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第26話 いじめ


「もしかして、…。付き合ってる…の?」


 気にしてる、もしかして、気にしてる?俺のこと、意識してくれてんの!!!


「ない、ない、俺と村さん?ない、ない、なー――い」


 力いっぱいの否定。俺と西村智子、ありえねぇぇぇぇー――!!


「村さん、いや、西村さんと付き合ってないよ。俺、恥ずかしいけど、彼女なんていたことないし!西村さんとは同じ中学で、唯一の仲のいい女子だけど、恩人でもあるけど、付き合ってないよ」


 大事なことなので2回言いました。


「そ、か。彼女じゃないんだあ」


 なんか安心したようなその声、ダメだよ、勘違いしそう。


「でも、西村さんが恩人って、白石君、何かあったの?」


 今の話の流れからは当然そうなるよね、宍倉さん。

 でも、こんなキモイ話を今日会った、しかもこんな美少女に話していいものか。


 ただこれからのことを考えると、俺も強くならないと。


 過去は変えられない。

 でも乗り越えないと、親父を安心させることはできない。

 俺自身のためにも、克服しないと。

 それに少なくとも俺には村さんや慎吾がいる。

 中学で俺を助けてくれた素晴らしい友人が。


「かなり嫌な話になるよ。暗いし、人によってはキモイって言うかもしれないけど」


 俺の顔が真剣になったのかもしれない。

 雰囲気を感じたのか、口元を引き締め、しっかりと俺の顔を見つめてくる。


 少し照れる。


「中学2年の時にいじめられてたんだよ、俺。ま、きっかけは色々あるんだけどね。」


 さすがに、あいつらにいじめを受けるようになったきっかけまでは話せない。

 二戸詩瑠玖(ニノヘシルク)、そして親友だと思っていた三笠颯(ミカサハヤテ)


「ロッカーを荒らされたり、上履き隠されたり、シャーペンの芯を全部折られたりとかね。」


 宍倉さんの顔の綺麗な眉がゆがんで、中央に寄っている。

 そんな顔しないで、宍倉さんには笑顔がよく似合う。


「誰がやっているかは、概ね見当はついてたんだけど。いわゆる証拠がないってね。先生に相談したってそんな感じでね。それこそ西村さんと慎吾、俺の中学時代の幼馴染でね淀川慎吾(ヨドガワシンゴ)っていうんだけど、いい奴でね。先生に言ってくれたけどね。「証拠がない」の一言でね。疑われる人のことも考えてみろなんて、説教までされてた。本当に二人には申し訳なかった。俺がもっと強ければ、二人にそんな思いをさせずに済んだのにさ」


 気のせいだろうか、宍倉さんが泣きそうな顔になってる。

 えっ、なんで。

 ひかれるならまだしも。これ以上は言わないほうがいいかな。


「宍倉さん、大丈夫?気分悪いならもう話すの止めるけど。落ちがあるわけじゃないし。」


「駄目。」


 強い調子で、やめるのを止められた。


「今、白石君は嫌な過去と向かい合ってるんだよね、この話。白石君が話したくないら、もう止めにするけど…。でも、話したい気持ちがあるなら、話してくれるなら、話して、少しでも楽になれるなら、私でよければ、聞くことしかできないけど、話してほしい」


 宍倉さんがそう言って、俺の手をつかんできた。

 両手で包み込むように握りしめる。


 俺の心臓がバクバクバクバクして、おかしくなりそう。宍倉さんの細い指が柔らかく、冷たいのに、温かい、変な感じ。


 でも、宍倉さんの想いは、確かに俺の胸の奥をじんわりと溶かしていくようで、温かい。


「先生がそんな感じだから、西村さんから、もしそのいじめの相手と話すようなときは、スマホの録音機能のあるアプリを起動しておくように言われててね。俺、中学受験失敗して、地元の中学に行ったんだけど、すっかりいじけちゃってね。それでも西村さんと慎吾のおかげで、学校には通えてたんだよね。まあ、そういう状態で、ここで引きこもっちゃうと西村さんにも、慎吾にも悪いと思っててさ。まあ、いじめをしていたやつらは、それも気に入らないようで、西村さんにも絡んできて、俺が勇気を振り絞って抵抗したら、「生意気だ」って言ってね。普段使われていない教室に連れ込まれて。」


 そこで一度言葉を切った。

 まくしたてるようにしゃべったんで、少し疲れたので、深呼吸。

 ちょっと、興奮してきちまってた。


「いいよ、ゆっくりで」


 相変わらず、宍倉さんは優しい。


「その教室で、後ろ手に縛られ、猿轡をされ、しゃべれないようにされて、両足も縛られて、そのまま転がされたよ。そのまま奴らは帰っちまった。スマホは起動しておいたんで、音と声だけだけど、しっかりそのやり取りは録音できたよ。ここらは中学生の浅知恵だよね。証拠はつかんだ。」


 より一層、宍倉さんの手に力が入ってる。


「でも、人の来ない教室に動けない状態で放置されたんでしょう?下手したら大変な状況じゃない。」


「まあね。11月くらいだったから、そのままの状態だとかなり教室の温度は下がるよね。でも、西村さんがね、いじめていたやつらだけが校舎から出てきて、帰るのを見ておかしいと思ったんだって。でも校舎の中はもう真っ暗。慌てて俺の家まで来て、何があったか俺の親父に話したんだよ。親父はすぐに学校に連絡、親父も学校に来て、その教室で転がったまま震えていた俺を見つけて助けてくれた。」


 少しほっとしたようで、宍倉さんの体から少し力が抜け、握りしめていた手の力も軽くなった。


「親父がすごい剣幕で、一緒にいた先生たちを怒鳴りつけてね。先生も大慌てだったけど、救急車を呼ぼうとする親父を一生懸命引き留めてたよ。そんな時でも学校の体面が一番みたいで。結局親父は自分の車に俺を乗せて、うちのお袋が務めている診療所の先生の伝手で、救急病院んで診てもらった。拘束されていたところの圧迫と擦り傷、少し低体温症の兆候はあったそうだけど、大事には至らなかった。西村さんが親父に伝えてくれなかったら、大変なことになっていたよ。だから、ね、西村さんは俺の本当に恩人」


 気づいたときには宍倉さんが泣いていた。

 びっくりした。


 俺は慌てて宍倉差が握っていた手をゆっくりと解きほぐして、ポケットの中のハンカチを取り出した。ティッシュも取り出す。


「ごめん、こんなこと聞かせるつもりじゃなかったんだけど、ホント、ごめん」


 ハンカチで宍倉さんの涙を拭きとるようにぬぐった。


「白石、二人きりだからって、宍倉によからぬことでもしたのか」


 急に男性の声がこの保健室に響いた。


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