って、さっきの会合に無理言ってついていったんだけど…。思っていた以上にヘビーなことになっちゃって、ちょっとびっくりした。」
「まさか、あんなふうになるとは思わなかったのは私も一緒だけど…。ちょっと、待って!顔を売るって、どういうこと?」
「そのままの意味だよ。光人とはどうも長い付き合いになりそうだから。特にさっきの話聞いたら、守ってあげたくなっちゃった。」
明らかに、その語尾に「てへ♡」と付きそうな可愛らしい言い方をした。
特に後半の言葉は、どうも俺に向けてきたものらしい。
意味が分からん。
(鈍感系ラブコメ主人公を演じるのはやめろ光人!)
(さあ、ぼくにはわからないなあ)
3人の前にすでに電車が来ていたので、乗り込む。
智ちゃんの顔には不満げな表情が浮かんでいる。
「本当に二人は付き合っていないんだよね?」
「付き合ってないよ。」
「うん、まだ付き合ってないよ。」
智ちゃんの質問に、俺、伊乃莉の順番で答えたんだが…。
まだ?
すごく既視感が…。
当然、智ちゃんもその言葉に気付いたようで、青筋が出てる。
人によってはどこかの血管が切れてもおかしくないような、雰囲気。
「そう、付き合ってないことを確認できれば、いいよ。」
何かを耐えるように、言葉を吐いている。
そして、かなり鋭い目が俺に向けられた。
「だそうよ、光人。大切な恩人の許しも出たし、早く二人でお家に帰ろう!」
これって、完全に智ちゃん煽ってるよな。
「私もコウくんちに行くわ。いいよね、コウくん?おじさんに線香あげたい。」
あの煽りすりゃあ、こうなることが、分かってたろうに。
「なんだ、折角二人きりになれると思ったのに、ね、光人。」
「何言ってんだか。ああ言えば智ちゃんが来ることわかってたくせに…。」
「えっ、どういうこと?」
「何故かよく解んないけど、伊乃莉は智ちゃんに一緒に俺の家に来て欲しいようだ。だろう、伊乃莉?」
「あれ、バレてた?」
「ああ、理由は解らないけどな。」
「フフフ、そうね、きっと光人にはわからないと思ったけど、わざとやってることが見抜かれるとは思わなかった。」
「そういう訳で、智ちゃん。悪いんだけど、親父に線香あげてくれるか?」
「ああ、うん、わかった。ちょっと、コウくんちにお邪魔するね。」
「よろしく!」
よくわかんないけど、3人で俺の家に向かう事になった。
今年も今日で終わりですね。
年内の高校入学編の完結すらできませんでした。
来年にも続きます。
付き合っていただけると嬉しいです。
来年が本当にいい年であることを願っています。




