第255話 榎並虹心の弾劾
この男のことはほとんど知らなかったわ。
詩瑠玖、いや、私の友人の二戸詩瑠玖っていう子が、こいつから告白されたって聞くまでね。
同じ中学だったけど、クラスは違うし、慎吾君が好きでサッカー部のマネージャーなんかしてたから、あんまり他の男に関心はいかなかった。
でも慎吾君はずーっと好きだったんで、彼の友人関係を見てて、たまに視界に入ってくる程度よ、この白石光人って男子は。
別に格好いいわけでもないし、社交的でもない。
勉強もできるって話も聞かなかったしね。
うちは、ずーっと慎吾君一筋だったし。
って、本人目の前にしてると、さすがに恥ずいね。
だから、この男を本当に知ったのは、詩瑠玖がこいつから付き纏われ始めたころ、かな。
二戸詩瑠玖って子は、ほんっとに可愛いの!
髪が栗毛で、肌も白くてね。
それをセミロングくらいに伸ばしてんだけど、たまにサイドテールとかしてくんのが超可愛かったりする。
それですごく優しいんだ。
詩瑠玖とは中1の時に同じクラスになったの。
詩瑠玖から声かけてくれてね。
彼女、コミュ力凄いから、いっぱい友達いてさ、私はその頃、どっちかと言えば人見知りがあって、小学校で親しかった友達が私立の中学行っちゃったもんだから、どうしようかと思ってたんだよね。
そん時に声かけてくれたんだよ、ね、超優しいでしょう。
詩瑠玖とはいろんな話したけど、やっぱり好きな人の話が一番多かったかな。
私は、最初のクラスで、えへ、彼氏のお、淀川慎吾君と一緒になったんだけど、あまりのイケメンぶりに、一目ぼれ!
だって、格好いいだけでなくてね、優しくてさ、みんなのことよく見てんだよね。
サッカー部に入ったって聞いたら、もういてもたってもいられなくて、マネージャーで入部しちゃった。
サッカーなんてそれまで何も知らないくせにね。
これもね、詩瑠玖が後押ししてくれたからなんだ。
さっき、好きな人の話したって言ったでしょう。
それが慎吾君だったんだけど、すぐにアタックしなきゃダメだって言ってくれたの、詩瑠玖が。
その詩瑠玖も気になる人がいるっていうんだけど、誰がとは教えてくんなかったんだよ~。
これって、ひどくない?
うちのことは喋らせといて、自分は喋らないんだもん。
ただね、同じ部、ああ、陸上部ね、にいるってのは何となくわかってたんだ。
中2でクラスは別れちゃったんだけど、うちら仲良くて、部活帰りが一緒だったりすると、結構公園とか、たまにハンバーガー屋でだべったりしてたんだけど。
1学期の期末が終わって、あとは夏休みって時に、詩瑠玖が嬉しそうにうちんとこ来てさ、言うのよ、告白されたって。
えらくウキウキって感じだったな。
どうもそれが詩瑠玖にとって「初告白」だったみたいで、それで喜んでんの。
その時は驚いたよ!
だってあれだけ可愛いのに初めて告白されたとか言うからさ。
既に告白慣れしてる雰囲気あったからね、奴は。
で、どうしたのか、うちが効いたんだけど、とりあえず保留だってんだよね。
いやあ、さすがに保留はね。
付き合うにしろ、フルにしろ、それはどうかと思ったよ、本当に。
まだ付き合うならいいけど、振るとなるとね。
期待持たせといて振るってか。
その時はその相手が少し可哀想だとは思ったよ。
それが、このクズ男とは思わなかったからさ。
そう、その時の告白の相手がこいつ、白石光人だよ。
その後で同じ陸上部の三笠颯君っていうイケメンが詩瑠玖に告白したって。
確か陸上の地区大会の後って言ってたかな。
まあ。
それは幸せそうでね、詩瑠玖。
すぐ付き合ったんじゃないかな。
だからもともと三笠君のことが好きだったんだって思った。
折角、相思相愛のお似合いのカップルなのにさ、この白石が邪魔してね。
夏休みの間に、振られたのに何度もしつこく誘ったんだろう。
詩瑠玖から聞いてるよ。
詩瑠玖も優しいからさ、振って悪いって思いもあったんだろうね、何回か付き合っちゃったらしいんだよ。
多分、こいつがなんか詩瑠玖の弱みでも握ってんじゃないかと思うよ。
でも、陰でそんなことされちゃ、三笠君だっていい気がするはずないよね。
彼は陸上で記録残したから、県大会に進んで、あんまり詩瑠玖と一緒にいてあげることが出来なかったんだよ。
その隙を狙ったんだよ、こいつは。
その詩瑠玖の態度がおかしいって言って、詩瑠玖を問い詰めて、こいつに付き纏われてることが分かったんだよ。
それで、三笠君怒って、お前のとこに行ったんだろう。
なあ、白石!
だから、陸上辞めたのだって自分の所為なのに、まるで三笠君が追い出したような嘘を流したんだろう。
あまりに白石のやることが我慢できないから、岩谷君たちが白石を懲らしめただけなのに…。
悪いのは白石光人。
詩瑠玖を泣かせるようなことをしていて、まるで自分が被害者のような態度をとる卑怯なやつ。
その親の白石影人だって、弁護士迄引き連れて、学校に圧力をかけて、学年途中にもかかわらず、自分のわがままでクラス替えを起こした張本人。
白石光人はそんな奴だ。
その後、あんなにお似合いだったのに、詩瑠玖は三笠君と別れなきゃならなくなって、今でも、電話で白石に対する恨み言を言ってるよ。
優しくて明るい可愛い詩瑠玖をそんな風に変えたのはこいつなんだよ!




