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第257話 光人の過去

 確かに俺は二戸に告白をした。

 中2の7月。

 それは間違いない。


 榎並の言う通り、あの頃の二戸は明るくて、可愛くて、優しくて、まるで俺にとっては太陽みたいな女の子だったからな。


 俺は中学受験に失敗して、伊薙中学に入学した。

 これも慎吾と智ちゃん、他にも何人かいた友人のおかげで、いく気になったという感じさ。

 あの頃は自分をかなり嫌っていたからな。


 入学して慎吾からサッカー部を勧められたんだが、集団でのスポーツをする気はなかった。

 で、慎吾の勧めを断って陸上部に入った。

 そこで三笠颯と友達になった。

 あいつも明るいやつで、変にウマが合ったんだよ。

 その時はいい友人ができたと思ったんだが…。


 二戸詩瑠玖は女子の陸上部だった。


 男子と女子の陸上部は、あまり一緒に練習をすることはなかったんだけど、たまに会うときにはあの明るさに俺は参ってしまった。


 2年になって恋焦がれる心は大きくなるばかり。

 三笠に相談して、告白する勇気をもらった気になっていたよ、三笠からな。


 さっきも榎並が言っていたように、俺は振られ、三笠が付き合うことになった。

 俺の相談を受けながら、自分がかっさらうように二戸と付き合うことには忸怩たる思いはあったけど、二戸が三笠を好きだったんだ。

 どうしようもないと思ったよ。


 俺は地区大会でいい成績は残せなかった。

 逆に三笠は県大会に進んだ。

 それでなくても顔もよく爽やかで、しかも成績も上位1桁から落ちたことがない。

 三笠に勝てる要素なんて初めからなかったからな。


 だが、ここでおかしなことになった。

 三笠は県大会に行ったけど、二戸も地区大会で終わった。

 地区大会で終わってるから、部活にそんなに真剣に取り組むわけでもなく、適当に流すような感じになった。

 それに引き換え、三笠や先輩の一部は県大会目指して練習もハードになっていた。


 付き合い始めた二戸は、三笠と遊べないことに不満を抱くようになって、二戸から俺に連絡をちょくちょくしてくるようになった。

 三笠からすればハードな練習の後で二戸の恋愛トークに付き合う余力はなかったんだと思う。


 さらに二戸は俺を誘ってきた。

 ああ、わかってるよ、榎並。

 俺がしつこく二戸を誘ったことになっているんだろう。

 だけど、俺がしつこくしようが、いやなら別に断って終わりだろう、普通は。

 さっき弱みがどうのと言ってたけど、その弱みを具体的に聞いたのか?


 実際に二人で遊園地にも行ったし、ショッピングにも付き合った。

 お茶もしたし、ゲーセンにも行ったよ。


 解ってるさ、振られたことも、三笠颯という恋人がいることも…。


 でもさ、振られたといっても、まだ好きだったんだよ。

 好きだから誘われてホイホイついていったんだ。


 三笠に悪いかな、なんて思ったけど、二戸の可愛さに抗うことはできなかった。

 しかも、「やっぱり、光人君と付き合えばよかったかな?」なんて言われたら、期待しちゃうよ。

 舞い上がっていたのは間違いなかった。


 学校が2学期になったら、さすがに頻度は減ったけど、二人で、秘密で会ってた。

 陸上部での二人のイチャイチャを見てる身としては、二戸が三笠と別れる気がないのは充分わかっていたから、秘密で会えるだけで満足していたんだ。


 まあ、でも、悪いことはいつか露見するんだよな。


 10月初旬に、俺は三笠から呼び出された。

 俺たちが付き合ってんの知ってて、なに詩瑠玖に付きまとってんだよ!

 そう、凄まれたよ。


 で、俺がストーカーになってて、二戸を脅してることにいつの間にかなっていた。

 思わず、二戸に連絡しようとしたが、その時にはすべてブロックされたよ。


 学校で声を掛けようとすれば、怖がるそぶりをして、それを他の女子が俺を攻め立てた。


 それこそ、帰り道で待っていて話をしようとしても、三笠が一緒に帰ってきて、ストーカー野郎と言われる始末だった。


 もう、しょうがない、俺が悪かったことにすれば、すべて丸く収まると思って、一切、二戸を無視するようにすると、他の陸上部の奴らが陰口を叩いていたらしい。


 終いには俺の身に覚えのない噂が陸上部に出回っていた。


 俺も、陸上部で全くボッチだったわけじゃないから、後輩からそれとなく聞かせてもらったよ。


「白石はストーカーで、二戸の学校の私物で、よからぬことをしている。」


「白石は変態で、よく女子トイレを覗いてる。」


「白石は、女子の着替えを盗撮している。」


 全く、何を根拠にそんな噂が流れるんだか。

 でも、その時は俺はそんな根も葉もない噂に、完全にまいっていた。

 さらに、三笠を含む県体常連組から、陸上部の汚物はさっさとやめろと言われるまでになった。


 10月の終わりころに、俺はもう耐えられなくて、部活をやめた。


 それくらいから岩谷たちのいじめが始まったよ。

 教科書を隠される、落書きをされる。

 ロッカーの私物が泥まみれ。

 下駄箱の靴がゴミ箱から出てきたこともあった。


 一度俺の机にゴキブリの死骸を入れていた大江戸を目撃して、問い詰めたら頬を思いっきり殴られた。

 これは智ちゃんが目撃してて、岩谷たち3人に会うときは動画を取るか、録音するようにした方がいいと忠告してくれたよ。


 11月中旬のあの日、智ちゃんがあいつらに詰め寄ってた時に、このままだと智ちゃんにも被害が及ぶと思って、あいつらと智ちゃんの間に入った。


 あいつらにとってのターゲットは俺だったから、智ちゃんはすぐに開放して、俺の襟首を押さえて、引き摺られるように、その時使っていなかった3階の教室に連れて行かれたんだ。

 で、すぐに後ろ手に縛られた。

 さらに突き飛ばされて足首も縛られ、猿轡をかまされた。

 何処のどこの犯罪者集団だ。


 なあ、榎並さ。この何処がちょっと懲らしめたって範囲なんだ?教えてくれよ。


 俺は榎並に向かってそう言い、自分のスマホを取り出し、再生のボタンを押した。

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